今年もいろいろなことがあった製薬業界。2023年の主なできごとを2回に分けて振り返ります。
2回目:大型買収、再び活発化…アルツハイマー病薬「レケンビ」日米で発売
薬価制度改革、ラグ/ログ解消へイノベーション評価
今年の製薬業界は、近年、社会的にも関心を呼んでいるドラッグ・ラグ/ロスと医薬品の供給不安に対する対策が活発に議論された1年でした。
昨年8月からこれら2つの課題について議論してきた厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が6月に報告書をまとめ、これを受けて「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」と「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」が7月に発足。有識者検討会の報告書で指摘された課題について、具体的な解決策の検討が始まりました。
薬事規制検討会は年末までに6回の会合を開き、これまでに▽海外で開発が先行している場合は日本人P1(臨床第1相)試験は原則不要▽中等度の製造方法変更に対応する新たなカテゴリ「中等度変更事項」と、重要度の低い変更は年1回の報告とする「年次報告」の導入――といった見直し方針を矢継ぎ早に決定。産業構造検討会では10月、▽企業の安定供給体制を可視化する取り組み▽品目数の統合を促す薬事規制の見直し▽供給停止時の手続きの合理化・効率化――を盛り込んだ中間報告がまとめられました。
後発品、供給体制評価を薬価に反映
2024年度の薬価制度改革に向けた議論も、ラグ/ロス解消と安定供給確保が大きなテーマとなりました。
中央社会保険医療協議会が12月20日にまとめた改革の骨子は、▽革新的新薬の日本への早期導入を評価する「迅速導入加算」の導入▽新薬創出加算の見直し(企業指標に基づく加算額の調整の廃止、対象品目の追加など)▽有用性系加算の評価項目の充実――などイノベーションの評価に重点が置かれた内容で、政府はこうした薬価上の措置によって日本企業の創薬力強化とラグ/ロスの解消を後押ししたい考え。後発品を中心とする医薬品の安定供給確保に向けては、▽安定供給体制の評価に基づく「企業指標」の導入と薬価への反映▽基礎的医薬品の品目要件緩和▽不採算品再算定の特例的適用――などが柱となっています。
供給不安 出口見えず、沢井でも品質不正
長引く医薬品の供給不安は、今年も医療現場に影を落としました。日本製薬団体連合会の調査によると、今年も1年を通じて全医薬品の2割以上(後発品に限ると3割以上)が限定出荷・供給停止の状況が続いており、出口はまだ見えません。
季節外れのインフルエンザの流行があった夏以降は、特に鎮咳薬や去痰薬が入手しづらくなり、厚生労働省は10月、主要メーカー8社に増産を要請。11月には8社を含む24社の幹部を厚労省に集め、武見敬三厚労相があらためて増産への協力を求めました。
日医工 上場廃止し再建本格化
供給不足の引き金となった後発品メーカーの品質不正は、大手の沢井製薬でも発覚しました。同社は10月、九州工場(福岡県飯塚市)で製造する胃炎・胃潰瘍治療薬テプレノンの溶出試験で、中身を新しいカプセルに詰め替える不正が行われていたと発表。12月には大阪府と福岡県が同社に業務改善命令、厚労省が総括製造販売責任者の変更命令を出しました。
一方、昨年末に事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)が成立した日医工は、3月29日に上場を廃止。業績悪化の元凶となった米国事業を売却し、供給品目を絞り込むなど、ファンド傘下で再建を本格化させました。
早期退職、国内企業だけで2000人超
リストラの多い製薬業界ですが、今年は例年以上に早期退職者の募集が多い年となりました。今年は国内製薬企業6社が早期退職の募集を発表し、退職者は6社合わせて2000人を超える見通し。バイエル薬品やヤンセンファーマなど外資系でも複数の企業がリストラを行っており、これらを含めると退職者はさらに膨らみます。
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国内市場が停滞する中、各社とも営業部門を中心に効率化を志向しており、12月に募集を開始したアステラス製薬は営業部門を対象に500人程度の応募を想定。中外製薬では374人の応募のうち150人をMRが占めました。
MR認定センターが7月に公表した「MR白書」によると、今年3月末時点のMR数は4万9682人(前年同期比2166人減)と5万人を割り込みました。MR数が前年を下回るのは9年連続。今年のリストラの動向を踏まえると、来年の白書でも大幅な減少が予想されます。
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中堅企業、経営岐路に
製薬企業をとりまく環境の変化は、国内市場に頼る中堅製薬企業に経営上の大きな判断を迫っています。
ヤクルト本社は10月30日、最主力の抗がん剤「エルプラット」など8製品を高田製薬に販売移管・承継すると発表し、新たな新薬開発も行わない方針を明らかにしました。長期収載品と後発品を主体とするヤクルトの医療用医薬品事業は、この10年間で売上高が3分の1まで減少。「従来からの少数品目に依存したビジネスモデルでは将来の持続的成長は見込めないと判断した」としており、撤退こそ否定するものの事業縮小へ大きく舵を切りました。
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同じく医療用医薬品事業が低迷する大正製薬ホールディングスは、11月に経営陣による自社買収(MBO)の実施を発表。創業家の上原茂副社長が代表を務める会社が株式公開買い付け(TOB)で全株式を取得し、成立すれば同社は上場廃止となります。非公開化によって、自社ECサイトの強化や海外OTCブランドの買収、オープンイノベーションを通じた新薬シーズの獲得といった中長期の経営改革に取り組む方針です。
来年10月には、長期収載品を選定療養に位置付け、後発品との差額の25%を患者の自己負担とする仕組みが導入されます。長期収載品の処方にブレーキがかかるのは必至で、打撃を受ける企業も出てきそうです。