(写真:ロイター)
今年もいろいろなことがあった製薬業界。2023年の主なできごとを2回に分けて振り返ります。
1回目:「ラグ・ロス」「供給不安」対策議論の1年…相次いだリストラ、MRは5万人割れ
100億ドル超のM&A4件
は、ファイザーとメルク、アッヴィ、ブリストル・マイヤーズスクイブ(いずれも米国)が100億ドル超の大型買収を発表。スイス・ロシュや米バイオジェンなども日本円換算で1兆円規模のM&Aに踏み切りました。
各社がM&Aで狙うのは、成長が期待される分野で有望な新薬の獲得です。ファイザーが今月、430億ドルの買収を完了した米シージェンは、安全性・有効性に優れたがん治療として期待される抗体薬物複合体(ADC)の有力企業。アッヴィが11月に101億ドルで買収すると発表した米イミュノジェンもADCを手掛けています。
アッヴィはイミュノジェン買収を発表した翌週にも、神経疾患の治療薬開発に取り組む米セレベル・セラピューティクスを87億ドルで買収すると発表し、業界を驚かせました。
米メルクは4月、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患に対する治療薬を開発する米プロメテウス・バイオサイエンシズを108億ドルで買収すると発表。10月には第一三共とADC3品目の開発・商業化で最大220億ドルの大型提携を結びました。ブリストルは12月、承認間近の抗精神病薬を持つ米カルナ・セラピューティクスを140億ドルで買収すると発表。主力品が後発医薬品との競争に直面する血液がん領域に変わる成長分野として期待します。
がん領域中心のポートフォリオの多角化を進めるロシュは、米テラバント買収で炎症性腸疾患治療薬候補を獲得。バイオジェンは米リアタを買収し、希少疾患の分野を強化します。
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アステラスなど過去最大の買収
日本企業によるM&Aの動きも目立ちました。
アステラス製薬は5月、眼科領域で新薬開発を行う米アイベリック・バイオを59億ドルで買収すると発表。アステラスにとっては過去最大の買収で、獲得した地図状萎縮を伴う加齢黄斑変性向け核酸医薬「IZERVAY」は8月に米国で承認を取得しました。主力の前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の特許切れが迫る中、その穴を埋める製品の1つとして大型化を期待しています。
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バイオベンチャーのそーせいグループは7月、スイス・イドルシアから日本・APAC(中国を除くアジア太平洋地域)事業を650億円で買収。開発・販売機能を取り込むなどして製薬企業への脱皮を図ります。
協和キリンも10月、過去最大規模の4億7760万ドルを投じて英オーチャード・セラピューティクスを買収すると発表しました。次世代戦略品候補が相次いで開発中止に追い込まれる中、希少疾患分野のパイプラインと細胞遺伝子治療薬の研究能力を手に入れる狙いです。
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「レケンビ」社会的価値議論に
今年も話題の新薬が続々登場しましたが、最も注目を集めたのはエーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬「レケンビ」でしょう。米国では1月に迅速承認され、7月に正式承認を取得。日本では9月に承認を取得し、12月に発売されました。
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エーザイはレケンビの売上高が2030年度に1兆円規模に達すると見込んでおり、国内では31年度に986億円を予想。抗がん剤「レンビマ」を柱とする同社の収益構造はレケンビの登場によって一変することになります。
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レケンビは「社会的価値」をめぐっても議論になり、エーザイは5月に公的介護や家族介護の負担軽減を含む同薬の社会的価値を独自に推計した結果を公表。薬価算定にあたってもそのデータを資料として提出し、薬価に社会的価値を反映するよう訴えました。
結局、算定薬価には介護費用の軽減は反映されず、今後の費用対効果評価に委ねられることになりました。有用性加算についても、エーザイが求めた画期性加算の適用は認められず、内藤晴夫CEOは加算要件の見直しを検討すべきとの認識を示しました。
アルツハイマー病治療薬をめぐっては、日本イーライリリーもドナネマブを申請しており、順調にいけば来年承認・発売となる見通し。アルツハイマー病治療は、2つの新薬が市場で競合しながら新たな時代を開いていくことになります。
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「マンジャロ」など注目新薬続々、国産ワクチン初の実用化
レケンビのほかにも、注目の新薬が続々登場しました。
日本イーライリリーが4月に発売した「マンジャロ」はGLP-1とGIPの2つのインクレチンに作用する2型糖尿病治療薬。ピーク時の予測売上高は367億円と、今年薬価収載された新薬の中でレケンビに次ぐ大きさで、大型化が見込まれています。米国では同一成分が肥満症治療薬「Zepbound」として今年承認され、注目を集めました。肥満症の領域では、世界的に売り上げを伸ばすノボノルディスクファーマの「ウゴービ」も3月に承認。328億円のピーク時売り上げを見込み、来年2月に発売する予定です。
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ジェンマブは血液がん治療薬「エプキンリ」を11月に発売し、日本市場に本格参入。台湾発のファーマエッセンシアも真性多血症治療薬「ベスレミ」で新規参入を果たしました。
海外勢から遅れをとっていた新型コロナウイルスワクチンでは、第一三共が国産初となる「ダイチロナ」の承認を取得。厚生労働省と140万回分の供給契約を結び、12月から接種されています。MeijiSeikaファルマが米国企業から導入した次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)の承認を世界で初めて取得しました。
薬価未収載品では、国内初のRSウイルスワクチン(グラクソ・スミスクラインの「アレックスビー」)や経鼻インフルエンザワクチン(第一三共の「フルミスト」)が承認。ラインファーマの経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴ」も4月に承認され、社会的に大きな関心を集めました。
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海外では、ゲノム編集を応用した初の治療法が英国と米国で承認。米バーテックス・ファーマシューティカルズなどが開発した鎌状赤血球症に対する治療法「CASGEVY」で、新時代の到来を印象付けました。