がん治療の新たな潮流となった免疫チェックポイント阻害薬。その作用機序からさまざまながん種で効果が期待されるだけに、多くの開発プログラムが進行しています。日本国内での最新の開発状況を整理しました。
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「CTLA-4」「PD-1」「PD-L1」9品目が開発中
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞の働きを抑制する「免疫チェックポイント」を標的としたがん治療薬です。免疫チェックポイントにはいくつかの種類がありますが、国内では▽PD-1▽PD-L1▽CTLA-4――の3つ免疫チェックポイントをターゲットとした薬剤が承認されています。
PD-1は免疫細胞の表面にあり、がん細胞表面のPD-L1と結合するとがん細胞に対する攻撃にブレーキがかかります。CTLA-4は免疫細胞の表面にある免疫チェックポイント分子で、これに抗原提示細胞のB7(CD80/CD86)が結合するとがん細胞に対する攻撃力が弱まります。免疫チェックポイント阻害薬はPD-1とPD-L1、CTLA-4とB7の結合を阻害することで、がん細胞が免疫にかけているブレーキを解除し、免疫ががんを攻撃できるようにする薬剤です。
国内では、2014年に小野薬品工業の抗PD-1抗体「オプジーボ」(一般名・ニボルマブ)が登場したのを皮切りに、▽ブリストル・マイヤーズスクイブの抗CTLA-4抗体「ヤーボイ」(イピリムマブ)▽MSDの抗PD-1抗体「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)▽メルクバイオファーマの抗PD-L1抗体「バベンチオ」(アベルマブ)▽中外製薬の同「テセントリク」(アテゾリズマブ)▽アストラゼネカの同「イミフィンジ」(デュルバルマブ)――の計6製品が販売されています。
これら6つの薬剤が適応拡大に向けた臨床試験を活発に行っているほか、アストラゼネカの抗CTLA-4抗体トレメリムマブ、ノバルティスファーマの抗PD-1抗体スパルタリズマブ、サノフィの同セミプリマブの3つが新規成分として開発中。大鵬薬品工業は2020年2月に米アーカス・バイオサイエンシズから抗PD-1抗体の日本・アジアでの開発・販売権を獲得しており、開発に乗り出す見通しです。
【小野/ブリストル】オプジーボ(ニボルマブ)/ヤーボイ(イピリムマブ)
腫瘍免疫の領域で幅広い提携を結ぶ小野薬品工業と米ブリストル・マイヤーズスクイブ。2019年9月に小野薬品が「オプジーボ」(ニボルマブ)を悪性黒色腫の適応で世界に先駆けて発売し、翌15年8月にはブリストルが「ヤーボイ」(イピリムマブ)を同適応で発売。18年5月には免疫チェックポイント阻害薬初の併用療法として両剤の併用が承認されました。
オプジーボはこれまでに、非小細胞肺がんや胃がんなど9つのがん種で承認されており、直近では20年2月に「化学療法後に増悪した根治切除不能な進行・再発の食道がん」「化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸がん」の2つの適応拡大の承認を取得しています。
このほか、非小細胞肺がんに対する化学療法併用での1次治療(20年2月申請)と胃がんに対する化学療法併用での1次治療(20年5月申請)、腎細胞がんに対するキナーゼ阻害薬カボザンチニブ(武田薬品工業)をとの併用療法(20年10月申請)を申請中。小細胞肺がんや肝細胞がんなど8つのがんを対象に臨床第3相(P3)試験を行っています。P2試験を行っている胆道がんでは、世界に先駆けて日本で承認申請を行う新薬の審査期間を短縮する「先駆け審査指定制度」の対象に指定されています。
20年度下期には、食道がん(アジュバント)、尿路上皮がん(同)、胃がん(同)、非小細胞肺がん(ネオアジュバント)などでの申請を予定しています。
オプジーボとヤーボイの併用療法は、悪性黒色腫と腎細胞がん、MSI-High結腸・直腸がんの3適応で承認。▽非小細胞肺がんに対する1次治療(19年12月申請)▽非小細胞肺がんに対する化学療法併用での1次治療(20年3月申請)▽悪性胸膜中皮腫(20年10月申請)――の3適応でも申請中です。
オプジーボは、ヤーボイだけでなく、ブリストルの複数のがん免疫療法薬との併用療法を開発中。IDO1阻害薬「ONO-7701」との併用療法が膀胱がんを対象にP3試験に入っているほか、抗CSF-1R抗体「ONO4687」との併用療法も開発の後期段階に進んでいます。
【米メルク】キイトルーダ(ペムブロリズマブ)
米メルク(日本法人はMSD)が開発している抗PD-1抗体「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)は、2016年9月に悪性黒色腫の適応で、16年12月に非小細胞肺がんの適応で承認。17年2月にこれら2適応で発売されました。
このほか、これまでにホジキンリンパ腫や尿路上皮がん、腎細胞がん、頭頸部がんなどでも承認されており、直近では20年8月に、食道扁平上皮がんで承認を取得しました。18年12月にはMSI-Highの固形がんでも承認され、がん種を問わず共通のバイオマーカーに基づく適応で承認された国内初のがん治療薬となりました。
国内では現在、トリプルネガティブ乳がんへの適応拡大を申請中。一方、胃がんでの申請は当局との協議も踏まえて一旦取り下げました。グローバルで提携を結ぶエーザイの抗がん剤「レンビマ」との併用療法も、非小細胞肺がんや子宮内膜がんなどでP3試験に入っています。
【独メルク/ファイザー】バベンチオ(アベルマブ)
独メルクが創製し、ファイザーと共同開発する「バベンチオ」(アベルマブ)は、2017年9月に国内初の抗PD-L1抗体としてメルケル細胞がんの適応で承認を取得しました。メルケル細胞がんは、神経終末部近くの皮膚最表層にできるがん細胞に由来する希少がん。頭頸部や腕など、日光にさらされることが多い部位の皮膚に発症します。日本での患者数は100人に満たないとされています。
19年12月には、腎細胞がんに対するアキシチニブとの併用療法への適応拡大が承認。20年5月には尿路上皮がんへの適応拡大を申請しました。ほかにも、頭頸部がんなど3つの適応でP3試験を行っています。
【ロシュ/中外】テセントリク(アテゾリズマブ)
ロシュグループ(日本は中外製薬)が開発を進めている抗PD-L1抗体「テセントリク」(アテゾリズマブ)は、2018年1月に非小細胞肺がんに対する2次治療の適応で承認。同年12月には1次治療に対する化学療法との併用療法が承認されました。
その後、19年8月に進展型小細胞肺がん、同年9月にはトリプルネガティブ乳がんへの適応拡大が承認。20年9月には、肝細胞がんでも承認されました。このほか、非小細胞肺がんに対するアジュバント療法などでP3試験が行われており、一部は抗TIGIT抗体RG6058との併用療法が検討されています。
20年には、卵巣がんと尿路上皮がんでの申請を予定。21年には早期乳がんで申請する予定です。
【アストラゼネカ】イミフィンジ(デュルバルマブ)/トレメリムマブ
アストラゼネカは、抗PD-L1抗体「イミフィンジ」(デュルバルマブ)と抗CTLA-4抗体トレメリムマブを開発中。イミフィンジは2018年8月にステージIIIの非小細胞肺がんを対象に発売されました。
20年8月には、進展型小細胞肺がんへの適応拡大を申請。ほかにも、ステージIIIの非小細胞肺がん(化学放射線療法併用)や筋層浸潤性膀胱がん(化学療法併用)、子宮頸がん(単剤)、ステージI/IIの非小細胞肺がん(単剤)などへの適応拡大に向けてP3試験を実施中です。自社のPARP阻害薬オラパリブ(製品名・リムパーザ)との併用療法も卵巣がんや非小細胞肺がんを対象に開発しています。
トレメリムマブはイミフィンジとの併用療法を中心に開発中。非小細胞肺がんや頭頸部がん、尿路上皮がんなどでP3試験を実施中です。
【ノバルティス】スパルタリズマブ
ノバルティスが開発を進めているのは、抗PD-1抗体スパルタリズマブ(開発コード・PDR001)。BRAF遺伝子変異陽性の悪性黒色腫を対象に、BRAF阻害薬「タフィンラー」(ダブラフェニブ)/MEK阻害薬「メキニスト」(トラメチニブ)との併用療法でP3試験を行っています。
【サノフィ】セミプリマブ
仏サノフィは、抗PD-1抗体セミプリマブを開発中。海外では18年に「Libtayo」の製品名で皮膚扁平上皮がんを対象に承認されました。
日本では現在、子宮頸がんと皮膚扁平上皮がんを対象にP3試験、非小細胞肺がんを対象にP1試験が行われています。
(前田雄樹)
(公開:2016年7月27日/最終更新:2020年10月28日)
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