ここ数年、「国内売上高トップ3入り」を掲げて事業を展開してきたヤンセンファーマ。2021年に一時4位まで浮上したものの、目標にはいまだ到達できていません。主力製品が成熟期を迎えたことで昨年以降、成長は鈍化していますが、今後5年間で再びアクセルを踏み込み、29年の達成を目指します。
27年から2桁成長回復
ヤンセンの関口修平社長と、米ジョンソン・エンド・ジョンソン イノベーティブ・メディスン(医療用医薬品事業)のグローバル研究開発総責任者を務めるジョン・C・リード氏は10月4日、東京都内で記者会見し、新薬開発戦略や日本事業の現状と将来展望を説明。27年以降は2桁成長を回復するとの見通しを明らかにするとともに、ポジションクローズで削減した人員も新たな治療領域への参入にあわせて増やしていく可能性にも言及しました。
ヤンセンの日本事業の業績は拡大傾向にあります。過去5年の実績を決算公告で振り返ってみると、19年に2000億円強だった売上高は、その後の3年間で5割近く増加。抗がん剤「ザイティガ」や乾癬などの治療薬「ステラーラ」といった新薬が貢献しました。ただ、これらの主力製品は成熟期に入っており、23年は前期比2.9%増と鈍化(同社発表の薬価ベースの売上高では4%増)。今年も傾向は変わらず、今後も26年まで1桁成長が続くとみられます。
同社は25年だけで10件の承認取得(新規有効成分と適応拡大の合計)を予定しており、29年までに計50の承認を計画。相次ぐ新薬の投入で、27年以降は再び2桁成長に向かうとみています。軸となるのは「がん」「免疫疾患」「精神・神経疾患」の各領域で、29年には売上高の4割以上を今後発売する新薬が占める想定です。
2000年代初頭は国内25位前後だった同社の売上高は、21年に4位まで上昇(IQVIA調べの処方薬売上高ランキング)。ただ、関口社長がかつて話していた「24年に国内トップ3入り」の達成は難しそうです。関口氏はその理由について「既存ポートフォリオが成熟化し、複数の製品が薬価の再算定を受けたため」と説明。今年4月の薬価改定では、ステラーラと抗がん剤「イムブルビカ」が適応拡大に伴う市場拡大再算定を受け、同「アーリーダ」はいわゆる共連れで薬価を引き下げられました。
27年以降は高成長の回復が見込まれており、関口氏は「しっかりとケイパビリティを築いていくことで、29年に(3位は)達成可能だと思うしし、目指したい」と話しました。主力品の特許切れがあるものの、新製品に舵を切りながら後れを挽回できるとしています。
「ダラキューロ」好調
現在のヤンセンの主力品は、ザイティガとステラーラに多発性骨髄腫治療薬「ダラキューロ」を加えた3製品。皮下注のダラキューロは静注の従来品「ダラザレックス」からの置き換えが進んでいます。ピーク時に薬価ベースで370億円の販売を予想しており、今後も事業を牽引する役割を担います。多発性骨髄腫の領域では、BCMAとCD3を標的とするT細胞リダイレクト二重特性抗体テクリスタマブを今年5月に申請。将来的にはすべての治療ラインで薬剤を提供していく考えです。
多発性骨髄腫では、22年9月にCAR-T細胞療法「カービクティ」の承認を取得しましたが、いまだ発売に至っていません。同社は「複雑な製造工程への対処、社外協力会社との提携の推進、製造拡大に向けた複数の施設への投資など、さまざまな取り組みを行っている」としています。
ステラーラは、提携先の田辺三菱製薬が24年3月期に計上した売上収益が653億円に上る大型品。ただ、今年5月には富士製薬工業からバイオシミラーが発売され、今期は2桁減の583億円を予想しています。販売体制は、クローン病や潰瘍性大腸炎への適応拡大を申請中の「トレムフィア」にシフトしており、競合の激しい領域で存在感を維持したい考えです。
ザイティガにも昨年8月、後発医薬品が承認されました。ただ、承認を取得した6社すべてが同年12月、今年6月と2回連続で薬価収載を見送っています。後発品各社が起こしていた特許無効審判は後発品の承認前に取り下げされていることから、何らかの和解が成立したことも考えられ、それが発売日に影響している可能性もあります。関口社長は「ザイティガは足元では成長していない。(同じ適応の)アーリーダにフォーカスする形で進めている」と話します。
記者会見で日本事業の現状と展望などを語ったヤンセンファーマの関口修平社長(左)と米ジョンソン・エンド・ジョンソン イノベーティブ・メディスンのグローバル研究開発総責任者ジョン・C・リード氏
ポジションクローズ「当時の方針で組織見直さざるを得なかった」
事業拡大に伴い、営業体制も強化する方針です。同社は22年から23年にかけて「ポジションクローズ」の名の下に一部の従業員に退職を促しました。関口氏は「当時の経営方針に沿って組織を見直さなければならなかった。(退職は)ほぼ計画通りに進んだ」とし、「この先、大規模な人員削減は考えていない」と説明。今後は、肺がんなど新たな領域に参入していくことも踏まえ、「むしろ営業の人員は増えていくのではないか」と見通しました。即戦力として外部からの採用を進めるほか、異動によって社内の人員を最大限活用することも検討します。
日本向けの研究開発では「この10年で40製品を市場に投入」(リード氏)しており、直近では9月に非小細胞肺がんに対する抗EGFR/MET二重特異性抗体「ライブリバント」の承認を取得。薬価収載を待たずに患者に提供する「倫理的無償供給プログラム」を開始しています。
外資系企業が日本に新薬を投入するにあたっては、薬価制度がひとつのネックとされてきましたが、4月の薬価制度改革はポジティブに受け止めています。関口氏は「日本市場の魅力が上がることで、(日本の)ニーズに合った開発戦略をグローバルに訴求していきたい」とし、イノベーション評価が充実したことで「日本市場に対する社内の見方が変わっていることを肌で感じている」と話しました。