中外製薬が加齢黄斑変性/糖尿病黄斑浮腫治療薬「バビースモ」を発売し、眼科領域に参入しました。「アイリーア」に「ベオビュ」と有力製品が居並ぶ市場で、眼科専任MRを配置して浸透を狙います。親会社であるスイス・ロシュのパイプラインには、アンメットメディカルニーズの高い萎縮型加齢黄斑変性をターゲットとしたものなど、網膜疾患に対する複数の新薬候補があり、将来的に大きな事業領域になる可能性があります。
16週1回の投与を実現
中外製薬は5月25日、「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性(滲出型AMD)」と「糖尿病黄斑浮腫(DME)」の治療薬「バビースモ硝子体内注射液」(一般名・ファリシマブ)を発売しました。中外にとっては初の眼科領域の製品で、中央社会保険医療協議会(中医協)の資料によると、ピーク時の売上高予測は320億円(薬価ベース)と大型化が見込まれています。
同薬は、滲出型AMDやDMEで主要な治療標的となっているVEGF-A(血管内皮増殖因子-A)に加え、Ang-2(アンジオポエチン-2)の働きを阻害するバイスペシフィック抗体。VEGF-Aは血管新生に、Ang-2は血管不安定化に関与しているとされ、これら両方を阻害することで血管を安定化させ、浮腫の原因となる新生血管からの血液や血液成分の漏出を抑制します。
滲出型AMDやDMEに対する販売中の抗VEGF療法としては、▽「ルセンティス」(ラニビズマブ、製造販売元=ノバルティスファーマ)▽「アイリーア」(アフリベルセプト、製造販売元=バイエル薬品/販売元=参天製薬)▽「ベオビュ」(ブロルシズマブ、製造販売元=ノバルティス)――に続く4剤目となるバビースモですが、最大の特徴は維持期の投与間隔を16週間まで延ばせる点にあります。
眼科専任MRを配置
承認の根拠となった4本のグローバル臨床第3相(P3)試験(滲出型AMDとDMEでそれぞれ2本)では、いずれもVEGF阻害薬アイリーアと同等の有効性が示されましたが、投与開始1年後の時点での約半数の患者が16週間間隔投与を達成(滲出型AMDで44.9~45.7%、DMEで51.0~52.8%)。DMEでは投与開始2年の時点で60.0~64.5%の患者で16週間間隔投与を実現しました。
従来の眼科用VEGF阻害薬の添付文書上の投与間隔(滲出型DMEの維持期)は、アイリーアが2カ月間、ベオビュが12週間。バビースモは投与間隔の延長による患者負担の軽減が期待され、中外は新規処方と既存薬からの切り替えの両方で市場浸透を図る構え。中外が6月に開いたメディア・投資家向けの製品説明会で講演した東京女子医大の飯田知弘教授は「新規の作用機序により、既存薬では効果が不十分だった患者への治療オプションとして期待される。投与間隔を延ばすことで、患者や家族の負担を減らすことができる」と話しました。
眼科用VEGF阻害薬の市場では、アイリーアが2021年度に薬価ベースで867億円を売り上げ(IQVIA調べ)、ベオビュもピーク時に薬価ベースで294億円の販売を見込んでいます。中外は今月から、営業組織を従来のエリア中心の体制から「オンコロジー」と「スペシャリティ」の2領域体制に再編。新たに眼科専任MRを配置し、スペシャリティMRと専任MRが連携してバビースモの情報提供活動を行う体制を構築しています。
半年1回補充のPDSは24年申請予定
中外はバビースモの投入を皮切りに、眼科領域で事業を拡大させていく考えです。親会社であるスイス・ロシュは眼科領域で豊富なパイプラインを抱えており、奥田修社長CEOは「これらを使って眼科領域に注力していく」と話しています。
国内では現在、バビースモの網膜静脈閉塞症への適応拡大に向けたP3試験が進行中。今年3月には、ラニビズマブのポートデリバリーシステムのP1/2試験(滲出型AMDとDMEが対象)を始めました。バビースモの適応拡大は2023年、ラニビズマブのポートデリバリーシステムは24年の申請を予定しています。
核酸や細胞治療も
ラニビズマブのポートデリバリーシステムは、埋込み型インプラントを眼内に留置し、そこから薬剤が長期的かつ継続的に徐放されるシステム。半年に1回の頻度で薬剤を充填することで、ラニビズマブを毎月注射するのと同程度の視力の維持が期待できるといいます。米国では昨年10月にロシュグループのジェネンテックが滲出型AMDの適応で承認を取得し、「SUSVIMO」の製品名で販売中。DMEや糖尿病網膜症を対象としたP3試験も行われています。
ロシュのパイプラインには、現在のところ有効な治療法がない地図状萎縮を伴うAMD(萎縮型AMD)をターゲットとしたアンチセンスオリゴヌクレオチドや細胞療法などが控えており、ポートデリバリーシステム向けに設計された抗VEGF/Ang-2抗体Fab断片も初期の開発が行われています。
がん領域に強みを持つ中外ですが、近年は血友病や神経疾患などへも事業領域を拡大させています。眼科領域も将来的に大きな事業領域に育つかもしれません。