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社員と作る人事制度|MSD【連載】キャリア自律を考える(2)

更新日

亀田真由

 

終身雇用や年功序列といった日本型雇用モデルの土台が揺らぐ中、「キャリア自律」という考え方が日本でも広がってきました。「安定産業」と言われてきた製薬業界も例外ではなく、競争の激化や相次ぐ早期退職を背景に、雇い手と働き手の双方で意識改革が進んでいます。働く個人が自らのキャリアを主体的に考え、築き上げていくために、企業は、働く人は、何を意識し、どう取り組んでいけばいいのか。そのヒントを探ります。

 

■連載「キャリア自律を考える」
【1】私のキャリア、私の手で
【2】社員とつくる人事制度|MSD
【3】人の数だけキャリアがある|シミック・アッシュフィールド
【4】キャリア自律で促す「ワーク・ライフ・ベスト」の先|エーザイ

 

「ディスカバリー休暇」で大学院に

MSDのプライマリーケア・ワクチン部門に所属する西村晋一さんは、会社の「ディスカバリー休暇制度」を使って大学院に通い、2018年に公衆衛生学の博士後期課程を修了しました。大学院での学びを生かし、現在、同部門でワクチンのマーケティングを担当しています。

 

MRとして02年に新卒入社した西村さんが大学院での「学び直し」を思い立ったのは、8年目に憧れのMSL(メディカルサイエンスリエゾン)への異動を叶えて数年経った頃。自身の専門性に限界を感じたことがきっかけだったといいます。そこから半年ほどかけて進学先を探す傍ら、上司とも相談し、出張の多いMSLから内勤のメディカルインフォメーション職に異動。環境を整え、15年から大学院に通い始めました。

 

MSDのディスカバリー休暇は、社外での成長の機会を提供することを目的とした制度。最大年40日間、無給の休暇を取得でき、有給休暇やボランティア休暇と組み合わせれば、理論上、半年近く休むことも可能です。16年から試験運用が始まり、18年に正式な制度として導入されました。

 

西村さんが大学院に通い始めた当時、ディスカバリー休暇制度はまだなく、1年目は貯まっていた有給休暇をフル活用して週3日通学。2年目に試行運用のディスカバリー休暇を利用し、ほとんど授業のなかった3年目は裁量労働と有給を使って通いました。有給を使って通っていた1年目は周囲に後ろめたさを感じていたと振り返る西村さん。無給のディスカバリー休暇ができたことで、そうした心の重石はなくなったといいます。

 

「学んだことを還元したいという思いはもちろんありましたし、上司や同僚も私の思いを理解し、応援し、サポートしてくれましたが、自分自身のキャリアのために週の半分以上、有給で職場を離れることに申し訳ない気持ちがありました。ディスカバリー休暇は無給で、私にとってはそれがすごくありがたかった。休むことに対する心理的なハードルが下がり、落ち着いた気持ちで大学院に通うことができました」(西村さん)

 

MSDのディスカバリー休暇は、制度の趣旨に合致していれば休む理由は問われません。これまで40人ほどが取得しており、過去には「子どもと向き合いたい」という理由で学校の夏休みに合わせて休暇を取得した社員もいたといいます。

 

同社人事部門人事グループの松岡裕一郎ディレクターは「長期間職場を離れることになるので、説明する責任は休む本人に負ってもらいますが、上長を納得させ、同僚の理解を得られれば、休む理由は何でもいい。ルールを作るのは会社ではないので、本人と上長・同僚の間で『なるほど』と思えるようなルールが作れるなら、どんどんやってくださいと言っています。ディスカバリー休暇は、外の空気を吸い、自身のキャリアや経験、働き方を見直す機会として使ってもらいたいですし、社員には『私はこれを実現するために休むんです』と胸を張って話して欲しい」と言います。今後は、休暇取得で一時的に不在となったポジションを社内留学先とし、休んだ本人以外の社員のキャリア開発の機会としても積極的に活用していく考えです。

 

ルールを作るのは会社ではない

「ルールを作るのは会社ではない」は、MSDのキャリア開発の根底にある考え方の一つ。ディスカバリー休暇も従業員の声から生まれた制度です。「公平に運用するため、ある程度のガイドラインは必要だと思いますが、どうやったら自分たちの生産性を上げられるか、パフォーマンスを上げられるかという範囲で、いろんな提案を受け入れています」と松岡さん。「過去の習慣や固定観念にとらわれることなく、それを打破して新しい働き方を自ら切り開いていって欲しい」という思いで、多様で柔軟な働き方を後押ししています。

 

昨年、運用が始まった「ジョブチャレンジ制度」も、社員の発案で生まれた制度。従来からあった「ジョブポスティング制度」(社内公募制度)とは異なり、社員自ら希望する異動先を意思表示できるプログラムです。

 

人事部門タレントマネジメントグループの戸村玲子ディレクターは、ジョブチャレンジ制度導入の背景について、「若手社員の多くは営業現場にいるが、本社にどんな部署があり、どんな仕事をしているのか知る機会が少ない。異動の希望を出しにくいし、主体的にキャリアを考えるきっかけがないという課題がありました」と話します。初の実施となった昨年は、営業→マーケティング、営業→人事など10件ほどの異動が実現。昨年は社内向けウェブサイトで各部署の業務を紹介しましたが、今年はさらに力を入れており、ウェブ上で各部署と社員が交流できるイベントを開きました。

 

多様な人材が自律的に働き、個々の能力を最大限発揮することで会社としてパフォーマンスを出し、社会に貢献する――。MSDの人材開発が目指すのは、そんな社員や会社の姿です。その前提となっているのが「社員のキャリアや成長は社員自身にオーナーシップがある」という考え方。上司は部下のキャリア形成をサポートし、会社はその機会を提供する役割を担います。根幹となるのは、親会社である米メルクがグローバル共通の人材開発指針として定めている「タレント・フィロソフィー」です。

 

「自分はどんなキャリアを築き、どんな人生を歩みたいのか」。社員に考えを深めるよう求めるとともに、重視しているのが上司と部下の対話です。「上司は、必ずしも知識やアドバイスを与えるのではなく、部下に気づきを与えるような関わり方が大切。『1on1』は非常に重要で、管理職向けのトレーニングには力を入れています」(戸村さん)。自律的なキャリア形成を支援する上で管理職の担う役割は大きく、その意識や能力を向上させることは継続的なテーマだといいます。

 

成功体験は通用しないし、答えが一つとも限らない

日本の製薬業界の中で、MSDは働き方改革で最も先進的な取り組みを行ってきた企業の一つです。コロナ禍で当たり前となったテレワークは2009年に導入し、16年には日数制限を廃して対象を全社員に拡大。19年からは自宅以外からも勤務できるようにしました。副業も早くから認めていて、18年にはガイドラインを整備。会社として推奨する姿勢を打ち出し、副業に取り組む社員は3年で延べ200人近くに上ります。

 

「『VUCA』と言われて久しい昨今。環境変化が激しく、先行きが不透明な時代には、過去の成功体験は通用しないし、答えが一つとも限らない」。松岡さんは、柔軟な働き方と多様なキャリア形成を支援する意義をこう強調します。17年には、育児休業と新製品発売の時期が重なってしまうという男性MRの相談を受け、育休中に少しだけ仕事ができる仕組みを整備しました。「自分に合った働き方を決めるには、自分の価値観やその背景を知る必要がある」と松岡さん。ここでも、キーワードになるのは「自律」です。

 

ディスカバリー休暇を使って大学院に通った西村さんは、MRからMSLへの異動も、大学院修了後のワクチンマーケティング担当への異動も、社内公募制度を使って実現しました。

 

「主体的にキャリアを形成するということを明確に意識していたわけではありませんが、せっかくいろんな部署がある会社に入ったのだから、興味があるならチャレンジしていきたいという気持ちは新人の頃から持っていました。ただ、当時はまだ会社が決めたルートに乗っていくのが一般的で、キャリアは上司がリードするものという文化があった。今は自分の意思を表明し、会社がそれを後押ししてくれる。いい時代になったと思っています」(西村さん)。自らキャリアを築いているという実感が、仕事へのモチベーションを高めているようです。

 

(→連載第3回:人の数だけキャリアがある|シミック・アッシュフィールド

 

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