2023年に日本と米国、欧州で承認された主な新薬を領域別にまとめました。1回目は「がん(固形がん・血液がん)」「血液」「神経・筋」「精神・中枢神経」の4領域です。
2023年に日米欧で承認された主な新薬
- (1)がん/血液/神経・筋/精神・中枢神経
- (2)循環器・腎・代謝/消化器/皮膚/眼/感染症/ワクチン/その他…2月2日公開予定
固形がん
免疫チェックポイント阻害薬では、2022年に日本と米国で承認された英アストラゼネカの抗CTLA4抗体「イジュド」(一般名・トレメリムマブ)が欧州で2月に承認。このほか、PD-1を標的とする▽「Zynyz」(retifanlimab、適応・メルケル細胞がん)▽「Tevimbra」(tislelizumab、食道がん)▽「Loqtorzi」(toripalimab、上咽頭がん)――の3つの抗体医薬が米国または欧州で承認されました。
このうち、TevimbraとLoqtorziは中国企業が開発した薬剤です。ベイジーンが開発したTevimbraは、マクロファージ上のFcγ受容体への結合を最小限に抑え、抗腫瘍活性を損なわないよう設計されています。米コヒラスと中国のJunshi Bioが開発したLoqtorziは、PD-1とPD-L1/PD-L2の結合を阻害する次世代型の抗PD-1抗体です。
武田薬品工業が米国で承認取得した大腸がん治療薬「Fruzaqla」(fruquintinib)も、中国ハッチメッドが開発したVEGFR1/2/3阻害薬。LoqtorziやFruzaqlaは米国に先駆けて中国で承認されています。23年は、がんの分野で中国企業が存在感を増した年だったと言えるでしょう。
分子標的薬としてはこのほか、米ブリストル・マイヤーズスクイブのROS1阻害薬「Augtyro」(repotrectinib)とアストラゼネカのAKT阻害薬「Truqap」(capivasertib)が米国で11月に承認。開発競争の激しい経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)では、伊メナリーニの「Orserdu」(elacestrant)が米欧で承認され、市場への一番乗りを果たしました。
仏セルヴィエの「Tibsovo」(ivosidenib)は、米国の承認から5年遅れて欧州で承認を取得。日本では臨床第2相(P2)試験が進行中です。米国で22年に承認された大鵬薬品工業の「リトゴビ」(フチバチニブ)は23年に日本と欧州で承認されました。
血液がん
血液がんでは、4つの新規二重特異性抗体が承認されました。
デンマーク・ジェンマブと米アムジェンが共同開発した「エプキンリ/Tepkinly」(エプコリタマブ)と、スイス・ロシュの「Columvi」(glofitamab)は、CD3とCD20を標的とするびまん性大細胞型B細胞リンパ腫治療薬。エプキンリは日米欧で、Columviは米欧で承認を取得しました。Columviは日本で中外製薬がP1試験を進行中です。
米ヤンセンの「Talvey」(talquetamab)は、抗CD3/GPRC5D二重特異性抗体。4つ以上の前治療を受けた多発性骨髄腫患者を対象に米欧で承認されました。ファイザーの抗BCMA/CD3二重特異性抗体「Elrexfio」(elranatamab)も4つ以上の前治療歴がある多発性骨髄腫の治療薬として米国で8月に承認。日本と欧州でも申請中です。
イスラエルのガミダセルが開発した「Omisirge」(omidubicel)は、臍帯血由来の改変型他家細胞医薬。放射線治療や化学療法を受けたあとに臍帯血移植を予定する患者の好中球回復までの期間短縮と感染症の抑制に使用されるもので、幹細胞移植へのアクセス拡大につながることが見込まれます。米国で4月に承認され、欧州でP3試験が進行中です。
第一三共が開発したFLT3阻害薬「ヴァンフリタ」(キザルチニブ)は日本での発売から4年越しに米欧で承認を取得。米国と欧州では19年に「再発・難治性の急性骨髄性白血病」での承認が見送られていましたが、急性骨髄性白血病の1次治療を対象にあらためて申請を行い、承認にこぎつけました。一方、日本で承認された抗悪性腫瘍酵素製剤「オンキャスパー」(ペグアスパルガーゼ)は、海外ではすでに標準治療薬とされる急性リンパ性白血病治療薬。厚生労働省の要請を受けて日本セルヴィエが開発を行い、承認を取得しました。
血液
新規モダリティの開発が活発な血液領域では、複数の遺伝子治療薬が承認されました。
血友病では、米バイオマリンの重症血友病A治療薬「Roctavian」(valoctocogene roxaparvovec)が米国で、豪CSLベーリングの血友病B治療薬「Hemgenix」(etranacogene dezaparvovec)が欧州で承認。いずれもアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を使った遺伝子治療で、Roctavianは欧州で、Hemgenixは米国で22年に先行して承認されています。Hemgenixは日本でも開発の最終段階に入っています。
12月には、米国で鎌状赤血球症の血管閉塞イベントを抑制する2つの疾患修飾薬が承認されました。1つは米バーテックスとスイスCRISPRセラピューティクスが共同開発した初のゲノム編集療法「Casgevy」(exagamglogene autotemcel)で、もう1つは米ブルーバード・バイオの「Lyfgenia」(lovotibeglogene autotemcel)。Lyfgeniaはレンチウイルスベクターを使った遺伝子治療です。
発作性夜間ヘモグロビン尿症には、補体を標的とした2つの治療薬が承認されました。「エムパベリ/Aspaveli」(ペグセタコプラン)は、溶血に関わるC3の阻害薬。Swedish Orphan Biovitrum(Sobi、スウェーデン)が開発したもので、米欧の承認から2年遅れて23年に日本でも承認されました。米国で承認されたスイス・ノバルティスの「Fabhalta」(iptacopan hydrochloride)は、経口の補体副経路B因子阻害薬。抗補体C5療法後も貧血症状が残る患者に対する治療薬として期待されています。日欧でも申請済みです。
デンマーク・ノボノルディスクは、血友病治療薬の抗TFPI抗体「アレモ」(コンシズマブ)の承認を世界に先駆けて日本で取得。米欧でも申請中です。Sobiのトロンボポエチン受容体作動薬「ドプテレット」(アバトロンボパグマレイン酸塩)は「待機的な観血的手技を予定している慢性肝疾患患者における血小板減少症の改善」の適応で、米国から5年遅れて日本で承認を取得しました。
神経・筋
神経・筋領域では2つの核酸医薬が米国で承認。1つは、米バイオジェンの筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「Qalsody」(tofersen)。原因遺伝子の1つであるスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)タンパク質の生成を抑えるよう設計されています。もう1つは米アイオニスとアストラゼネカが共同開発した遺伝型トランスサイレチン(TTR)型アミロイドポリニューロパチー治療薬「Wainua」(eplontersen sodium)。TTRタンパク質の産生を減少させる作用を持っています。いずれも、欧州で申請済みで、日本はP3試験を進めています。
米サレプタとスイス・ロシュのデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬「Elevidys」(delandistrogene moxeparvovec)は、マイクロジストロフィンタンパク質の発現を促すAAV遺伝子治療薬。日本と欧州でも国際共同P3試験が行われており、日本では中外製薬が24年に申請を行う予定です。DMDには、ステロイド性抗炎症薬の「Agamree」(vamorolone)も米欧で承認されました。
重症筋無力症治療薬の抗FcRn抗体「リスティーゴ」(ロザノリキシズマブ)と補体(C5)阻害薬「ジルビスク」(ジルコプランナトリウム)は、いずれもユーシービー(ベルギー)の開発品。リスティーゴは日米、ジルビスクは日米欧でそれぞれ承認されました。
精神・中枢神経
エーザイのアルツハイマー病治療薬「レケンビ」(レカネマブ)は米国と日本で承認を取得し、23年に世界で最も注目された新薬の1つとなりました。可溶性アミロイドβ凝集体(プロトフィブリル)と、Aβプラークの主な構成成分である不溶性アミロイドβ凝集体(フィブリル)に結合する抗体医薬で、臨床試験ではアルツハイマー病の進行を抑えることが確認されています。
米国ではこのほか、8月に産後うつ治療薬「Zurzuvae」(zuranolone)が承認されました。GABAA受容体ポジティブアロステリックモジュレーターで、米セージ・セラピューティクスがバイオジェンと共同開発。日本では塩野義製薬がうつ病・うつ状態を対象に開発を進めています。