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肥満症治療薬「ウゴービ」日本でも発売…成長市場に先陣、開発急ぐ製薬大手

更新日

穴迫励二

社会的にも高い関心が寄せられているノボノルディスクファーマの肥満症治療薬「ウゴービ」が2月22日発売されました。セマグルチドを有効成分とするGLP-1受容体作動薬で、承認取得から11カ月、薬価収載から3カ月を経てようやく患者の元に届きます。使用にあたっては、処方できる医療機関・医師や対象患者の要件が定められ、一定の制限はかかりますが、新たな肥満症治療薬の第1弾として市場を創造していく役割を担います。

 

 

ピーク時328億円予測、適正使用を重視

ウゴービの投与対象となるのは、肥満症で高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかに罹患しており、▽BM1が27㎏/㎡以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害がある▽BM1が35㎏/㎡以上――のいずれかに該当する患者。規格は、開始用量の0.25mgから最大用量の2.4mgまで5つあり、薬価は1876円~1万740円となっています。投与開始5カ月目からは週1回2.4mgを継続することになるため、1カ月(4週間)の薬剤費は4万2960円。患者の自己負担は、3割の場合、約1万2900円となります。

 

薬価収載にあたり厚生労働省は、施設要件などを定めた「最適使用推進ガイドライン」を作成。保険診療での適正使用に目を光らせます。2019年の国民生活基礎調査によると、肥満症で通院している患者は推計約57万人。一方、ノボは医師から肥満症と診断されているのは33万人としています。中央社会保険医療協議会(中医協)の資料によると、ウゴービの市場規模予測は発売5年度目のピーク時で328億円(投与患者数10万人)です。ただ、同じGLP-1製剤の糖尿病治療薬「トルリシティ」が急速な立ち上がりを見せたように、予想を超えて市場が広がる可能性は否定できません。

 

WHO(世界保健機関)によると、世界の成人肥満人口は6億5000万人を超え、1975年の3倍に増加しています。過体重も13億人に上るとされ、心臓病や糖尿病といった健康障害のリスクを上昇させています。ノボのキャスパー・ブッカ・マイルヴァン社長は発売日に開いた記者会見で、肥満症に関連する合併症を抑えることが医療費の削減につながることを強調。肥満症治療薬は、市場拡大に伴って薬剤費が増加したとしても、結果的に医療保険財政に寄与するとの考えを示唆しました。

 

ノボノルディスクファーマのキャスパー・ブッカ・マイルヴァン社長

 

当面の課題となるのは旺盛な需要に対応できる製品供給能力があるかどうかです。

 

米国ではGLP-1製剤の品薄が続いており、日本にもその余波が及んでいます。ノボの清水真理子肥満症事業本部長は会見で「24年の需要を予測して準備している」と説明しましたが、具体的な供給量には言及せず、現時点ではどれだけの患者が治療を受けられるかは不明です。また、ダイエット目的などで適応外使用する医療機関に対しては、MRが直接訪問して適正使用に関する説明を行い、それでも改善しない場合は「積極的な販促活動をしない」としているものの、治療が必要な患者にきちんと製品が行き渡るかは不安が残ります。

 

ノボノルディスクファーマの清水真理子肥満症事業本部長

 

ノボは米国で新規患者への処方を制限する一方で、製造能力の強化に向けてCDMOの米キャタレントを165億ドル(約2兆4750億円)で買収すると発表。さらに、今後5年間で製造設備に8000億円規模の投資を行う方針ですが、十分な供給量を確保できるようになるにはもう少し時間を要しそうです。

 

リリーの2新薬が国内P3、塩野義も「トップスピードで開発」

世界市場に目を向けると、ノボは21年6月にセマグルチドを製品名「Wegovy」として米国で発売。23年のグローバル売上高は313億デンマーク・クローネ(約6859億円、前年比407%増)と一気に膨れました。肥満症治療薬は、ノボのほかにも多くの製薬企業や創薬ベンチャーが開発を手掛けており、市場規模は今後10年で1000億ドル(約15兆円)に達するとの見方があります。

 

日本でも大手数社が開発を進めています。最もステージが進んでいるのは、日本イーライリリーのチルゼパチド(一般名)。23年4月に糖尿病治療薬「マンジャロ」として発売したGIP/GLP-1受容体作動薬で、現在、臨床第3相(P3)試験が進行中です。米イーライリリーのダニエル・スコブロンスキー最高科学・医学責任者は、昨年10月のAnswersNewsのインタビューで、臨床試験で26%の体重減少が認められたことなどを説明し、「非常に高い数値で肥満手術と同じような結果」と答えています。

 

米国と英国では「ゼップバウンド」の製品名で同年11月8日に承認を取得。23年第4四半期の売上高は、発売して実質1カ月程度にもかかわらず1億7580万ドル(約264億円)に達しました。日本でも先行するウゴービとともに市場拡大の牽引役となりそうです。

 

リリーは、中外製薬から導入した経口GLP-1製剤オルフォルグリプロン(一般名)の開発も進めており、現在、グローバルでP3試験を行っています。これまでの臨床試験では投与6カ月間のデータとして15%の体重減少が見られ、GLP-1製剤の注射剤と同じような効果が得られているとしています。

 

ファイザーは昨年12月、経口GLP-1製剤ダヌグリプロン(一般名)の1日2回投与製剤について、P2b試験で吐き気や嘔吐などの有害事象が高頻度で発生したとしてP3試験に進むことを断念したと発表。同社は昨年、並行して実施していたロチグリプロンの開発も中止しています。ダヌグリプロンは今後、1日1回投与製剤として開発を進めることにしており、今年前半に薬物動態データが得られる予定。新たな開発品目であるPF-07976016(開発番号)は、海外でP1試験が行われています。

 

【肥満症治療薬を開発している主な企業】*は一部海外で発売。〈社名/開発品/ステージ〉ノボノルディスク/セマグルチド/発売|イーライリリー/チルゼパチド/P3*|オルフォグリプロン/P3|アムジェン/MARIDEBARTCAFRAGLUTIDE/P2|AMG76|塩野義製薬/S-309309/P2|ファイザー/PF-07976016/P1|ダヌグリプロン/-|ロシュ/RG6640/P1|RG6652/P1|※各社のパイプラインをもとに作成

 

塩野義製薬は中長期の成長ドライバーに位置付けるS-309309(開発番号)が、米国でP2試験に入っています。MGAT2阻害剤というGLP-1受容体作動薬とは異なるメカニズムの経口剤で、小腸上皮細胞にあるトリグリセドを再合成するために必要な酵素を阻害します。「最優先品目としてトップスピードで開発」(同社)しており、P3以降はパートナーを見つけての共同開発・販売が見込まれます。体重減少率はGLP-1製剤ほど大きくなさそうで、実臨床では併用療法も検討されそうです。日本での開発については「時期を含めて詳細は未定」としていますが、米国のP3試験では日本人の被験者を組み入れる可能性もあるといいます。

 

世界を見渡すと、肥満症治療薬には大手製薬企業だけでなくバイオベンチャーも続々と開発に名乗りを上げています。競争は激しくなりそうですが、1000億ドル市場が予測されるだけに多くのシェアを取れなくても開発・上市のメリットは高いと判断しているようです。開発する各社がいずれも肥満症治療薬を成長ドライバーに期待するように、日本でも複数の新薬上市による市場の拡大が予想されます。ウゴービはその牽引役に位置付けられるでしょう。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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