1. Answers>
  2. AnswersNews>
  3. ニュース解説>
  4. アステラスと第一三共が社長交代…新社長が背負うミッションは
ニュース解説

アステラスと第一三共が社長交代…新社長が背負うミッションは

更新日

前田雄樹

アステラス製薬と第一三共が今年4月の社長交代を発表しました。いずれも、2025年度を最終年度とする経営計画の折り返しを迎えるタイミングでのバトンタッチとなります。それぞれの新社長が背負うミッションは――。

 

 

アステラス5年ぶり、第一三共6年ぶり

「2023年度は成長を一段と加速させる攻めのタイミング。社長を交代し、新たなリーダーシップチームを編成して、2025年度を最終年度とする経営計画の達成、さらにはその先の長期的な成長に向けた戦略を検討・実行することが最適と判断した」

 

2月6日、次期社長人事を発表したアステラス製薬。同日開いた記者会見で安川健司社長CEO(最高経営責任者)は5年ぶりとなる社長交代の背景をこう説明しました。4月1日付で安川氏から経営のバトンを引き継ぐのは、副社長経営戦略担当(CStO=チーフ・ストラテジー・オフィサー)を務める岡村直樹氏。安川氏は同日付で代表権のある会長に就任します。

 

安川氏と岡村氏は、ともに1986年に旧山之内製薬に入社した同期(年齢は安川氏が2つ上)。安川氏は岡村氏について「不確実性の高い環境の中でも固定観念や既成概念にとらわれず、アステラス全体を俯瞰した決定ができる人物。論理的かつ情熱的、厳しくも温かく、真面目でありユーモアのある人柄は、社内からも厚い信頼を集めている」と評しました。

 

新社長の岡村氏は入社以来、主に企画畑を歩み、10年に買収した米OSIファーマシューティカルズのCEOや、アステラスの事業開発部長、経営企画部長を歴任。19年4月に副社長CStOに就任し、同年6月には代表取締役に就任しました。「16年に経営企画部長に就任してから7年間、アステラスの戦略策定とその実践の中心にいたという自負がある。社長就任という形でその責任を全うできることを光栄に思う」。岡村氏は会見でこう語りました。

 

【アステラス製薬と第一三共の歴代社長】<アステラス製薬>旧山ノ内/2005年/竹中登一(63)|旧藤沢/2006年/野木森雅郁(58)|旧藤沢/2011年/畑中好彦(54)|旧山ノ内/2018年/安川健司(57)|旧山ノ内/2023年/岡村直樹(60)<第一三共>旧三共/2005年/庄田隆(57)|旧第一/2010年/中山譲治(60)|旧三共/2017年/真鍋淳(62)|旧三共/2023年/奥澤宏幸

 

一方、1月31日に6年ぶりとなる社長交代を発表した第一三共の眞鍋淳社長CEOは同日の記者会見で「今後、これまで経験したことのない急速な利益拡大期を迎える。中期経営計画25年度目標の達成を確実にする」と人事の背景を説明。眞鍋氏は17年4月の社長就任時からこのタイミングでのバトンタッチを想定していたといい、「私としては自分のプラン通りに将来を託せる後継者を選択できたと思っている」と話しました。

 

同社は4月1日付で、専務執行役員経営企画・管理本部長CFO(最高財務責任者)の奥澤宏幸氏が代表取締役社長COO(最高執行責任者)に就任。眞鍋氏は代表取締役会長に就き、引き続きCEOを務めます。

 

新社長の奥澤氏は1986年に旧三共に入社。20代から30代にかけて延べ8年間駐在したドイツでは高血圧症治療薬「オルメテック」などの上市に携わり、帰国後は社長直下で旧三共と旧第一製薬の統合交渉をリード。その後は人事や経営戦略などコーポレート部門を経験し、アジア・中南米事業の責任者を経て、21年からCFOを務めています。眞鍋氏は奥澤氏について「上司、同僚、部下からの信頼は最も厚い。課題解決のための施策を確実に抽出し、実行できる胆力の強さもある」と評価しました。

 

特許切れ迫るアステラス、ADC拡大の第一三共

アステラスと第一三共は現在、2025年度を最終年度とする経営計画が進行中。折り返しとなる3年目に入るタイミングで、ともに60歳の新社長が誕生することになりますが、両社の置かれた状況は異なります。

 

「独占期間満了後の成長を盤石なものに」

アステラスは最大の主力製品である抗がん剤「イクスタンジ」の特許が27年ごろに切れる見込みで、岡村氏は「イクスタンジの独占期間満了後の持続的な成長を盤石なものにして、次のリーダーにバトンタッチすることが私の使命」と強調。「基本的にはこれまでの経営方針やビジネスの方向性を継続していく。ただ、経営環境もプロジェクトの進捗も刻々と変化しているので、柔軟に優先順位を組み換え、限りある経営資源を適切に投下していく」との考えを示しました。

 

関連記事:アステラス 2027年の「XTANDIクリフ」への打ち手は

 

【アステラス製薬の業績】<年度/売上収益(億円)/営業利益(億円)>17/13003/2133|18/13063/2439|19/13008/2440|20/12495/1361|21/12962/1557|22/15290/1950|※22年度は予想。アステラス製薬の決算短信をもとに作成

 

アステラスは18年に安川氏が社長に就任して以来、疾患領域を定めて研究開発を行う従来のビジネスモデルを見直し、「バイオロジー」「モダリティ」「疾患」のかけ合わせで重点的に資源を配分する分野を決める「フォーカスエリアアプローチ」を推進。このアプローチによって、これまでに遺伝子治療やがん免疫など5つを重点分野に定めており、経営計画では重点分野から生まれる製品群で2030年度に5000億円を稼ぐことを目標の1つに掲げています。ただ、コロナ禍で臨床試験が世界的に一時停滞したこともあり、進捗は必ずしも思わしくなく、安川氏は「発展はあったがPoC(プルーフ・オブ・コンセプト)を取れていないことが在任中の残念なところ」と振り返りました。

 

岡村氏も「独占期間満了後に持続的に成長できるよう備えなければならないので、フォーカスエリアアプローチからモノが出てくるということにはこだわっていきたい。それが30年度に5000億円という数値とリンクしているかは考えないといけないが、25年度に(フォーカスエリアアプローチ由来の)パイプラインの価値が一定以上積み上がっていなければ、経営計画を達成したと言えない」と話しました。

 

「ADCの次」見極め

一方の第一三共は、注力してきた抗体薬物複合体(ADC)が収穫期を迎えています。眞鍋氏は「現在の中計の最大の柱である『3ADC(エンハーツ、ダトポタマブ デルクステカン、パトリツマブ デルクステカン)の最大化』については、ここまで想定以上の結果が出ている」と強調。中計で掲げる25年度の数値目標(売上収益1兆6000億円、がん領域売上収益6000億円以上)は「確実に達成できると考えている」と自信を見せました。

 

関連記事:第一三共「5年で売り上げ1.66倍」の目算

 

【第一三共の業績】<年度/売上収益(億円)/営業利益(億円)>17/9602/763|18/9297/837|19/9818/1388|20/9625/638|21/10449/730|22/12500/1300|※22年度は予想。第一三共の決算短信をもとに作成

 

投資先行から利益拡大へとフェーズが変わるタイミングで社長に就任する奥澤氏は、「自社のグローバル製品でこれほど大きな躍進が期待できるのは、入社以来、私にとっても初めての経験だ」と話し、「中計の達成に向けて、エンハーツをはじめとするDXd-ADC(ペイロードにデルクステカンを用いたADC)のグローバル開発加速、売り上げ伸長に最優先で取り組む」と強調。「現中計の先を見据え、現在の研究開発パイプラインの中からDXd-ADCに続く成長ドライバーを見極めることも重要課題だ」と語りました。

 

「3ADC」以降の成長の柱を構築することは、現中計の戦略の1つに組み込まれており、奥澤氏は「新型コロナウイルスワクチンとして開発を進めているmRNA技術も成長ドライバーの候補の1つだ」と指摘。「第一三共のサイエンスとテクノロジーが生み出したADCは今、世界中の優秀人材を惹き付けている。グローバル共通の人事制度とシステムを整備し、経営戦略と人事戦略を連動させ、グローバルな適所適材を実現したい」との抱負も披露しました。

 

6年前に眞鍋氏が社長に就任した時も、前任の中山譲治氏が会長とCEOを兼務し、2年後

にCEO職を引き継ぎました。眞鍋氏は「適切なタイミングで譲ろうと思っているが、そう長くは必要ないだろうと思っている」と述べるにとどめましたが、次期中計の策定が本格化するとみられる25年4月あたりが1つの目安となりそうです。

 

国内の大手2社が社長交代を発表したことで、他社の動向にもあらためて関心が集まります。住友ファーマと協和キリンはアステラスと同じく5年前にトップの交代がありました。今年6月で就任10年目に入る武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長や、この4月で丸15年となる塩野義製薬の手代木功社長らの動きも注目されるところです。

 

【国内主要製薬企業 社長の在任期間】<社名/氏名/年齢/社長就任/在任期間>武田薬品工業/C・ウェバー/56/2014年6月/8年8カ月|大塚HD/樋口達夫/72/2008年7月/14年7カ月|大塚製薬/井上眞/64/2020年3月/2年11カ月|大鵬薬品工業/小林将之/56/2012年4月/10年10カ月|アステラス製薬/安川健司/62/2018年4月/4年10カ月|第一三共/眞鍋淳/68/2017年4月/5年10カ月|中外製薬/奥田修/59/2020年3月/2年11カ月|エーザイ/内藤晴夫/75/1988年4月/34年10カ月|住友ファーマ/野村博/65/2018年4月/4年10カ月|小野薬品工業/相良暁/64/2008年9月/14年5カ月|協和キリン/宮本昌志/63/2018年3月/4年11カ月|塩野義製薬/手代木功/63/2008年4月/14年10カ月|参天製薬/伊藤毅/63/2022年9月/5カ月|※年齢と在任期間は2023年2月1日現在。各社の有価証券報告書をもとに作成

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

あわせて読みたい

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる

オススメの記事

人気記事

メールでニュースを受け取る

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる