2021年に起こった製薬業界のできごとを2回にわけて振り返ります。
MR数 過去最大の減少
コロナ禍でデジタルシフトが進んだ営業現場では、MRの削減に拍車がかかっていることが明らかになりました。MR認定センターが11月に発表した2021年版の「MR白書」によると、20年度末(今年3月末)時点の国内のMR数は5万3586人で、前年度から3572人(6.2%)減りました。減少は7年連続で、減少幅は過去最大。ピーク時の13年度(6万5752人)と比べると1万2166人減っています。
アステラスなどが早期退職
薬価引き下げや後発医薬品の普及を背景に、国内市場の収益環境は厳しくなっており、製薬各社はここ数年、営業の効率化を進めています。新薬開発のターゲットが変化し、各社がスペシャリティ領域の製品に力を入れる中、医師への訪問回数を競うような営業手法は鳴りを潜めました。コロナ禍では医療機関からの訪問自粛要請もあり、情報提供活動がオンラインへとシフト。デジタル化が進み、MRの削減が加速しました。
近年相次ぐ早期退職は今年、アステラス製薬が本体と子会社2社で計450人ほどの応募を想定して募集を実施。スズケンが子会社3社とともに募集した早期退職には511人が応募しました。武田薬品工業(対象は管理部門)やアストラゼネカでも、早期退職者の募集が報じられました。
片頭痛で新薬ラッシュ
国内では今年も、さまざまな新薬が世に送り出されました。
新規作用機序の薬剤では、FGFR阻害薬「ペマジール」(インサイト・バイオサイエンシズ・ジャパン、対象疾患=胆道がん)やミトコンドリア機能改善薬「ツイミーグ」(大日本住友製薬、2型糖尿病)、SMN2スプライシング修飾薬「エブリスディ」(中外製薬、脊髄性筋萎縮症)、RET阻害薬「レットヴィモ」(日本イーライリリー、非小細胞肺がん)などが発売。片頭痛の領域では、「エムガルティ」(リリー)、「アジョビ」(大塚製薬)、「アイモビーグ」(アムジェン)と、CGRPを標的とした3つの抗体医薬が相次いで登場しました。
今年収載の新薬 ピーク時100億円超は15
JCRファーマは、独自の血液脳関門通過技術を初めて適用したムコ多糖症II型治療薬「イズカーゴ」を5月に発売。9月には同薬の海外での開発・販売で武田薬品工業と提携し、グローバル展開に大きく弾みをつけました。
今年薬価収載された新薬のうち、ピーク時に100億円以上の売り上げを予測しているのは15成分。特に大型化が見込まれるのは、ファイザーのトランスサイレチン型心アミロイドーシス治療薬「ビンマック」(524億円)や、ヤンセンファーマの多発性骨髄腫治療薬「ダラキューロ」(370億円)で、10月に一般流通を開始した新型コロナ治療薬「ベクルリー」(ギリアド・サイエンシズ)は181億円の販売予測となっています。
「アデュヘルム」日米欧で分かれた判断
一方、再生医療等製品では、国内初の腫瘍溶解性ウイルス「デリタクト」(第一三共)が8月に薬価収載され、11月に販売を開始。対象疾患は悪性神経膠腫で、ピーク時に12億円の販売を見込んでいます。
CAR-T細胞療法では、国内2剤目となる「イエスカルタ」(第一三共)と、同3剤目となる「ブレヤンジ」(ブリストル・マイヤーズスクイブ)が収載。武田薬品工業は、同社初の再生医療等製品となる同種異系脂肪組織由来間葉系幹細胞製品「アロフィセル」を11月に発売しました。
日本は部会継続審議
海外に目を向けると、今年は米バイオジェンとエーザイのアルツハイマー病治療薬「アデュヘルム」の米国での承認が注目を集めました。同薬は2本の臨床第3相試験のうち1本でしか主要評価項目を達成しておらず、米FDA(食品医薬品局)は諮問委員会の否定的見解を押し切って6月に承認。諮問委の委員が承認に抗議して辞任するなど物議を醸しました。一方、欧州では、EMA(欧州医薬品庁)の欧州医薬品委員会が12月、承認に否定的な見解を採択。日本でも同月、薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会が「現時点のデータから有効性を明確に判断するのは困難」として継続審議を決めました。部会は追加データの提出を求めていますが、これには年単位の時間がかかると予想されます。
米国での承認には賛否がありますが、アルツハイマー病に対する疾患修飾薬への期待を高めたのも事実。エーザイとバイオジェンは、共同開発しているもう一つの薬剤レカネマブの段階的申請を米国で9月に開始し、10月に米イーライリリーもドナネマブの米国での段階的申請に踏み切りました。