3月24日、ノバルティス ファーマが「ビジョンミーティング」と称したレオ・リー社長によるメディア向け説明会を開催しました。ここ数年、新薬投入が相次ぐ反面、業績は伸び悩む傾向にある同社。今後をどのように展望しているのでしょうか。
売り上げはピークから24%減少
スイス・ノバルティスは2022年4月、向こう10年を見据えたに今後の「経営方針」を発表しました。イノベーションの加速と生産性の向上を狙ったもので、これまで「がん」と「それ以外の疾患領域」の分かれていたビジネスユニットを「イノベーティブメディスン部門」として統合。「循環器」「血液がん」「固形がん」「免疫」「中枢神経」の5領域に重点投資する方針を示しました。
グローバルの動きに合わせ、日本法人でも組織改編が行われています。早期退職者の募集をはじめ、営業活動も見直しました。スイス本社は、主要市場を従来の10カ国から米国、中国、ドイツ、日本の4カ国へと絞り込んでおり、同社のグローバル戦略で日本はより重要な市場に位置付けられています。
3年で9新薬発売
ただ、日本法人の売上高はこのところ低迷気味です。官報に掲載される決算公告によると、年間3000億円を超えて推移していた10年ほど前に比べ、ここ数年は2500億円前後にとどまっています。ピークだった13年(3252億円)と直近の21年(2484億円)を比べると、売り上げは24%減少しました。IQVIAによると22年も1.1%の減収(薬価ベース・販促レベル)となっており、出口はまだ先です。
一方、新薬の投入は活発です。過去3年間(20年以降)で発売した新薬は、がんや希少疾患など9つに上り、その数は国内でも有数。適応や剤型の追加も相次いでいます。9新薬のピーク時売上高は、加齢黄斑変性症などを適応とする「ベオビュ」の294億円を最高に、喘息治療薬「エナジア」251億円、心不全治療薬「エンレスト」141億円など、合計すると1000億円を超えます。業績への本格的な貢献はまだ先かもしれませんが、新薬の数に売り上げがついてきていない印象を与えるのは確かです。
リー社長「今後3年で年平均3.5%成長」
最近発売した新薬の中では、慢性心不全治療薬「エンレスト」が22年に売上高280億円と大きく伸長。発売から約1年後の21年9月に高血圧症の適応が追加され、大塚製薬との共同販促で売り上げ規模を拡大しています。同薬はノバルティスにとって血小板減少症/再生不良性貧血治療薬「レボレード」に次ぐ2番目の製品となっており、業績のけん引役となりそうです。心不全治療薬の市場は、19~21年に相次いだ新薬の発売やSGLT2阻害薬の適応追加で競合が激化していますが、エンレストはその中でもシェアを高めているようです。
ノバルティスファーマのレオ・リー社長
ノバルティスは昨年4月の経営方針で、一連のオペレーション改善によって20~26年に年平均4%以上の売上高成長を目指すとしていますが、リー社長は日本では今後3年間で年平均3.5%の成長を目指すと話しました。すでに発売した製品に加え、今年は7品目の承認取得を予定。申請中の新薬には、RNAi医薬品インクリシランナトリウム(一般名、高コレステロール血症または家族性高コレステロール血症)と遺伝子治療薬LTW888(海外製品名・ルクスターナ、両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィー)があり、抗がん剤「ジャカビ」の移植片対宿主病(急性、慢性)への適応追加も控えます。
研究開発では「低分子化合物」「生物学的製剤」に加え、「核酸医薬」「放射性リガンド療法」「遺伝子・細胞治療」のテクノロジープラットフォームによって、重点とする5疾患領域の新薬創出につなげていきます。
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成長のカギは「早期の投資」
切れ目ない新薬開発・発売を原動力に着実な上昇カーブを想定するリー社長ですが、そのポイントは「早めに投資して上市した製品を確実に患者に届けること」と指摘します。たとえば注力している新規技術の放射性リガンド療法では、「治療を受けたい患者がいても、提供できる医療施設は限られている。入院のための準備をしなくてはいけないし、核の廃棄物処理についても施設側と話し合う必要がある」と説明。早期に関係者と協働して体制を整えることにより、新薬上市後に速やかに患者に貢献できると考えています。同社が開発・販売している製品はユニークなものが多いだけに、薬剤を投与するためのインフラ整備は重要です。
リー社長は、これまで業績が伸び悩んでいる要因について詳しい言及は避けましたが、今後の成長のカギは「早期に投資していくこと」だと繰り返します。企業理念とする「最も高い価値を提供し信頼される企業になる」ことが自身の将来展望だとし、「それが達成されれば日本で外資系トップ3になれる」との見通しを語りました。