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私のキャリア、私の手で【連載】キャリア自律を考える(1)

更新日

亀田真由

 

終身雇用や年功序列といった日本型雇用モデルの土台が揺らぐ中、「キャリア自律」という考え方が日本でも広がってきました。「安定産業」と言われてきた製薬業界も例外ではなく、競争の激化や相次ぐ早期退職を背景に、雇い手と働き手の双方で意識改革が進んでいます。働く個人が自らのキャリアを主体的に考え、築き上げていくために、企業は、働く人は、何を意識し、どう取り組んでいけばいいのか。そのヒントを探ります。

 

■連載「キャリア自律を考える」

【1】私のキャリア、私の手で
【2】社員とつくる人事制度|MSD
【3】人の数だけキャリアがある|シミック・アッシュフィールド
【4】キャリア自律で促す「ワーク・ライフ・ベスト」の先|エーザイ

 

キャリア形成 会社任せにしない

社会が激しく変化し、将来への不透明感が増している昨今、終身雇用・年功序列の考え方が過去のものとなり、働く人の価値観も多様化しています。そうした中、重要性を増しているのが「キャリア自律」という考え方です。キャリア自律とは、キャリア形成を会社に委ねるのではなく、働く個人が自身のキャリアについて主体的に考え、自らの責任でキャリアを築き上げていくことを意味し、日本でもここ数年、その必要性が声高に叫ばれるようになってきました。

 

日本では、海外に比べてキャリア形成を会社に委ねる傾向が強くあります。日本経済団体連合会(経団連)が加盟企業を対象に行った2019年の調査によると、社員のキャリア形成について「総じて会社主導」「多くが会社主導」と答えた企業は74.1%に上り、「多くが自律的」「総じて自律的」とした企業は22.9%にとどまりました。

 

ただ、不確実性の高い時代になると会社主導のキャリア形成が機能しにくくなるのは明白で、経団連の調査では62.9%の企業が将来的に社員の自律性を重視したキャリア形成を志向。働く側にとっても、若手を中心に会社任せのキャリア形成をリスクと捉える風潮が広がり、転職や早期退職が当たり前となる中、個人の意識も変化してきています。

 

キャリア自律の推進は、企業にとっても大きなメリットがあります。パーソル総合研究所が全国の就業者を対象に今年4~5月に行った調査によると、キャリア自律度が高い層は、低い層と比べて「学習意欲」が1.28倍、「ワーク・エンゲージメント*」が1.27倍、「仕事充実感」が1.26倍、「個人の仕事パフォーマンス(自己評価)」が1.20倍高いことがわかりました。キャリア自律は社員のモチベーションを向上させ、組織の生産性向上につながると期待されています。

 

*ワーク・エンゲージメント…「仕事から活力を得ていきいきとしている」「仕事に誇りとやりがいを感じている」「仕事に熱心に取り組んでいる」の3つが揃った状態。

 

会社も「自律」を支援

「安定産業」と言われてきた医薬品産業も、近年は大きな環境変化にさらされています。創薬の難易度は高まる一方、モダリティは多様化し、グローバル競争が激化。薬価の引き下げによって収益性は低下し、デジタル化の波もあって営業部門を中心に人員の余剰感も指摘されています。

 

武田薬品工業は昨夏、国内ビジネス部門で「フューチャー・キャリア・プログラム」と称する早期退職を実施。対象年齢が30歳以上と若いことも話題を呼びましたが、そのプレスリリースで同社は「国内ビジネス部門の持続的な成長を実現するために、そして一人ひとりの従業員が充実したキャリアを築くことができるよう、終身雇用を柱とする日本型雇用システムからの脱却を図ってきた」と強調しました。今年度からは、経営幹部の早期育成を目的とした公募型のプログラムを開始するなど、変革を支える人事制度の見直しが進んでいます。

 

キャリア形成の主導権が働く個人にあるとはいえ、社員に丸投げではキャリア自律は進みません。会社側は、社員の自律的なキャリア形成をサポートする取り組みが不可欠です。

 

日本の製薬業界でいち早くキャリアに関する取り組みを進めてきたMSDは、2018年に副業に関するガイドラインを整備し、最大年40日間取得できる「ディスカバリー休暇」を導入。20年には、それまでの「ジョブポスティング制度」(社内公募)に加え、希望する異動先を社員自ら意思表示する「ジョブチャレンジ制度」を始めました。「環境変化が激しく、先行きが不透明な時代。過去の成功体験は通用しないし、答えが1つとも限らない」。同社人事部門人事グループの松岡裕一郎ディレクターは、多様なキャリア形成を支援する重要性を強調します。

 

エーザイは、新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが広がったのを機に、「働き方改革を支えるための学び方改革」を推進。対面で行っていた研修をリモートに切り替え、個々の社員が時間やカリキュラムを自由に設定できるようにしました。こうした取り組みが評価され、同社は今年の「プラチナキャリア・アワード」(主催・三菱総合研究所、後援・厚生労働省)で特別賞を受賞。人財開発本部タレントディベロップメント部の新庄浩子部長は「自分に合った研修を選ぶには、自己認識能力が必要。必然的に自律性も高まってくるのではないかと期待している」と言います。

 

「対話」の重要性

人事制度の整備や学びの支援とともに、キャリア自律を進めるにあたって重要となるのが、上司(マネージャー)の役割です。

 

パーソル総合研究所の調査では、上司が「部下のキャリアへの期待を伝えること」「組織の目標やビジョンを共有すること」「部下の仕事やスキルを理解し、フィードバックすること」が、メンバーのキャリア自律につながる大きな要素の一つであることが明らかになりました。現場レベルで上司と部下の対話を活発化させることが重要で、キャリア自律に取り組む企業では、マネージャー側のキャリア研修を強化する動きもあります。

 

キャリア自律には、社外への人材流失につながるのではないかと懸念する向きもあります。社内公募を積極的に活用しているエーザイは「そういった懸念もあるかもしれないが、エーザイだけでなく、社会に貢献できる人材を輩出したいと思っているし、社員にもそう伝えている」(新庄さん)と強調。キャリア自律は、仕事へのやりがいを引き出し、組織へのエンゲージメントを高め、離職防止に有利に働く面もあります。同社コーポレート・ストラテジー部でグローバル事業開発リードを務める平松万里子さんは「部下にやりたいことを話してもらったら、それができるよう最大限の支援をし、成長ややりがいを感じてもらえる組織をつくっていきたい」と話します。

 

ただ、社員の希望ばかりを尊重していては、企業経営はままなりません。社員の自律性を重視することは、時に経営戦略に沿った人材配置の障害にもなり得ます。キャリア自律を進めるには、個人と会社がうまく折り合っていくことが求められますし、たとえ希望が叶わなかったとしても社員が納得感を得られる仕掛けも必要です。

 

(→連載第2回:社員とつくる人事制度|MSDへ

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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