
「オプジーボ」近く適応拡大 胃がん市場、急拡大へ…「向こう10年で6倍」予測も
画期的な作用機序と一部患者に対する高い治療効果、そして高額な薬価で注目を集める免疫チェックポイント阻害薬。がん領域で急速に開かれていく新市場をめぐり、▽小野薬品工業と米ブリストル・マイヤーズスクイブ▽米メルク▽英アストラゼネカ▽スイス・ロシュ▽米ファイザーと独メルク――の5つの陣営が開発競争を繰り広げています。
免疫チェックポイント阻害薬は、その作用機序から多くのがん種への効果が期待されるだけに、多くの開発プログラムが進行しています。日本国内での最新の開発状況を整理しました。
INDEX
現在、国内で主に開発が進められている免疫チェックポイント阻害薬は▽抗CTLA-4抗体▽抗PD-1抗体▽抗PD-L1抗体――の3種類です。腫瘍免疫に関連する薬剤ではこのほか、免疫細胞を活性化する分子に対する抗体医薬も臨床試験に入っているものもあります。
それぞれの作用機序を簡単に見ていきます。
抗CTLA-4抗体は、免疫細胞表面のCTLA-4というタンパク質を標的とした抗体医薬です。
免疫細胞は、抗原提示細胞である樹状細胞からがん抗原の提示を受けると働きが活発になり、それを目印にがん細胞を攻撃します。ところが、抗原提示を受ける際、免疫細胞のCTLA-4に樹状細胞のB7というタンパク質が結合すると、逆に免疫細胞の働きが抑制され、がん細胞を攻撃できなくなります。そこで、CTLA-4に結合してB7との結合を防ぐのが抗CTLA-4抗体。ブリストル・マイヤーズの「ヤーボイ」(イピリムマブ)がこれにあたります。
一方、抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体は対の関係にあります。
がん細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1に結合すると、免疫細胞の働きが抑制されます。抗PD-1抗体は免疫細胞のPD-1に結合し、PD-L1との結合を阻害。抗PD-L1抗体は、がん細胞が出すPD-L1に結合し、PD-1との結合を阻害します。
小野薬品工業/米ブリストル・マイヤーズスクイブの「オプジーボ」(ニボルマブ)や米メルク(MSD)の「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)は抗PD-1抗体。独メルク/米ファイザーの「バベンチオ」(アベルマブ)と、スイス・ロシュ/中外製薬の「テセントリク」(アテゾリズマブ)、英アストラゼネカの「イミフィンジ」(デュルバルマブ)は抗PD-L1抗体です。
腫瘍免疫の領域で幅広い提携を結ぶ小野薬品工業と米ブリストル・マイヤーズスクイブ。2014年9月には小野薬品が「オプジーボ」を悪性黒色腫の適応で世界に先駆けて発売。翌15年8月にはブリストルが「ヤーボイ」を同じ適応で発売し、国内の免疫チェックポイント阻害薬市場をリードしてきました。
「オプジーボ」はこれまでに、非小細胞肺がん(15年12月)、腎細胞がん(16年8月)、古典的ホジキンリンパ腫(同年12月)、頭頸部がん(17年4月)、胃がん(サードライン、同年9月)で承認。18年8月には、悪性胸膜中皮腫と悪性黒色腫の術後補助療法の2つの適応拡大が承認されました。
同時に、「1回240mgを2週間間隔」への用法・用量の変更も承認。これまでは「1回3mg/kg(体重)を2週間間隔」でしたが、この変更によって投与が簡便になるとともに、残薬の削減にもつながると期待されます。このほか、食道がんなど7つの適応で臨床第3相(P3)試験が行われています。
「オプジーボ」と「ヤーボイ」の併用療法では、18年5月に悪性黒色腫の適応で承認を取得。18年8月には腎細胞がんの適応でも承認されました。このほか、非小細胞肺がんなど5つの適応でP3試験が行われています。
米メルク(日本法人はMSD)が開発を進めているのは、抗PD-1抗体「キイトルーダ」。16年9月に悪性黒色腫の適応で、16年12月にはPD-L1陽性の非小細胞肺がんの適応で承認を取得しました。「オプジーボ」の薬価をめぐる議論のあおりを受けて発売が先送りされていましたが、17年2月に満を持して発売されました。
非小細胞肺がんのファーストラインを対象とした臨床試験では、ライバルの「オプジーボ」が化学療法に対する優越性を示せなかったのに対し、「キイトルーダ」はPD-L1高発現の患者で無増悪生存期間を有意に延長しました。18年12月には、非小細胞肺がんで化学療法との併用療法が承認。同じタイミングで、PD-L1低発現の非小細胞肺がんにも単剤療法で使えるようになりました。
そのほかのがん種では、古典的ホジキンリンパ腫(17年11月)と尿路上皮がん(17年12月)で承認。18年12月には「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がん」でも承認されました。がん種を問わず共通のバイオマーカーで承認されたがん治療薬としては国内初です。
2014年に腫瘍免疫領域で提携を結んだ独メルクとファイザー。独メルクが創製し、両社で共同開発する抗PD-L1抗体「バベンチオ」は、2017年9月、メルケル細胞がんの適応で承認を取得しました。抗PD-L1抗体としては国内初。メルケル細胞がんは、神経終末部近くの皮膚最表層にできるがん細胞に由来する希少がん。頭頸部や腕など、日光にさらされることが多い部位の皮膚に発症します。日本での患者数は100人に満たないとされています。
適応拡大では、卵巣がんと尿路上皮がん、頭頸部がんでもP3試験が進行中。肝細胞がん、非小細胞肺がんでもP1試験が行われています。
ロシュグループが開発を進めているのは、抗PD-L1抗体「テセントリク」。日本での開発は同グループの中外製薬が担っています。2018年1月、抗PD-L1抗体としては国内で初めて、非小細胞肺がん(2次治療)の適応で承認を取得。18年12月には、化学療法未治療の患者を対象に、カルボプラチン、パクリタキセル、ベバシズマブとの併用療法が承認されました。
申請中の適応は、小細胞肺がんと乳がんの2適応。現在P3試験の段階にあるのは10適応で、直近では早期乳がんを対象としたP3試験が始まりました。
アストラゼネカは、抗PD-L1抗体デュルバルマブと抗CTLA-4抗体トレメリムマブを開発中。PD-1またはPD-L1とCTLA-4という2つの免疫チェックポイントに対する開発品を持つのは、小野薬品・ブリストル陣営とアストラゼネカのみ。1社単独ではアストラゼネカだけです。
18年8月には、デュルバルマブが「イミフィンジ」の製品名で、ステージIIIの非小細胞肺がんを対象に発売。ステージIIIに使える免疫チェックポイント阻害薬は初めてで、近年ほとんど進歩がなかったステージIIIの非小細胞肺がん治療に大きなインパクトを与えました。
開発段階にある12のプロジェクトのうち、イミフィンジとトレメリムマブの併用が8つ(P3段階は6つ)を占めます。イミフィンジは、ステージ3の非小細胞肺がんで化学放射線療法との併用療法の開発がP3段階にあるほか、卵巣がんを対象にPARP阻害薬「リムパーザ」との併用療法の開発を進めています。
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