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【NASH】脱落相次いだ開発レース、ノボやリリーなど開発進展

更新日

亀田真由

 

肥満人口の増加に伴い、世界で患者が増えている非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)。病態に関わる因子が多様なため、治療薬開発の難易度は高く、これまでに多くのプレイヤーが相次いで臨床試験に失敗してきました。それでもなお、アンメットニーズの高いこの疾患に世界中の多くの製薬企業が挑んでおり、海外大手を中心に開発競争が繰り広げられています。

 

 

日米欧で承認された治療薬はまだない

NASHは、成人の4人に1人が罹患する非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のうち、肝細胞に炎症が見られる慢性進行性肝疾患。進行すると肝線維化や肝機能障害につながるおそれがあり、肝線維症、肝硬変、肝臓がんの主要な原因の1つとされています。NASHやNAFLDは2型糖尿病や肥満など代謝異常の患者によく見られ、肥満人口の増加に伴って世界で患者が急増。NASHの有病数は世界で4億4400万人に上るとされ、日本でも200~300万人の患者がいると推定されています。

 

NASHは自覚症状がほぼなく、診断が困難です。確定診断には侵襲性の高い肝生検が必要となることもあり、診断率は高くありません。

 

NASHの治療は、食事療法や運動療法など生活習慣の改善による減量と、糖尿病や高血圧といった合併症の治療がメインで、肝不全に至った場合の治療法は肝臓移植しかありません。昨年末、インドで地元のザイダス・カディラが開発したsaroglitazar(一般名)がNAFLD治療薬として承認されましたが、米国や欧州、日本で承認された治療薬はまだなく、多くの製薬企業が開発を進めています。

 

オベチコール酸やセマグルチドなどがP3

NASHの病態には、インスリン抵抗性や酸化ストレスなど複数の因子が関係しているとされ、各因子に関連する標的に対するさまざまな治療薬が開発されていますが、それゆえに開発の難度は高く、これまでに多くの新薬候補が開発レースから脱落してきました。

 

19年には、米ギリアドがASK-1阻害薬selonsertibの臨床第3相(P3)試験に失敗。P3試験まで進んでいた仏ジェンフィットのPPARα/δ活性化薬elafibranorやアイルランド・アラガン(米アッヴィが買収)のCCR2/5拮抗薬cenicrivirocも開発中止となりました。田辺三菱製薬も今年、自社創製の選択的ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬「MT-3995」について、競合状況などを踏まえてアライアンス活動を含めた開発を中止しています。

 

現在、P3試験の段階にあるのは、米インターセプトのオベチコール酸、米マドリガルのresmetirom、デンマーク・ノボ ノルディスクのセマグルチドなど。FXR作動薬のオベチコール酸は、selonsertibの開発失敗によってNASH治療薬第1号になると期待されていた薬剤で、2019年に米国と欧州で申請されましたが、翌年6月に米FDA(食品医薬品局)が「ベネフィットがリスクを上回らない」として承認を見送りました。

 

同薬は、中等度から高度の線維化を伴う患者を対象とする臨床試験で肝線維化を有意に改善したものの、効果が得られた患者は限られており、有害事象として高い頻度で掻痒が確認されています。同社はFDAと協議を続けており、有望な追加データが出てくれば再申請を行うとしています。同薬をめぐっては、大日本住友製薬がインターセプトから日本と韓国での開発・販売権を取得していましたが、18年に権利を返還しました。

 

【海外でP3試験が行われている主なNASH治療薬】/以下、(一般名):(社名):(作用機序)|obeticholic acid:米インターセプト:FXR作動薬|resmetirom:米マドリガル:THR-βアゴニスト|aramchol:イスラエル・ガルメド:SCD1モジュレーター|belapectin:米ガレクチン:Galectin-3阻害薬/*適応はNASH肝硬変|semaglutide:デンマーク・ノボ:GLP-1受容体作動薬|lanifibranor:仏Inventiva:PPARα/δ/γアゴニスト|※各社のパイプラインやプレスリリースをもとに作成

 

追いかける米マドリガルのresmetiromは、甲状腺ホルモン受容体(THR)-βアゴニスト。非侵襲的診断とバイオマーカーに関する非盲検試験では、肝脂肪や線維化、炎症を減少させる効果が示唆されているといい、並行して進めているプラセボ対照のP3試験に期待がかかります。22年中の申請が目標です。

 

ノボのセマグルチドは今年、中等度から高度の線維化を伴う患者1200人を対象にグローバルP3試験を開始しました。同薬は2型糖尿病(グローバル)や肥満(米国)の適応で承認されているGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬。P3試験は、NASHの解消や肝線維化の改善といった組織学的改善を評価するパート1と、肝関連複合イベントのリスク低減を評価するパート2に分かれており、パート1のデータが明らかになった段階で、終了したP2試験の結果と合わせて申請を行う予定です。

 

ノボはNASHに注力する企業の1つで、ギリアドと組んでセマグルチドとFXR作動薬cilofexor、ACC阻害薬firsocostatの3剤併用療法を開発しているほか、自社でFGF21アナログ「NNC 0194-0499」の臨床試験を実施中。19年には、宇部興産からSSAO/VAP-1選択的阻害薬「UD-014」を導入しています。

 

リリーのtirzepatideなど有望

P2試験の段階では、海外大手が開発にしのぎを削っており、その多くが国際共同治験として日本でも開発が行われています。

 

米イーライリリーが開発するtirzepatideは、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1の2つのインクレチン作用を持つ薬剤。先行して行われている2型糖尿病対象の試験のサブスタディでは、インスリン製剤と比べて肝脂肪含量を改善する効果が認められました。同様の作用を持つ薬剤では、独ベーリンガーインゲルハイムが今年4月、デンマーク・ジーランドと共同でGLP-1/グルカゴン受容体デュアルアゴニスト「BI 456906」のP2試験を開始しています。

 

スイス・ノバルティスは、FXR作動薬tropifexorとSGLT阻害薬licogliflozinの併用療法を開発。米ファイザーは、DGAT2阻害薬ervogastatとACC阻害薬clesacostatの併用療法の臨床試験を進めています。

 

【国内で開発中のNASH治療薬】/以下、(開発段階):(開発コード/製品名 一般名:社名:作用機序|P3/NN9931/セマグルチド:ノボノルディスクファーマ:GLP-1受容体作動薬|P2/LY3298176/tirzepatide:日本イーライリリー:デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬/LJN452/tropifexor:ノバルティスファーマ:FXR作動薬/(併用療法)/PF-06865571/PF-05221304/ervogastat/clesacostat:ファイザー:DGAT2阻害薬±ACC阻害薬/BMS-986036/pegbelfermin/ブリストル・マイヤーズスクイブ/PEG化FGF21/BMS-986263/―:ブリストル・マイヤーズスクイブ/HSP47/siRNA製剤/*適応はNASHによる代償性肝硬変/CC-90001/―:ブリストル・マイヤーズスクイブ:JNK阻害薬/「パルモディア」/ペマフィブラート:興和:選択的PPARαモジュレーター/MK-3655/―:MSD:FGFR1c/KLBアゴニスト/BI/456906/―:日本ベーリンガーインゲルハイム:GLP-1/グルカゴン受容体デュアルアゴニスト/NNC:0194-0499/―:ノボノルディスクファーマ:FGF21アナログ|P1/AZD2693/―:アストラゼネカ:PNPLA3阻害薬/S-723595/―:塩野義製薬:ACC阻害薬:RG7992/―:中外製薬:抗FGFR1/KLBバイスペシフィック抗体|※各社のパイプラインなどをもとに作成

 

ほかにターゲットとして有望視されるのが、脂質代謝や糖代謝を調整する作用を持つ線維芽細胞増殖因子(FGF)21です。米ブリストル・マイヤーズスクイブがPEG化FGF21のpegbelferminを開発しているほか、ノボのNNC 0194-0499とセマグルチドの併用療法もP2段階。線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1と共受容体のβKlothoを活性化させ、FGF21の作用を促す治療薬の開発も進められていて、米メルク(日本ではMSD)が米NGMバイオから導入した「MK-3655」でP2試験を、中外製薬が「RG7992」でP1試験を行っています。

 

繊維症領域に取り組むブリストルは、pegbelfermin以外にも、日東電工から導入したHSP47 siRNA製剤「BMS-986263」と、セルジーン買収で獲得したJNK阻害薬「CC-90001」のP2試験を実施中です。

 

国内企業では、興和が選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(国内製品名・パルモディア)のP2試験を、塩野義製薬がアセチルCoAカルボキシラーゼ2阻害薬「S-723595」のP1試験を進めています。このほか、CureAppもNASHに対する治療用アプリの臨床試験を東京大と共同で実施中。アプリで行動変容を促すことで減量治療の支援を目指します。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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