終身雇用や年功序列といった日本型雇用モデルの土台が揺らぐ中、「キャリア自律」という考え方が日本でも広がってきました。「安定産業」と言われてきた製薬業界も例外ではなく、競争の激化や相次ぐ早期退職を背景に、雇い手と働き手の双方で意識改革が進んでいます。働く個人が自らのキャリアを主体的に考え、築き上げていくために、企業は、働く人は、何を意識し、どう取り組んでいけばいいのか。そのヒントを探ります。
■連載「キャリア自律を考える」
【1】私のキャリア、私の手で
【2】社員とつくる人事制度|MSD
【3】人の数だけキャリアがある|シミック・アッシュフィールド
【4】キャリア自律で促す「ワーク・ライフ・ベスト」の先|エーザイ
同じキャリアを積んでいる人は誰一人としていない
「製薬企業にはさまざまなポジションがあり、過去に先輩たちが通ってきた道がある。しかし、CSOにはまだそのような道はありません。だからこそ、自分でキャリアのルートを作っていけるんです」
シミックグループでCSO(医薬品営業支援)事業を手掛けるシミック・アッシュフィールドの酒井宏治・CSO事業部人財開発部長はこう話します。CSOビジネスが日本に入ってきたのは今から20年ほど前で、シミックグループとUDGヘルスケア(アイルランド)の合弁会社としてシミック・アッシュフィールドが設立されたのは7年前。業界としても会社としてもまだ若く、それゆえに完成されたキャリアパスは存在しません。
CSOのコントラクトMRが関わる仕事は、派遣されるプロジェクトによってさまざま。「プロジェクトが変われば、扱う製品も、訪問する医療機関も、活動の目的も変わる。そうしたことを含めると、同じキャリアを積んでいるという人は誰一人としていないのではないでしょうか」。酒井さんはコントラクトMRのキャリアについてこう説明し、だからこそ、社員一人ひとりが自分を見つめ、どんな仕事をしたいのか考え、それを意思表示することが重要になると説きます。
CSO事業部人財開発部の酒井宏治部長(同社提供)
CSO事業部人財開発部能力開発グループの笠井悠理さんも、やりたい仕事を上司に訴え、異動を叶えた社員の一人です。新卒で入った内資系製薬企業で5年間プライマリー領域のMRを経験し、「環境を変えたい」とシミック・アッシュフィールドに移ってきた笠井さんですが、人財開発部への異動はコントラクトMRとして勤務する中で感じた不満がきっかけだったと言います。
「コントラクトMRって、配属先のプロジェクトのメンバーとは深くつながれるんですが、一方で会社とのつながりはどうしても希薄になってしまいます。私の場合、同期もおらず、配属も1人だったので、社内にほとんど知り合いがいない状態でした。それが不満で、MRと会社をつなぐような仕事ができないかという話をマネージャーにはずっとしていました。当時は人財開発部がどんな仕事をしているのか詳しく知りませんでしたが、私の思いを汲み取ってもらって異動することになり、今はやりたいと思っていた仕事ができているなと感じています」(笠井さん)
CSO事業部人財開発部能力開発グループの笠井悠理さん(同社提供)
上司はキャリア形成のパートナー
シミック・アッシュフィールドでは、マネージャーをメンバーのキャリア形成のパートナーと位置付けています。笠井さんの場合も、希望を受け止めたマネージャーが「そういうことがしたいなら、まずは社内の研修に参加してみてはどうか」とアドバイス。そこから、手挙げ制の組織研修に参加するようなり、「やりたい仕事に役立つのではないか」と自ら社外でメンタルヘルスに関する資格を3つ取得したといいます。
同社では、半年に1回ほどの頻度で、マネージャーと部下のMRがキャリアについて話す面談を行っています。MRのマネジメント経て、「キャリアの幅を広げたい」と現在は採用部門のマネージャーを務める関澤泰明さんは、「コミュニケーションをメンバーが望む形にしてこそ本音を引き出せる。私自身の自己開示もしながら、話せる環境をつくることが重要でした」と、CSO事業部でMRの部下をまとめていたころを振り返ります。「そもそもマネージャーが自身のキャリアについて主体的に考えていないと、いいキャリア面談はできません」とは人財開発部長の酒井さん。マネージャーが部下のキャリア形成を支援するにあたり、同社ではまずマネージャー自身にライフラインチャートを書いてもらっているといいます。
人財本部リクルーティング部の関澤泰明マネージャー(同社提供)
コンピテンシー強化の支援も強化しています。同社では「行動モデル」として10項目を設定しており、セルフチェックの結果をもとに上司と話し合って自身の強みと弱みを把握。会社は行動モデルに応じた複数の研修を用意し、弱みを克服したり、強みをさらに伸ばしたりといった目的で社員が自由に参加できるようにしています。
シミック・アッシュフィールドが人材育成で重視するのが「自学自習」です。MRには定められた研修も多く、受け身の学びになりがちだといいますが、酒井さんは「さまざまなプロジェクトに関わるコントラクトMRは、新しい配属先に対してどれだけ早くキャッチアップできる準備ができているかが重要。その点で、自ら学ぶということは大切だし、ひいてはそれが自律につながると思うんです」と指摘。「環境変化の激しい時代、常に吸収し続ける姿勢がなければ、MRとしてはおろか、ビジネスパーソンとしても生き残っていけない」と話します。
キャリア=ポジションではない
社員に主体的なキャリア形成を促すにあたり、酒井さんらは「キャリア=ポジションではない」と繰り返し説いているといいます。
「キャリアはポジションに就くことと捉えられがちですが、『どんな仕事がしたいか』がまずあり、『それができるのはどこか』と考えることでキャリアは開かれていく。やりたい仕事ができるポジションや部門がないなら作ってしまえばいい。CSOのキャリアは、それくらい選択肢が豊富ですし、そういう風土の中でこそキャリア自律というものが生まれてくるのではないかと思っています」(酒井さん)
以前は「製薬会社に入るまでのステップ」という雰囲気もあったCSO。しかし最近では、経験者を求める製薬企業側のニーズが高まっている上、製薬企業が行う早期退職の受け皿となっていることもあり、同社に所属するコントラクトMRの年齢も上昇傾向にあるといいます。酒井さんは「少し前までは、『40歳が限界』『50歳を過ぎたら仕事はない』と言われていましたが、今は違います。チャレンジ精神があれば50歳を超えても活躍できますし、そういう人は私たちとしても大切にしたいと思っています」と話します。
ベテランがチャレンジし、成長を志向しながらキャリアの終え方を模索する姿は、若い世代にとってもキャリアを考える上で大いに参考になるはず。一方で、ベテランに活躍してもらうためには、クライアント側の理解も欠かせません。
「クライアントからは派遣するMRの年齢に上限を設けられることもありますが、われわれとしては年齢じゃないんですよということをどう見せていくかを考えていきたい。『若い人を派遣して』と言われたときに『この人は年齢は高いですけどすごいんですよ』と言えるようになったらハッピー。そんな『年齢凌駕プロジェクト』をやっていけたらと思っています」(酒井さん)
(→連載第4回:キャリア自律で促す「ワーク・ライフ・ベスト」の先|エーザイ)
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