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スイス・ノバルティス、放射性リガンド療法に注力…「セラノスティクス」日本企業でも研究開発の動き

更新日

前田雄樹

(写真:ロイター)

 

スイス・ノバルティスが、放射性リガンド療法の研究開発に力を入れています。放射性リガンド療法は、診断と治療を一体的に提供する「セラノスティクス」でも注目されており、アステラス製薬など日本企業でも開発の動きが出ています。

 

 

注目されるセラノスティクス

放射性リガンド療法は、標的に結合するリガンドと放射線を発する放射性同位元素(ラジオアイソトープ=RI)をリンカーでつないだ薬剤(放射性リガンド)を投与し、放射線によってがん細胞を死滅させる治療です。投与された放射性リガンドは標的タンパク質に結合することでがん細胞に集まり、RIがα線やβ線といった放射線を放出。放射線ががん細胞のDNA切断をし、死滅させます。

 

放射性リガンド療法の利点は、標的となるがん細胞にRIを正確に届け、選択的に放射線を直接照射できることです。周辺細胞へのダメージを最小限に抑えることができ、近畿大医学部放射線医学教室の細野眞教授は「患者の体全体への負担は小さい。生活の質を維持しながら治療することができる」と話します。

 

【放射性リガンド療法の仕組み】放射性リガンドががん細胞表面の受容体に結合→放射性リガンドが放射線を放出→放射線がDNA切断を起こし、がん細胞を死滅させる

 

放射性リガンド療法のもう1つの利点が、リガンドにつなぐRIを変えることで、治療にも診断にも使える点です。スイス・ノバルティスが昨年、米国と欧州で承認を取得した「Pluvicto(プルビクト)」は、PSMA(前立腺特異的膜抗原)に結合するリガンドにルテチウム177というRIを組み合わせた放射性リガンド療法ですが、同時にガリウム68というRIを組み合わせた診断薬「Locametz(ロカメッツ)」も承認されました。Locametzによる画像診断でPSMA陽性のがんであることを確認し、その上でPluvictoによってがん細胞を破壊する治療を行うもので、こうした診断と治療を一体的に行う手法は「セラノスティクス(セラピーとダイアグノスティクスを組み合わせた言葉)」として注目されています。

 

ノバルティス 注力技術の1つに

ノバルティスは注力する3つの新規技術の1つに放射性リガンド療法を位置付けており(残る2つはRNAと遺伝子・細胞療法)、2018年に放射性医薬品を手掛ける2つの企業を計60億ドルで買収。39億ドルを投じた仏アドバンスト・アクセラレーター・アプリケーションズ(AAA)買収では21年に日本でも承認された「ルタテラ」を、21億ドルで買収した米エンドサイトからはPluvictoを手に入れました。

 

ノバルティスは2030年までに100万人のがん患者に放射性リガンド療法を提供することを目標に掲げており、日本法人の名取宏子オンコロジーディベロップメントユニットヘッドは「放射性リガンド療法は新たな治療クラスとなり得る。がん治療を大きく変えていきたい」と強調します。

 

ノバルティス 製造にも積極投資

ノバルティスは買収で獲得した技術基盤をもとに放射性リガンド療法の研究開発を加速させています。ルタテラやPluvictoの適応拡大に向けた臨床試験が複数行われているほか、複数の新規の薬剤が初期の臨床試験を実施中。Pluvictoの開発は日本でも行われており、ホルモン感受性前立腺がんの適応で臨床第3相(P3)試験が、去勢抵抗性前立腺がんの適応でP2試験が行われています。製造への投資も積極的に行っており、米インディアナポリスに新設した工場は今年、稼働を開始する予定です。

 

【ノバルティス 放射性リガンド療法のパイプライン】<品名/適応/開発段階/P1/P2/P3/申請/承認>ルタテラ/標的:SSTR/神経内分泌腫瘍/承認/膵消化管神経内分泌腫瘍(1L)/P3/膵消化管神経内分泌腫瘍(小児)/P2/膠芽腫/P2/進展型非小細胞肺がん/P2|Pluvicto標的:PSMA/転移性去勢抵抗性前立腺がん(抗アンドロゲン薬・タキサン既治療)/承認/転移性ホルモン感受性前立腺がん/P3/転移性去勢抵抗性前立腺がん(タキサン治療前)/P3|AAA817標的:PSMA/転移性去勢抵抗性前立腺がん/P1|AAA603/標的:GRPR/固形がん/P1|※スイス・ノバルティスのホームページをもとに作成

 

放射性リガンド療法やセラノスティクスの市場は今後、拡大が予想されており、日本企業でも動きが出てきています。

 

アステラスやペプチドリームが研究開発

アステラス製薬は2021年、米アクチニウム・ファーマシューティカルズとセラノスティクスに関する共同研究を開始。アステラスが見出したがん標的分子と、アクチニウムが持つα線放出核種(アクチニウム225)を組み合わせた治療薬の効果を検証しています。有望な治療薬候補が見つかれば、診断薬と治療薬を組み合わせた臨床試験に入る方針です。

 

ペプチドリームは22年3月、富士フイルム富山化学から放射性医薬品事業を220億円で買収。ペプチドとRIを組み合わせた薬剤の実用化を目指しています。日本メジフィジックスは2019年に33億円を投じてセラノスティクスの研究開発拠点を建設し、昨年4月には治療用RIとして世界的に需要が高まっているアクチニウム225の治験薬製造スケールでの製造に成功。同社は抗体とRIを組み合わせたセラノスティクスの研究開発を進めています。

 

ベンチャー企業のアルファフュージョン(大阪市)は、大阪大などの研究成果をもとにα線を出すアスタチンを使った標的治療を開発。同大で医師主導治験が行われています。

 

研究開発が進む一方で、普及に向けては課題もあり、近畿大の細野教授は▽放射線に関する規制が複雑である▽治療用RIの供給体制が脆弱である▽放射線治療病室が不足している▽放射線管理に必要なコストに対して診療報酬が低い▽放射線に関する科学技術・社会リテラシーが不足している――の5点を指摘しています。さまざまながんに対象が広がっていくと期待される中、研究開発と並行して環境整備を進めていくことが必要です。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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