海外の大手製薬企業20社の2023年の業績を、▽売り上げ・利益▽研究開発費▽主力製品売上高▽疾患領域・事業別売上高▽地域別売上高――の5つの切り口からチャートで解説します。
【チャートで見る】海外製薬大手2023年業績 |
ファイザー、プライマリ領域の売り上げ急減
海外の大手製薬企業20社のうち、2023年の決算で疾患領域または事業ごとの売上高を公表した17社について、その売り上げ構成をチャートにまとめました。
売上高トップのロシュは、がん領域で売り上げの32%を稼ぎ、神経と免疫も1割超。血友病Aは中外製薬創製の「ヘムライブラ」のみですが、売上高は前年比8%増で構成比も7%と存在感を高めています。
米メルクは疾患領域別の売上高を公表していません。全体の89%は医薬品事業で、動物薬が9%。主力の免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」は250.11億ドルを売り上げており、少なくとも医療用医薬品事業のおよそ半分をがん領域が占めることになります。
米ファイザーは、新型コロナウイルスワクチン・治療薬の需要減速でプライマリケアの売上高が58%減少。構成比は52%と、前年の73%から大きく縮小しました。スペシャリティケアでは、アミロイドーシス治療薬「ビンダケル」が好調です。
米ジョンソン・エンド・ジョンソンは、感染症と循環器/代謝/その他の領域を除く4領域で増収。稼ぎ頭は免疫とがんで、それぞれ医療用医薬品事業の売上高全体の3割ずつを売り上げる構造となっています。免疫領域では乾癬・潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「ステラーラ」が、がん領域では多発性骨髄腫治療薬「ダラザレックス」が売り上げを伸ばしています。
アストラゼネカやノバルティス、主要領域好調
米アッヴィは、主力の免疫領域が抗TNFα抗体「ヒュミラ」の特許切れで減収。がん領域ではBTK阻害薬「イムブルビカ」の売り上げ減が響きました。唯一増収となった神経領域では、ボツリヌス毒素製剤「ボトックス」や抗精神病薬「Vraylar」が伸びています。
仏サノフィは、100億ドル製品となったアトピー性皮膚炎などの治療薬「デュピクセント」を含むスペシャリティケアが好調。ワクチン事業には、日本でも今年3月に承認されたRSウイルス感染症予防薬「ベイフォータス」が含まれます。
英アストラゼネカは、ワクチン・免疫を除く主要4領域がすべて増収。がん領域ではEGFR阻害薬「タグリッソ」や免疫チェックポイント阻害薬「イミフィンジ」などが好調です。循環器・腎・代謝領域では、SGLT2阻害薬「フォシーガ」が大きく売り上げを伸ばしています。
スイス・ノバルティスも、エスタブリッシュドブランドを除く主要4領域すべてで増収となりました。3割を稼ぐがん領域では、CDK阻害薬「Kisqali」などが急成長。循環器・腎・代謝領域では、心不全治療薬「エンレスト」が伸びています。
糖尿病領域が伸びるノボとリリー
米ブリストル・マイヤーズスクイブは、既存の主要製品(インライン・プロダクツ)が堅調で、新製品群(ニュープロダクト・ポートフォリオ)が高成長。英グラクソ・スミスクラインはスペシャリティ、ジェネラル、ワクチンで3割ずつを稼ぐ構造です。ワクチン事業では帯状疱疹ワクチン「シングリックス」が大きく売り上げを伸ばしています。
デンマークのノボノルディスクは、糖尿病と肥満の2領域で全体の9割以上を売り上げています。GLP-1受容体作動薬セマグルチドを有効成分とする3剤(糖尿病治療薬「オゼンピック」と「リベルサス」、肥満症治療薬の「ウゴービ」)は売上高全体の63%を占めます。
米イーライリリーも、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドを有効成分とする糖尿病治療薬「マンジャロ」が急成長。同成分の肥満症治療薬「ゼップバウンド」を含む糖尿病領域が全体の58%を占め、売上高は前年比36%増と大きく伸びました。がん。免疫、神経の各領域もすべて2桁増と好調です。
ギリアド、がん領域の構成比高まる
米ギリアドは主力のHIV領域で全体の67%を稼ぐ構造。CAR-T細胞療法と抗体薬物複合体「トロデルヴィ」で構成するがん領域は37%の増収で、売り上げ全体に占める割合は11%まで上昇しています。新型コロナ治療薬「ベクルリー」は需要減で売り上げを大きく落としました。
イスラエル・テバと米ビアトリスはいずれも後発医薬品を扱う企業ですが、テバが全体の55%を後発品で稼ぐ一方、ビアトリスは後発品の割合が36%で、残りの6割以上は特許が切れたブランド品が占めています。
米バイオジェンは、主力の多発性硬化症領域が特許切れで14%の減収。全体の4分の1はロイヤリティなどが占めています。
「がん」「免疫」「神経」に各社注力
近年、力を入れる企業が多い「オンコロジー」「免疫」「神経」「循環器・腎・代謝」の各領域の売り上げ全体に占める割合を見たのが以下のチャートです。多くの企業がこれらの領域で売り上げの大部分を上げていることがわかります。