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バイオシミラー 市場拡大の兆し―千寿のラニビズマブ 今期シェア80%超へ、日本化薬は再び100億円事業に

更新日

穴迫励二

政府による数量シェア目標の設定と診療報酬による後押しで市場拡大の兆しが見えてきたバイオシミラー(BS)。浸透度合いはまだ成分によってまちまちですが、かつてのような品質面での不安は薄れつつあります。販売各社の2023年度の実績や24年度の予想を見ると、短期間でシェア80%を超える品目も出てきています。

 

 

ラニビズマブBS、同種新薬からの置き換えも

BSの中でも顕著な立ち上がりを見せるのが、21年12月に千寿製薬が1社単独で発売した眼科用VEGF阻害薬ラニビズマブ(先行品名・ルセンティス)です。短期間で急速に医療現場に浸透しており、23年度の売上高は50億円(見込み)に到達。成分内でのシェアは今年4月時点で66%に達しました。発売以来、糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫などの適応追加が市場拡大を後押ししています。競合するBSはなく、薬価は先行品の72%を保っています。

 

今年度も勢いは続きます。同社は「売上高は82.8億円を計画。シェアは80%を超えることになる」(池田修造・医薬マーケティング本部副本部長)としており、中外製薬が2年前に発売した「バビースモ」など同種の新薬からの置き換えも狙っています。先行品ルセンティスの競合である「アイリーア」には今秋にもBSが薬価収載される見込みですが、承認を取得したグローバルレギュラトリーパートナーズ社は、先行品の主な適応症である「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」を特許の関係で取り下げました。

 

同じく単独参入となった持田製薬の持続型G-CSF製剤ペグフィルグラスチム(ジーラスタ)は、23年11月の発売からわずか3カ月半で限定出荷となり、現時点では解除の見通しが立っていません。同社の23年度決算によると、発売4カ月あまりで15億円(併売するニプロへの供給分を含む)を売り上げ、需要の高さがうかがえます。先行品を販売する協和キリンは今期の予想を36%減の205億円としており、供給体制が整えばBSの普及が加速しそうです。

 

持田は骨粗鬆症治療薬テリパラチド(フォルテオ)も単独販売しており、23年度の売上高は前期比1億円減の46億円、シェアは約60%に到達しました。厚生労働省は昨年、BSについて「29年度までに置き換え率が80%以上の成分の割合を60%以上とする」という目標を設定しました。同社は80%到達について「最近は足踏み状態。現実的には難しいかもしれない」(広報)との見方を示しています。

 

【単独参入したBSの売上高】〈年度/ラにビズマブ/テリパラチド〉19/0/3|20/0/28|21/5/43|22/22/47|23/50/46|24/82.8/-|※24年度は予想で、テリパラチドは非開示。決算資料などを基に作成

 

アイリーアにもバイオAG発売の可能性

協和キリン子会社が国内で唯一販売するバイオAG(オーソライズド・ジェネリック)「ダルベポエチンアルファ」(ネスプ)は、19年8月の発売から短期間で市場を塗り替えました。バイオAGは、先行品との同一性によって低分子のAG以上に市場競争で有利だと言われますが、健全な競争を阻害し、薬価を高止まりさせるとの批判もあります。診療報酬上の加算も対象外です。

 

ネスプAGは、診療報酬が包括化された透析医療で使用される薬剤であることもあり、発売翌年の20年には売上高が252億円と先行品の44億円を圧倒。以降は価格競争や薬価改定の影響で売り上げは減少していますが、低分子薬より品質が問われるバイオシミラーでAGへの高い信頼感を見せつけました。

 

ただ、協和キリンはジーラスタへのAG投入には否定的です。一方で今秋にはアイリーアのバイオAGが発売される可能性があり、動向が注目されています。

 

【ネスプとAGの売上高】〈年度/ネスプ/AG〉18/537/0|19/336/140|20/44/252|21/40/223|22/34/176|23/32/140|24/28/117|※24年度は予想。決算発表資料などを基に作成

 

日本化薬、自社製造に意欲

国内製薬企業の中でいち早くBS事業に取り組んだ日本化薬は、23年度のBSの売上高が前年度比7億円増の99億円と、以前達成した大台が再び迫ってきました。

 

当初苦戦した抗TNFα抗体インフリキシマブ(レミケード)は、5社が競合する中でシェアが30%まで上昇。抗がん剤トラスツズマブ(ハーセプチン)は約60%に達しました。4番手で参入した同ベバシズマブ(アバスチン)は10%まで浸透し、抗TNFα抗体アダリムマブ(ヒュミラ)は数ある適応の一部で切り替えが進んでいるとしています。

 

今期は、入院医療での「バイオ後続品使用体制加算」の新設など診療報酬の後押しも見込み、売上高予想を過去最高に並ぶ104億円としています。拡大基調にある中で中期的に課題となるのは生産体制です。国内のBSのほとんどが海外からの輸入品で、同社は「事業としての損益はタイトだが、可能であればバイオ製剤のラインに投資したい」(島田博史常務執行役員)と自社製造に乗り出す考えを示しています。後発医薬品と同様に、安定供給はBSの信頼向上に向けた最大のテーマと言えます。

 

【日本新薬 BSの売上高】〈年度/売上高〉18/33|19/54|20/104|21/103|22/92|23/99|24/104|※24年度は予想。日本火薬の決算発表資料を元に作成

 

アダリムマブは浸透に時間

BSの中には浸透に時間を要しているものもあります。例えば、アダリムマブは21年2月に第1号となるBSがヴィアトリス製薬から発売(承認は協和キリン富士フイルムバイオロジクス)されましたが、先行品の売上高は21年度が14億円減の506億円、22年度も34億円減の472億円と踏みとどまりました。23年度は6月に共同プロモーション契約が終了し、販売がエーザイからアッヴィに移管されたため売上高は開示されなくなりましたが、23年(1~12月)の売り上げは「前年並み」(アッヴィのジェームス・フェリシアーノ社長)だったといいます。

 

アダリムマブには第一三共、持田製薬、日本化薬/セルトリオン・ヘルスケア・ジャパンと相次いでBSが参入していますが、いまだに大きなシェアを奪えていません。要因の1つに挙げられるのは適応症の違いで、先行品が持つ12の適応症のうち、BSには化膿性汗腺炎と壊疽性膿皮症の適応がありません。

 

フェリシアーノ氏はヒュミラについて「相変わらず収益基盤の1つ」と強調。BSに追い風が吹く今年度は「予測は難しいが、新規患者への処方は期待していない。そこでの利用率は下がってくると思う」と見通しています。

 

BS3番手ながらアッヴィが16年に発売した高濃度製剤に対応した持田製薬は、販売提携先のあゆみ製薬の売上高(薬価ベース)が23年度に17億円に増加(前年度は9億円)。シェアを4%程度に伸ばしました。今年度は4月に18.8%の薬価引き下げを受けたものの、浸透の加速を期待しています。供給体制は現在のところ不安はないとしていますが、急激な需要への対応が課題になるかもしれません。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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