糖尿病治療薬の市場競合が激しくなってきました。心不全などに適応を広げるSGLT2阻害薬や、経口剤が加わったGLP-1受容体作動薬が勢いを加速。さらにGLP-1とGIPの両方に作用するインクレチン関連薬や、ミトコンドリアへの作用を介して血糖降下作用を示す新規化合物の登場など、成長市場で各社が優位性を競っています。
シェア高めるSGLT2阻害薬
国内の糖尿病治療薬市場は過去10年間で大きく成長しています。10年前の2012年度(12年4月~13年3月)は3925億円でしたが、22年度には6759億円と72%増加しました。この間、国内市場全体は15%しか伸びておらず、糖尿病治療薬が市場全体に占める割合は4.1%から6.2%へと拡大しました。
治療薬の種類も増えています。2型糖尿病の適応では、インクレチン関連薬のDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬が09年に登場したのを皮切りに、13年には過剰な糖を尿中に排出するSGLT2阻害薬、21年にはインスリンの分泌促進と抵抗性改善の両作用を持つイメグリミン、23年にはGLP-1/GIP受容体作動薬が発売。GLP-1製剤では、従来の注射薬に加えて21年に経口薬も発売されました。
作用機序別の市場シェアはこの5年間で急速に変化してきました。17年時点で全体の約5割を占めていたDPP-4阻害薬は22年に30%台半ばまで低下し、SGLT2阻害薬と同水準になりました。SGLT2阻害薬の成長は著しく、23年には逆転が確実です。
GLP-1受容体作動薬は22年に12%を超えたとみられ、経口薬「リベルサス」(ノボノルディスクファーマ)やGIPとのデュアル作用を持つ「マンジャロ」(日本イーライリリー/田辺三菱製薬)の登場もあって、存在感を高めそうです。
SGLT2阻害薬は「2強」の構図
6製品が競合するSGLT2阻害薬の市場は、「フォシーガ」(アストラゼネカ/小野薬品工業)と「ジャディアンス」(日本ベーリンガーインゲルハイム/日本イーライリリー)の2強が他を大きく引き離し、トップシェアを争う構図です。いずれも慢性心不全と慢性腎臓病(CKD)への適応拡大が承認または申請中で、糖尿病以外の領域でも市場を広げています。
フォシーガは23年3月期売上高が565億円で、前期比54.3%の大幅増を記録しました。期初予想の470億円から大きく上振れしましたが、その主な要因はCKDでの処方拡大。当初、CKDは売上高のうち100億円を占めると予想していましたが、実績はこれを5割程度上回ったといいます。
一方のジャディアンスは、22年の売上高が薬価ベースで448億円(前年比31.3%増)となりました。単剤ではフォシーガに水をあけられていますが、DPP-4阻害薬「トラゼンタ」との配合剤「トラディアンス」は237億円(27.8%増)を売り上げており、ジャディアンスファミリーとしては685億円(30.0%増)に達しています。成長を支えたのは糖尿病の適応で、21年11月承認の慢性心不全はこれから貢献してくると見通しています。
心不全の適応では、ジャディアンスが22年4月、フォシーガが23年1月に添付文書を改訂し、左室駆出率を問わずに使用できるようになりました。
GLP-1製剤、経口薬が急速に浸透
SGLT2阻害薬とともに市場成長が際立つのがGLP-1受容体作動薬です。糖尿病治療薬市場全体におけるシェアは年々高まっており、リベルサスの登場がこれを加速させています。
21年2月発売のリベルサスは22年第4四半期にGLP-1製剤市場で30%超のシェアを獲得。ノボノルディスクファーマのキャスパー・ブッカ・マイルバン社長によると、経口糖尿病治療薬という切り口で見ても7%の市場シェアを占めています。服用後30分間は飲食やほかの薬剤の服用ができないといった制約があるにもかかわらず、急速に市場に浸透しています。
GLP-1とGIPの2つのインクレチンに作用する「マンジャロ」は、製造販売元の日本イーライリリーが「ゲームチェンジャーになる」と予測する製品。4月の発売以降、「(自社のGLP-1製剤)トルリシティと比べても立ち上がりは良好」(リリー)です。本来は経口剤で血糖コントロールが不十分な患者がターゲットですが、出荷調整中のトルリシティを含めほかのGLP-1製剤からの切り替えが起きています。
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GLP-1製剤は世界的な需要の高まりに製造が追いつかないのが現状です。リベルサスと有効成分が同じ肥満症治療薬「ウゴービ」は、供給不安から今年5月の薬価収載を見送っています。
企業別ではNBIがトップか
糖尿病治療薬の売上高を企業別に見ると、日本ベーリンガーインゲルハイムがトップに立っているようです。ジャディアンス/トラディアンス、トラゼンタの合計売上高は昨年、薬価ベースで1044億円と大台に乗りました。ジャディアンスはCKDへの適応拡大が年内にも承認されるとみられ、心不全での処方拡大とともにさらなる成長加速の要因となりそうです。
決算ベースで業績を発表しているノボノルディスクファーマは、全体の売上高1196億円のうち糖尿病領域が69%を占めると説明しています。糖尿病領域の売上高は825億円となる計算です。同社は昨年3月にもう1つの柱である希少疾患事業の強化を打ち出しましたが、当面は好調な糖尿病領域が成長を牽引する見通しで、糖尿病の売り上げ構成比は近い将来、80%まで高まると予想しています。
糖尿病治療薬の市場は世界的に拡大しています。米IQVIAによると、22年は1465億ドル(約2兆1000億円)で前年比15.9%増でした。売上高上位20製品には、ノボノルディスクのGLP-1受容体作動薬「オゼンピック」が4位(79.1%増)、ジャディアンスが7位(45.3%増)、フォシーガが14位(57.6%増)と、3製品がランクインしています。
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新薬開発もなお活発です。米ファイザーは今月27日、そーせいグループとの提携で創製した経口GLP-1受容体作動薬ロチグリプロンの開発を中止する一方、並行して臨床試験を行っていた同ダヌグリプロンを後期治験に進めると発表。中外製薬が米イーライリリーに導出した同オルフォルグリプロンは、2型糖尿病と肥満症で開発が進行中で、いずれの適応も23年上期に臨床第3相試験の開始が予定されています。
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