全国健康保険組合連合会(健保連)は、1カ月の医療費が1000万円以上となった高額レセプト(診療報酬明細書)の件数が8年連続で過去最高を更新したと発表しました。遺伝子治療薬やCAR-T細胞療法など、薬価が数千万円から1億円超となる薬剤の登場により、高額医療をめぐる状況は数年前とは異なる様相を呈しています。
高額レセプト、5年で3.4倍に
健保連は9月7日、22年度(22年1月~23年1月)の高額レセプトの状況を発表しました。それによると、1カ月の医療費が1000万円を超える高額レセプトの件数は1792件で前年度に比べて275件(18%)増加。15年度以降、8年連続で過去最高を更新しました。1億円を超えたのは9件で、最高額は1億7784万6430円。いずれも脊髄性筋萎縮症の患者でした。
高額レセプトの件数は増え続けており、5年前の17年度と比べると3.4倍に、10年前の12年度と比べると7.1倍に増加。最高額も上昇しています。
増える悪性腫瘍
かつて高額医療といえば、血液凝固因子製剤を頻繁に投与しなければならない血友病をはじめとする血液疾患や、人工心臓を使う突発性拡張型心筋症などの循環器系疾患が代表格でしたが、近年は様子が違ってきています。
高額レセプト上位100件の内訳を疾患(主傷病名)別に見てみると、5年前は循環器疾患が41件、血液疾患が23件を占めていましたが、22年度は循環器疾患が姿を消し、血液疾患も4件に減少。かわりに増えているのが悪性腫瘍で、22年度は79件(前年度比30件増)を占めました。
最高額レセプトの主傷病名を見ても変化は明らかです。20年前まで遡ると、19年度まではほとんどの年で血友病でしたが、20年度以降は3年連続で脊髄性筋萎縮症が最高額となっています。
上位100件中88件に「超高額薬」
変化の背景にあるのが、高額な薬剤の承認です。22年度の高額レセプト上位100件のうち9件は脊髄性筋萎縮症向け遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」(薬価は1患者あたり1億6708万円)が使われ、63件はCAR-T細胞療法「キムリア」(1患者あたり3265万円)、15件は同「ブレヤンジ」、1件は同「イエスカルタ」が使われていました。これらの薬剤が保険適用されたのは2019年以降で、高額レセプト件数の増加が大きくなった時期と重なります。
健保連は「高額上位のレセプトは超高額な医薬品の使用に起因するものに置き換わる傾向が見られる。血友病や人工心臓を用いる循環器系疾患の患者数が減少に転じていることはなく、これらを上回る超高額医薬品の保険収載により上位100位から外れたに過ぎない」と指摘しています。
特に小規模の健保組合にとって高額レセプトは死活問題ですが、医療全体で見ると超高額医薬品を使用する患者は極めて限られるということは認識しておく必要があります。医療費の増大は大きな課題ですが、安易な高額薬批判はイノベーションを妨げることになりかねず、総合的な視点で見ることが大切です。