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大塚HDの医療関連事業、海外売上高1兆円視野に…中外・協和キリンもグローバル主力品好調

更新日

穴迫励二

12月に決算期を迎える国内製薬企業が2023年1~9月期業績を相次いで発表しました。それぞれ通期見通しを開示していますが、大塚ホールディングス(HD)、中外製薬、協和キリンはいずれも海外売上高を拡大。全体として為替が円安に振れた影響があるとはいえ、成長の源泉を欧米市場に求める傾向はますます強まっています。

 

 

大塚「グローバル4製品」7000億円突破へ

大塚HDは医療用医薬品を中心とする医療関連事業の通期売上高予想を、7月に公表した前回予想から665億円増となる1兆3440億円に上方修正。このうち海外売上高は9365億円を見込んでおり、1兆円の大台が視野に入ってきました。原動力は「グローバル4製品」で、日本市場を含むグローバル売上高は4製品計7115億円で着地すると見ています。

 

心不全や肝硬変における体液貯留に用いる「サムスカ」の特許切れ(日米)が足を引っ張っていますが、他製品はいずれも海外で市場を拡大。抗精神病薬「レキサルティ」は65歳以上の患者に対する処方数が増加しています。米国で今年5月に承認された「アルツハイマー型認知症に伴う行動障害(アジテーション)」への適応拡大が背景にあり、1週間あたりの処方箋数は同適応の承認取得前と比べて9月第4週で15%以上増えました。

 

抗がん剤「ロンサーフ」は米国を中心に大幅に販売を拡大し、持続性抗精神病薬「エビリファイメンテナ」も処方数を伸ばしています。これらの製品販売に加え、ロイヤリティや契約一時金・マイルストーン収入も前年の383億円から942億円へと大きく膨れそうです。

 

【12月期決算の製薬3社 今期の海外売上高】単位:億円|〈社名/1~9月期実績/通期予想〉大塚HD(医療関連事業)/6942/9365|中外製薬/4075/5252|協和キリン/1942/2727|※各社の決算発表資料をもとに作成

 

中外「アクテムラ」バイオシミラーの影響は

中外は通期の海外売上高を前年比144億円増の5252億円と予想。スイス・ロシュ向けの輸出単価が下がった一方、円安や販売数量の増加で前年を上回ると見込んでいます。伸び率は2.8%と高くはありませんが、「海外全体で予想を上回る着地が見えてきている」(板垣利明CFO)状況です。ロイヤリティやプロフィットシェアを除く製品の売上高は、通期予想3783億円に対して1~9月期は3129億円と、進捗率は82.7%に達しています。

 

好調なのは血友病A治療薬「ヘムライブラ」で、今年は欧州で中等症への適応拡大の承認を取得。海外向けの通期予想は1852億円ですが、すでに1~9月期で1718億円を売り上げており、大幅な上乗せが期待できそうです。数量ベースでは前年同期比10%強の伸びで、ロイヤリティ収入なども増加しています。抗がん剤「アレセンサ」も通期で海外向けが500億円を突破しそう。早期非小細胞肺がんへの適応拡大に向けた臨床第3相(P3)試験も進んでいます。

 

ロシュを通じてグローバル展開している自社創製品は、ヘムライブラ、アレセンサに抗IL-6受容体抗体「アクテムラ」と視神経脊髄炎スペクトラム障害治療薬「エンスプリング」を加えた4品目で、1~9月期時点ではすべてが前年同期を上回っています。

 

アクテムラは今後、欧米でバイオシミラーとの競合が予想されますが、承認を取得した独フレゼニウスカービや米バイオジェン/中国バイオセラとはそれぞれ和解契約を締結。奥田修社長CEOは「今年のバイオシミラーの影響は非常に限定的で、24年になると多少の競争が入ってくる想定」との見通しを示しています。

 

協和キリン 海外売上高比率64%まで上昇

協和キリンは通期の海外売上高を2727億円と予想しています。けん引するのは自社創製の抗FGF23抗体「クリースビータ」で、今期は海外売上高全体のおよそ半分となる1380億円に達しそうです。1~9月期の売上高は前年同期比22%増加したものの、通期予想に対する進捗率は69%とやや低め。今年4月の北米での自社販売への切り替えに伴い、在庫に関わる一過性の停滞要因があったためで、年末に向けて帳尻を合わせてきそうです。欧州ではドイツで薬価の引き下げがあったものの、患者数は伸びています。

 

3社の海外売上高比率を見ると、19年以降、ほぼ右肩上がりで上昇しています。大塚HDは19年の51.3%が23年(予想)に69.7%に拡大。この間、海外売上高は4741億円から倍増します。逆に国内売上高は4502億円から4075億円へと1割近く減少することになり、海外売上高比率の上昇は国内の絶対額減少を伴っていることが分かります。

 

日本も「世界の一市場」

海外展開を親会社のロシュに委ねる中外の海外売上高比率は今年、19年比13.8ポイント増の49.1%となる予想で、5割が目前に迫っています。22年は43.7%に落ち込みましたが、これは新型コロナウイルス感染症治療薬「ロナプリーブ」の政府買い上げで国内売上高が一時的に膨らんだため。近年は、中外オリジンの製品が海外で市場を獲得する様子がうかがえます。

 

伸びが最も大きいのは協和キリンです。クリースビータの売り上げ拡大に支えられ、19年の39.1%から23年は64.0%まで上昇する予想。国内市場の絶対額の減少という点では大塚HDと同じで、19年から23年にかけて1862億円から1533億円へと縮小します。海外市場の開拓なくして成長はないことが改めて感じられます。

 

【12月期決算の製薬3社 海外売上高の推移】単位:%|大塚HD(医療関連事業)〈年度/海外売上高比率〉|19/51.3|20/54.3|21/57.5|22/64.6|23/69.7|協和キリン〈年度/海外売上高比率〉|19/39.1|20/47.7|21/53.6|22/61.2|23/64.0|中外製薬〈年度/海外売上高比率〉|19/35.3|20/46.8|21/47.8|22/43.7|23/49.1|※23年は予想。各社の決算発表資料をもとに作成

 

世界の医薬品市場に占める日本の割合は7~8%程度とされ、市場の9割以上は海外に存在することになります。シャイアーを買収した武田薬品工業は言うまでもなく、アステラス製薬や第一三共といった大手も将来的にこの比率に準じた売り上げ構成になることを示唆しており、日本の製薬企業といえども「あくまで日本も世界の一市場」として位置付けられていくことになりです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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