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アステラス「エベレンゾ」販売不振で減損損失…HIF-PH阻害薬、期待に反し伸びぬ市場

更新日

穴迫励二

アステラス製薬が、2023年3月期決算に約580億円の減損損失を計上すると発表しました。そのうち約450億円は、欧州を中心とした腎性貧血治療薬「エベレンゾ」の販売不振によるものです。同薬を含むHIF-PH阻害薬の市場は国内でも期待されたほど拡大していないようで、赤血球造血刺激因子(ESA)製剤からの切り替えは緩やかです。

 

 

先行の利生かせず

腎性貧血は慢性腎臓病患者の合併症のひとつで、腎臓でのエリスロポエチンの産生が減少することで起こります。治療は従来、「ネスプ」とそのバイオシミラーやバイオAGといったESA製剤が中心でした。そこに登場したのがHIF-PH阻害薬で、これまでに国内で5製品が発売されています。ESA製剤に低反応性の患者にも効果を示す可能性が示されたほか、経口剤のため透析を受ける前段階の「保存期」を中心に処方が拡大するとみられていました。

 

【HIF-PH阻害薬 主要3製品の四半期売上高推移】|※単位:億円<ダーブロック/エベレンゾ/バフセオ>20_1Q/-/2/-|2Q/-/2/-|3Q/5/1/3|4Q/1/4/0|21_1Q/2/4/0|2Q/3/6/1|3Q/9/7/2|4Q/12/7/4|22_1Q/11/5/3|2Q/16/7/5|3Q/17/6/5|4Q/22/6/6|※製造販売元・販売元の決算発表資料をもとに作成

 

アステラス製薬がエベレンゾをファースト・イン・クラスとして市場投入したのは19年11月です。当初は「透析期」が対象でしたが、20年11月にはより患者数が多い保存期の適応も追加しました。後を追って発売されたほかの薬剤は最初から保存期の適応を取得しており、このタイミングで各薬剤が同じ土俵に立ったことになります。適応追加直後の記者会見でアステラスの岡村直樹副社長(当時)は、「これからが営業の実力の見せどころ」と意気込んでいました。国内では先行の利があり、海外も含め成長ドライバーとしての期待は高かったようです。

 

売り上げトップはダーブロック

エベレンゾはその後、1年ほどはおおむね順調な伸びを示していましたが、21年第3四半期(7~9月期)に2番手で参入した「ダーブロック」に追い越されました。以降、両剤の差は開く一方で、22年第4四半期ではダーブロック22億円に対してエベレンゾは6億円と大きく水を開けられた上、3番手の「バフセオ」にも並ばれています。

 

アステラスは23年3月期のエベレンゾの売上高予想を期初の63億円から35億円に下方修正しましたが、それでもなお達成は厳しい状況です。競合品が連日投与であるのに対し、エベレンゾは週3回で利便性もあるように見えますが、臨床医の間には「保存期では飲み忘れが起こりやすい」という見方もあります。

 

ボトルネックは何か

グラクソ・スミスクライン(GSK)が承認を取得し、協和キリンが単独でプロモーションするダーブロックは、22年12月期に期初予想を11億円上回る66億円を売り上げました。今期予想は78億円で着実な成長が見込まれます。GSKは腎領域での経験が豊富な協和キリンに販売を任せ、自らはメディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)による活動で協業する形をとりました。

 

田辺三菱製薬のバフセオは20年8月に発売されましたが、「想定を上回る需要に対応できない」として、2規格あるうちの「300㎎錠」(開始用量)でいきなり出荷調整を行いました。21年第2四半期以降は売り上げを伸ばしていますが、その伸びは緩やか。鳥居薬品の「エナロイ」も、売上高はごくわずかです。

 

【国内で販売されているHIF-PH阻害薬】 <製品名・一般名/社名/発売/ピーク時/年月/売上高予測>エベレンゾ・ロキサデュスタット/アステラス製薬/19年11月/61.9億円|ダーブロック・ダプロデュスタット/GSK=協和キリン/20年8月/111億円|バフセオ・バダデュスタット/田辺三菱製薬=扶桑薬品工業/20年8月/141億円|エナロイ・エナロデュスタット/JT=鳥居薬品/20年12月/15億円|マスーレッド・モリデュスタット/バイエル薬品/21年4月/91億円|※中医協資料などをもとに作成

 

「あえて切り替える動機が乏しい」

各社が相次いで発売したHIF-PH阻害薬ですが、目論見通りには浸透していないのが現実のようです。処方のボトルネックになっているのは何なのでしょうか。

 

都内の医療機関に勤務する透析専門医は「投与量調節に手間がかかる」と指摘します。HIF-PH阻害薬は、開始用量を投与したあと、患者の状態に応じて投与量を適宜増減する必要があります。皮下注射の痛みがないなど、特に保存期では経口剤のメリットがあるものの、貧血管理のための血液検査が減るわけではありません。

 

この専門医は「透析施設の場合、ESA製剤の静脈内投与が運営定期スケジュールに組み込まれており、透析の前後に経口薬を服薬させるのは意外と煩わしさがある」とも言います。透析の医療費は包括化されていることもあり、手間がかかる上に薬価が高いこともネックです。そのため、ヘモグロビン値の改善効果は長期的に優れているものの、「大半の医師にとっては、あえてESA製剤から切り替える動機が乏しい」と話します。

 

販売側が抱える課題

参入した企業の多くが腎性貧血領域に不慣れで、十分かつ適切な情報提供が行われていないことも課題として挙げられそうです。GSKが協和キリンにプロモーションを全面的に任せたのも、「腎臓領域でのプレゼンスと専門医のカバー率が高い」(GSK)からでした。

 

厚生労働省が16年度から毎年行っている「販売情報提供活動監視事業」の報告書からは、市場の立ち上がりの鈍さとそれに対する焦りのようなものが読み取れます。報告書によると、MRなどによる情報提供活動で法令違反が疑われたケースが20年度に17件、21年度に20件ありましたが、医薬品の種類別に見るといずれも腎性貧血治療薬が最多でした。売り上げが伸びない中でMRが勇み足を踏んだようにも見えますが、報告書では一部企業で組織的に不適切な販売情報提供活動が行われている疑いがあるとも指摘されています。

 

【販売情報提供活動で法令違反が疑われた医薬品】|※報告数が多い上位5種類を抽出 <16年度/17年度/18年度/19年度/20年度/21年度>1/抗がん剤/抗がん剤/抗がん剤/抗がん剤/腎性貧血治療薬/腎性貧血治療薬|2/骨粗鬆症治療薬/潰瘍性大腸炎治療薬/鎮痛剤/鎮痛剤/抗精神病薬/片頭痛予防薬|3/抗てんかん薬/局所麻酔薬/糖尿病治療薬/抗菌薬/抗リウマチ薬/糖尿病薬|4/乾癬治療薬/糖尿病治療薬/脂質異常症治療薬/腎性貧血治療薬/抗がん剤/不眠症薬|5/気管支拡張剤/C型肝炎治療薬/漢方薬/慢性便秘治療薬/抗菌薬/抗ウイルス薬|※厚生労働省「販売情報提供活動監視事業」報告書をもとに作成

 

臨床医が使用をためらう前提には、20年9月に出された日本腎臓学会のレコメンデーションの存在がありそうです。ここには網膜症や血栓症の副作用が記されており、こうしたリスクが過剰に意識され処方にブレーキがかかっていると話す医師もいます。発売時期が新型コロナウイルス感染症の拡大時期と重なったことも不運でした。

 

HIF-PH阻害薬は腎性貧血以外に、虚血性心疾患や末梢動脈疾患、脳卒中などへの効果も期待されており、「適応症が追加されないと腎性貧血管理の中心にはならない」(透析専門医)のかもしれません。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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