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ニュース解説

糖尿病・肥満症治療薬好調の外資2社、日本市場でも成長加速…ノボとリリー、GLP-1で真正面から競合

更新日

穴迫励二

(写真:ロイター)

 

ノボノルディスクファーマと日本イーライリリーが、2023年の国内業績を発表しました。両社ともGLP-1受容体作動薬が成長を左右する局面にあり、ノボは過去最高の売上高を更新。経口剤の投入で売り上げ拡大に拍車がかかる糖尿病とともに、海外で爆発的に市場が広がる肥満症の適応も成長を後押ししています。

 

 

ノボ、売り上げ過去最高更新

ノボの23年の売上高は1298億円(前年比8.5%増)で、過去最高を更新。過去5年間の年平均成長率は8.3%に達しました。業績を牽引するのは糖尿病治療薬で、市場での同社のシェアは19年の10.1%から23年には16.7%に上昇。GLP-1製剤に限ると約80%のシェアを握っています。かつては「ビクトーザ」だけでしたが、20年以降、セマグルチドを有効成分とする注射の「オゼンピック」と経口の「リベルサス」を投入。特に、リベルサスは経口の強みを生かして市場の5割程度を押さえるまでに浸透しています。

 

IQVIAの統計によると、23年の「糖尿病治療剤」の市場は7147億円で、「抗腫瘍剤」(1兆9368億円)に次ぐ規模となっています。その中でもGLP-1製剤は過去3年間で倍増し、1070億円と大台を突破しました。市場規模とシェアから推測すると、リベルサスの売上高は500億円程度となり、発売から3年余りでノボのトップ製品に立ちました。

 

セマグルチドが牽引

オゼンピックとリベルサスに加えて、今年2月にはセマグルチドとして3つ目の製品となる肥満症治療薬「ウゴービ」が発売。ピーク時の売上高は薬価ベースで328億円を見込んでいます。処方にあたっては、厚生労働省の「最適使用推進ガイドライン」で医師・施設の要件や対象患者の基準が定められており、対象患者についてはBMIや合併症の有無以外にも▽食事・運動療法に基づく治療計画を策定して6カ月以上実施する▽この間に2カ月に1回以上の頻度で管理栄養士による指導を受ける――とされています。

 

関連記事:肥満症治療薬「ウゴービ」日本でも発売…成長市場に先陣、開発急ぐ製薬大手

 

ただ、投与前に患者本人による食事・運動療法ができていると判断されれば投与することも可能で、同社のキャスパー・ブッカ・マイルバン社長は4月に開かれた業績発表会見で、「事前に食事・運動療法を始めていれば、すぐに処方されるケースもある」と話しました。

 

ノボノルディスクファーマのキャスパー・ブッカ・マイルバン社長

 

世界売上高は、ウゴービが前年比5倍増の45億ドル(約7000億円)、オゼンピックは60%増の144憶ドル(約2兆2300億円)、リベルサスも66%増の28億ドル(約4300億円)に到達。セマグルチドを有効成分とする3剤で200億ドルを優に超えています。有病率など海外市場との違いはあるものの、肥満の適応は日本でもGLP-1製剤の売上高を拡大させる原動力となるでしょう。

関連記事:【チャートで見る】海外製薬大手2023年業績―主力製品売上高編

 

【ノボノルディスクとイーライリリー日本法人の売上高】〈年/ノボ/イーライリリー〉(単位:億円)18/873/2,452/19/885/2,532/20/978/2,513/21/1,092/2,309/22/1,196/1,846/23/1,298/1,954

 

リリーのマンジャロ、限定出荷解除へ

日本イーライリリーの23年売上高は1954億円(5.9%増)。過去3年は減収が続いていましたが、新製品群の牽引でプラスに転じました。トップ製品はSGLT2阻害薬「ジャディアンス」(薬価ベース売上高592億円)ですが、これは日本ベーリンガーインゲルハイムがオリジンの共同販促品。自社品のGLP-1製剤「トルリシティ」は32.0%減の224億円にとどまりました。

 

そうした中で期待がかかるのが、GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」です。世界的な品薄から限定出荷が続いていますが、23年4月の発売から9カ月で55億円(薬価ベース)を販売。流通・販売を担当する田辺三菱製薬が発表した24年3月期売上高は78億円(同)でした。

 

同薬は22年6月に米国で発売され、23年には世界で52億ドル(約8000億円)と爆発的な売り上げとなっています。そのため供給が需要に追いついておらず、日本もその影響を受けてきました。リリー日本法人のシモーネ・トムセン社長は5月8日の業績発表会見で、「前例のない需要が全世界で発生した」と説明し、「全世界で6工場に投資している」と増産対応を進めていることを強調。限定出荷は6月4日で解除されることが決まり、国内ピーク時売上高予想367億円に向けて処方の伸びが注目されます。

 

日本イーライリリーのシモーネ・トムセン社長

 

経口GLP-1が開発の最終段階に

マンジャロの有効成分であるチルゼパチドは、23年11月に米国と英国で肥満症治療薬としての承認を取得(製品名・ゼップバウンド)。日本でも承認申請を済ませており、ウゴービとの競合が始まります。市場はパイの奪い合いではなく相乗効果で拡大を続けそうで、日本リリーの吉川彰一シニアバイスプレジデントは「以前とは異なり肥満は積極的に治療する流れに変わってきている」との見方を示しています。同社は肥満症の適応でも田辺三菱と組んで市場浸透を図る構えです。

 

リリーは自社の研究開発の現状について「リリーの歴史において前例のない豊富な新薬開発パイプライン」としています。それを支えるのが糖尿病・肥満領域で、経口GLP-1製剤のオルフォルグリプロン(一般名)は臨床第3相試験が進行中。効果はマンジャロには及ばないものの、服用の制限がなく利便性の向上が期待され、同薬を含むGLP-1製剤が業績拡大の牽引役となることは間違いなさそうです。

 

シモーネ・トムセン社長は従来から、事業の中心となる5つの領域すべてでリーダー的存在になると強調してきました。マンジャロとオルフォルグリプロンの投入で、ウゴービなどセマグルチド3剤を持つノボとの真正面からの競合が始まりそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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