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「ジレニア」ロイヤリティ、ようやく決着も…田辺三菱製薬、続く正念場

更新日

穴迫励二

田辺三菱製薬がスイス・ノバルティスと争っていた多発性硬化症治療薬「ジレニア」のロイヤリティ支払いについて、国際商業会議所が「支払い義務を定める規定の一部は無効」とするノバルティスの主張を全面的に否定する仲裁判断を示しました。丸4年にわたって業績の足を引っ張ってきた懸案にようやく決着がつき、田辺三菱は経営の立て直しに向かいます。収益性を向上させ、三菱ケミカルグループのヘルスケア事業をリードする存在になれるのでしょうか。

 

 

「売られた喧嘩」解決に丸4年

ジレニアは、田辺三菱製薬が創製したフィンゴリモド塩酸塩を有効成分とするカプセル剤。国内ではノバルティス ファーマと共同開発し、2011年11月に「イムセラ(田辺三菱)/ジレニア(ノバルティス)」の一物二名称で販売を開始しました。

 

海外では、導出先のノバルティスが単独で開発。10年8月のロシアを皮切りに世界各国で発売すると、すぐさま年間売上高が10億ドルを超えるブロックバスターに成長しました。その後数年間は30億ドル規模で推移し、ピークとなった18年には33.4億ドルに到達。22年は後発品にシェアを奪われ20.1億ドルと勢いを落としていますが、ノバルティスにとっては今もなお有力な製品であることに変わりありません。

 

田辺三菱はノバルティスから売り上げに応じたロイヤリティを受け取っており、それは国内市場低迷を補って経営を支える柱となっていました。営業利益に占めるロイヤリティの割合を見てみると、過去10年で営業利益が最大だった16年3月期は54%で、ロイヤリティ収入が最も大きかった18年3月期は75%まで上昇しています。これは、逆にほかの製品が育っていないことの表れでもあり、導出品であるジレニアに強く依存した収益構造になっていたのは明白です。

 

【田辺三菱製薬/営業利益とジレニアロイヤリティの推移】<年/月期/営業利益(億円)/ジレニアロイヤリティ(億円)>14/3/591/322|15/3/671/439|16/3/949/517|17/3/941/537|18/3/773/577|19/3/503/497|20/3/-60/57|21/3/-585/4322/3/-157/36|※田辺三菱製薬の決算発表資料をもとに作成

 

1260億円を一括計上

そうした、ある意味で不安定な状況を直撃したのが、19年に表面化したロイヤリティ支払いをめぐる争いです。同年2月、ノバルティスは「支払い義務を定めた契約の一部規定は無効で、ロイヤリティ一部は支払う義務がない」として国際商業会議所(ICC)に仲裁を申し立てました。これ以降、田辺三菱は、実際にはロイヤリティ収入はあるものの会計上はその一部を収益として認識できない状態が続いていました。

 

今回、ICCの仲裁廷がノバルティスの主張を全面的に否定したことで、田辺三菱はこれまで収益認識してこなかったロイヤリティ収入1260億円を第4四半期に一括して計上します。仲裁申し立てのあった当時、田辺三菱の首脳は、ノバルティスの人事異動で着任した新しい担当者が決めたことだとし、「売られた喧嘩」と表現していました。当初は、仲裁手続きのプロセスに則って2年ほどで決着しそうだと見ていましたが、最終的に丸4年を要することになりました。

 

相次ぐ開発中止 コロナワクチンも断念

1つの課題はクリアしたものの、事業運営はまだ楽観できる状況ではありません。実際、過去3期は営業赤字が続いています。その要因は毎年発生している多額の減損損失で、20年3月期は季節性インフルエンザワクチンの開発中止(米国)で240億円、21年3月期はパーキンソン病治療薬「ND0612」の臨床試験遅延や競合品の開発状況を踏まえた収益性低下で845億円、22年3月期は変形性膝関節症治療薬「MT-5547」の事業計画見直し(のちに開発中止)で158億円を計上しました。

 

そして今期は、2月3日にワクチン開発を手掛けるカナダ子会社メディカゴの全事業から撤退することを発表。カナダで承認取得までこぎつけていた新型コロナウイルスワクチンの商用化を断念し、会社も清算することになりました。これに伴う減損損失は480億円となり、同月7日の第3四半期決算発表時点では通期で345億円の営業赤字を見込んでいました。一括計上するジレニアのロイヤリティがそのまま利益に乗ってくることを考えると、今期は900億円を超える営業利益を確保することになりそうですが、新薬開発が順調でないことは近年の減損からも明らかです。

 

収益改善が最重要テーマ

親会社である三菱ケミカルグループのジョンマーク・ギルソン社長は21年12月の経営方針説明会で、新型コロナワクチンやパーキンソン病治療薬ND0612を含む4製品で25年度に1300億円以上の売り上げが期待できると発言していました。しかし、相次ぐ開発中止でその計画は根底から見直しを迫られています。ジレニアのロイヤリティ問題が決着したとはいえ、展望が開けたわけではありません。

 

ギルソン氏は同じ説明会で、医薬事業について「100%注力しているのは利益性を改善すること」だとし、財務面を立て直してパフォーマンスを改善することが25年度までの最重要テーマだと話しました。グループ全体での大規模なコスト削減も明言しており、新型コロナワクチンでかさんだ研究開発コストにもメスが入りそうです。

 

懸案解決で再スタートとなった田辺三菱製薬ですが、今後、どの分野を成長領域とみなして投資していくのでしょうか。競争の優位性や市場の魅力などを勘案し、今月24日に発表を予定する23年度からの新たな中期経営計画で示すことになりそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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