国内医療用医薬品市場の停滞が叫ばれる中、製薬各社の国内事業はどんな状況にあるのでしょうか。主要企業の2022年4~9月期決算を見てみると、事業構造が変化しつつあることが読み取れます。
塩野義、コロナで業績一変か
海外事業を含む全体の売上収益は、7社(武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共、エーザイ、住友ファーマ、小野薬品工業、塩野義製薬)のうちエーザイを除く6社で増収となり、7社すべてが通期の売上収益予想を上方修正しました。業績上振れの主な要因は急激な円安ですが、各社のグローバル製品が成長したことも見逃せません。全体的に見ると、製薬各社の業績は概ね好調に推移していると言えるでしょう。
ただ、国内事業は各社でかなりのばらつきがあります。7社の国内売上収益は計9710億円で、前年同期の1兆1215億円から1505億円減少しました。これは、武田薬品が前年同期に糖尿病治療薬事業の譲渡益(1330億円)を計上していたことや、第一三共が共同販促の終了でPPI「ネキシウム」の売り上げ(前年同期は396億円)を失ったことが響いていますが、これら2つの要素(計約1700億円)を差し引いても、やはり国内事業は全体としてあまり成長していないことがわかります。
今回の各社の決算を眺めてみると、来期以降も含めて事業の構造が変わりそうな企業がいくつかありました。
塩野義の4~9月期の国内医療用医薬品売上収益は、インフルエンザ治療薬の市中在庫の見直し(返品計上)という特殊要因もあって前年同期比29.2%減の334億円に落ち込みました。23年3月期通期は期初予想を22億円下方修正し、764億円を見込んでいます。ただ、ここには新型コロナウイルス関連製品は含まれていないので、抗ウイルス薬「ゾコーバ」が承認されれば業績は一変する可能性があります。
問題はむしろベースビジネスです。旧シャイアーとの契約に基づいて国内販売を担っていたADHD(注意欠陥・多動症)治療薬「インチュニブ」「ビバンセ」が、シャイアーを買収した武田薬品に承継されることになりました。武田薬品がオプション権を行使したため、両剤の共同開発・商業化に関するライセンス契約は終了。23年4月以降、塩野義は両剤の売り上げを計上できなくなります。
インチュニブはすでに塩野義の売り上げトップ製品となっており、今期は200億円を見込んでいます。再審査期間の終了は25年3月ですから、本来なら少なくともあと2年以上は業績に貢献するはずでした。新型コロナ関連ではワクチンも年内の申請を目指していますが、治療薬とともに業績を押し上げることになれば、国内事業の構造はこれまでとは違った風景になりそうです。塩野義はゾコーバと新型コロナワクチンで今期1100億円の売り上げを計画しています。
住友ファーマ、ポートフォリオ再構築急務
米国で販売しているパーキンソン病治療薬の不振に伴う減損損失で赤字に転落した住友ファーマは、国内事業も振るいません。4~9月期の国内売上収益は前年同期比100億円減の666億円となりました。減収分のうち62億円は薬価引き下げによるものですが、最大の課題は事業を牽引する製品に乏しいことでしょう。主力の糖尿病治療薬「エクア/エクメット」はDPP-4阻害薬市場が頭打ちとなる中で10.3%の売り上げ減。抗精神病薬「ラツーダ」「ロナセンテープ」は伸びていますが、業績への貢献度合いは高くありません。
そうした中で痛手となるのが、エクア/エクメットとともに糖尿病フランチャイズの両輪だったGLP-1受容体作動薬「トルリシティ」の販売提携終了です。同薬の製造販売承認を持つ日本イーライリリーが住友ファーマとの共同販促を年内で解消し、来年1月以降はリリーが自ら販売・流通・情報提供活動を行うことになりました。結果として住友ファーマは国内事業の通期売上収益予想を42億円下方修正し、前期比16.2%減と2桁減収を見込まざるを得なくなりました。トルリシティは年間の売り上げが300億円規模(薬価ベース)の製品だっただけに、ポートフォリオの再構築は急務です。
アステラス7期ぶり、エーザイ4期ぶり国内増収へ
一方、国内事業が右肩下がりだったアステラスには、底打ちの兆候がうかがえます。ここ数年は主力製品の特許切れで厳しい状況が続いていましたが、22年3月期の国内売上収益は減収となったものの予想を100億円近く上回って着地。23年3月期は予想を48億円上方修正し、前期比2.1%増の2623億円を見込んでいます。実現すれば、アステラスの国内事業は7期ぶりのプラス成長となります。国内大手製薬企業では近年、好調な海外事業で厳しい国内事業をカバーするのが一般的ですが、今期のアステラスは米国の下振れを欧州と日本が支える構図になっています。
個別製品では、腎性貧血治療薬「エベレンゾ」は期待に届かないものの、がん領域では「イクスタンジ」が伸びるとともに「パドセブ」が通期の売り上げ予想を43億円から83億円へと大幅に上方修正。プライマリーからスペシャリティへの端境期を過ぎ、成長路線へと舵が切れそうになってきました。
アステラスと同様に、業績回復へと向かいそうなのがエーザイです。リウマチ治療などに使う「ヒュミラ」が思ったほどバイオシミラー(BS)の影響を受けておらず、不眠症治療剤「デエビゴ」と抗がん剤「レンビマ」を含めた主要3製品の通期予想をいずれも上方修正。国内トータルでは従来の減収見込みから一転して1.6%増へとプラス成長にめどをつけました。ヒュミラについては中期的なBSの浸食度合いが不明ですが、レンビマに勢いが出てきたことやデエビゴの急加速を見ると、一時の停滞から抜け出せそうな勢いで、4期ぶりの国内増収を狙います。
第一三共、がん領域で地盤固め
第一三共はがん領域の地盤固めに入っています。期待の「エンハーツ」は4~9月期の52億円に対し、通期はHER2陽性乳がん2次治療の適応追加で160億円まで伸ばす計画です。抗凝固薬「リクシアナ」は国内で通期1000億円の大台を突破する見込みで、屋台骨を支えます。がん領域ではエンハーツに続くADC(抗体薬物複合体)の開発も順調に進んでおり、株式市場での評価も高まっています。
小野薬品は免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が4~9月期に699億円を売り上げ、通期では1550億円まで拡大すると予想。胃がんの1次治療をはじめ適応拡大が順調に進んでいて、同薬は国内売上収益の半分を占めています。好業績は同薬によるところが大きいわけですが、SGLT2阻害薬「フォシーガ」も貢献しています。25年12月には糖尿病の適応で後発医薬品の参入が見込まれますが、慢性心不全や慢性腎臓病でも市場を拡大させています。ここ2~3年で発売した新製品も、抗がん剤「ベレキシブル」「ビラフトビ」「メクトビ」などが育っており、オプジーボだけに頼らない安定感が見られます。
武田薬品もがん領域で拡大してきましたが、国内事業を牽引するのは酸関連疾患治療薬「タケキャブ」。同薬は通期で1000億円に達しそうです。