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ニュース解説

薬価制度見直し、本当に風向きは変わったのか

更新日

前田雄樹

6月16日に閣議決定された「骨太の方針」に「イノベーションの適切な評価などさらなる薬価上の措置」を行うことが明記され、製薬業界では薬価制度の見直しに期待が高まっています。21日には中央社会保険医療協議会(中医協)薬価専門部会で2024年度薬価制度改革に向けた議論がスタートしましたが、少子化対策で数兆円規模の財源が必要となる中、薬価が「都合のいい財布」とされることへの懸念は拭いきれません。

 

 

骨太方針「イノベーション評価など薬価上の措置」

「創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うため、保険収載時をはじめとするイノベーションの適切な評価などのさらなる薬価上の措置(中略)等を推進する」

 

政府が6月16日に閣議決定した今年の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)には、薬価制度についてこのような記述が盛り込まれました。このところ歳出抑制の標的とされてきた薬価について、イノベーション評価が骨太の方針に書き込まれるのは珍しいことです。業界では、2024年度の次期薬価制度改革でイノベーション評価の拡充に対する期待が高まっています。

 

背景にあるのは、顕在化する「ドラッグ・ラグ」「ドラッグ・ロス」や日本の創薬力低下に対する危機感です。医薬産業政策研究所の調査によると、20年までの5年間に欧米で承認された医薬品の72%が国内で承認されておらず、16年までの5年間と比較すると国内未承認薬の割合は16ポイント上昇。新型コロナウイルスワクチン・治療薬の実用化でも、日本企業は欧米勢に遅れをとりました。

 

「新薬創出を強力に後押し」「革新的医薬品の迅速な導入に向けて」

骨太方針策定の過程では、経済財政諮問会議の民間議員が「創薬力強化に向けては、有効な新薬の創出企業が収益を上げ、その資金で次の新薬開発が進むという好循環が必要。薬価改定では、新薬の薬価算定の改善や特許期間中のさらなる薬価特例など、新薬創出を強力に後押しすべき」と提言。

 

昨年8月から13回にわたる議論を経てとりまとめられた厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の報告書も、革新的医薬品の迅速な導入に向けた新たなインセンティブや、特許期間中の薬価を維持する仕組みの強化などを検討すべきと指摘しています。

 

【薬価制度の見直しに関する主な記述】骨太の方針(6月16日)|●創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うため、保険収載時をはじめとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置(中略)等を推進する|厚労省有識者検討会報告書(6月12日)|●新規モダリティや革新的医薬品の新たな評価方法を検討すべき/●希少疾病や小児、難病の治療薬といった医療上特に必要な革新的医薬品の迅速な導入に向け、新たなインセンティブを検討すべき/●ベンチャー企業が開発した医薬品の薬価について、新薬創出加算における適切な評価のあり方を検討すべき/●医療上特に必要な革新的医薬品については、特許期間中の薬価を維持する仕組みの強化を検討すべき/●市場拡大再算定の対象となる類似品の考え方について見直しを検討すべき/●薬価制度改革を検討する際は、投資回収の予見可能性の低下に対しても十分考慮することが必要|財政審建議(5月29日)/ ●なし

 

有識者検討会報告書に「書かれなかったこと」

こうして見てみると確かに、24年度薬価制度改革、特にイノベーション評価には追い風が吹いているように思えます。厚労省の有識者検討会で報告書案が示された6月6日、日本製薬工業協会(製薬協)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)の3団体は「これまで日米欧製薬3団体は、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスが足元で発生していることを指摘し、薬価制度の問題点として、イノベーションが適切に評価されていないこと、特許期間中の薬価が維持されていないこと、制度の予見性がないことなどを訴えてきた。検討会では、こうした課題が捉えられ、また、その解決のための大枠の方向性が示されたことに感謝の意を表する」との共同声明を発表。今後の議論で、課題解決に向けた具体策を明確に示すよう求めました。

 

有識者検討会の報告書には、先の図で示した記述のほか、「最低薬価」「不採算品再算定」「基礎的医薬品」といった薬価を下支えする制度の運用改善や、採算性を維持するための新たな薬価制度上の仕組みの検討も盛り込まれました。これらは、後発医薬品を中心に深刻化している医薬品の供給不安に対する解決策として挙げられています。

 

「額面通り受け取っていいものか」

一方で、有識者会議の報告書には「書かれなかった」こともあります。例えば、市場拡大再算定ではいわゆる「共連れ」の見直しが盛り込まれたものの、構成員から指摘のあった再算定そのものの見直しの必要性については反映されませんでした。毎年改定の問題も議論になりましたが、報告書では「その他の課題」として「意見があった」との記述にとどまり、報告書本文には書き込まれていません。

 

24年度は診療報酬、介護報酬、障害者サービス等報酬を同時に改定するトリプル改定の年で、日本医師会などは物価高騰や賃上げへの対応として診療報酬の引き上げを求めています。一方、政府が6月13日に閣議決定した「こども未来戦略方針」では、少子化対策の財源について社会保障費などの歳出改革を徹底して行う方針が示されました。

 

政府はこれまで、社会保障費抑制の多くの部分を薬価引き下げに頼ってきました。「都合のいい財布」として扱われてきた経緯があるだけに、業界関係者からは「骨太方針の記述を額面通り受け取っていいものか」との声も漏れます。政府は社会保障費の伸びを高齢化分に収める従来方針を踏襲するとしています。自民党のプロジェクトチームは先月末、「社会保障費の財源捻出を薬価改定に求める構造は限界を迎えている」として政府に是正を求めました。

 

6月21日に開かれた中医協薬価専門部会では、24年度の薬価制度改革に向けた主な課題と議論のスケジュールが示されましたが、支払い側委員は早速、「イノベーションの推進は適正化とセットで議論すべき。評価の充実を前提とするのではなく、全体のバランスを含めて幅広い視点で議論する必要がある」とクギを差しました。骨太方針や有識者検討会の報告書では、長期収載品の自己負担の見直しなど薬剤費を削減する方向の提案もなされており、こうした点も含め、改定の骨子がまとまる年末にかけて議論が展開されることになります。

 

【24年度薬価制度改革に向けた主な課題】①23年度薬価改定の骨子に記載されている事項/●新薬創出加算や長期収載品に関する薬価算定ルールの見直し/●革新的新薬の日本への導入状況や安定供給上の課題も踏まえた、これまでの薬価制度改革の検証②22年度薬価制度改革の骨子に記載されている事項/●調整幅のあり方/●診療報酬改定がない年の薬価改定③「高額医薬品(感染症治療薬)に対する対応」に記載されている事項/●市場規模の推計が困難な疾患を対象とした薬剤の薬価算定方法や、緊急承認された医薬品の本承認時の薬価算定の方法など~|④/これまでに問題提起されている事項/●有識者検討会の指摘事項/●骨太方針で指摘されている事項⑤/その他/●関係業界からの提起事項 /●薬価算定組織からの提起事項|※中医協薬価専門部会(23年6月21日)資料をもとに作成

 

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