5月19日、2025年度までの中期経営計画を発表した参天製薬。眼科専業の同社が狙う、新たな事業領域とは。
25年度に売上高3150億円以上
参天製薬は5月19日、2021~25年度の中期経営計画を発表しました。最終年度の主な数値目標は、売上高3150億円以上(20年度実績2496億円)、営業利益660億円以上(同129億円)。20年度は、緑内障治療デバイスの米国承認の遅れによって405億円の減損損失を計上するなどしており、この影響を除くと5年間で営業利益は1.7倍以上に増やす計画。コアベースの営業利益率は20年度の20.1%から4ポイント以上の上昇を目指します。
同社の谷内樹生社長兼CEO(最高経営責任者)はこの日の説明会で、「これまでの10年間は、日本で培った眼科医薬品トッププレイヤーとしての強みを生かしながら、中国、アジア、EMEA(欧州・中東・アフリカ)といった海外での事業を急速に拡大してきた」と振り返り、「これから先の10年は、米国をはじめとするグローバル展開をさらに成熟化していくとともに、今後成長が見込まれる事業領域への拡大を通じて事業モデルを深化させていく」と強調。30年度に売上高5000億円以上、営業利益1500億円などとする「成長イメージ」も示し、新中計を「基盤事業の価値最大化に注力するとともに、新たな事業領域への参入を進め、26年以降の成長につなげていく大変重要な5年間と位置付けている」と語りました。
10年度に新規領域で売り上げの3割
「事業領域の拡大」が中心テーマとなる参天の新中計。眼科専業の同社が参入を志向する領域は多岐に渡ります。地域展開では米国事業の確立を狙い、モダリティは細胞治療や遺伝子治療にも拡大。デジタルヘルスへの投資にも着手し、新規疾患として「眼瞼下垂」「近視」「網膜色素変性症」への製品投入を目指します。
25年度には、目標とする売上高3150億円のうち400億円を新規領域で稼ぐ計画。30年度には新規領域の売上高比率を30%以上まで拡大させるイメージを描いています。
「従来の延長線上にない成長を」
中でも「喫緊の課題」(谷内社長)と位置付けるのが、最大市場である米国での収益確立です。同社はかつて、米国で点眼抗菌薬などを自社販売していましたが、販売不振に苦しんで03年に撤退。ぶどう膜炎治療薬で再参入を試みたものの、17年に米FDA(食品医薬品局)から追加データを求められ、追加試験の実施を余儀なくされました。期待の大きかった緑内障治療デバイスも、FDAと承認に向けた協議が続いており、市場投入は遅れています。
自力での再参入が難航する中、同社は昨年9月、点眼薬を手掛ける米アイバンス・ファーマシューティカルズを2億2500万ドルで買収。アイバンスの事業基盤に自社製品を乗せることでプレゼンスを確立していく方向に転換しました。緑内障治療デバイスについては、代理店販売契約を結んでいた米グラウコス・コーポレーションに開発・商業化の権利を与え、同社主導のビジネスに変更。参天は米国での活動を医療用医薬品に絞り、早期の収益化を目指します。
自由診療市場にも進出
米国事業とともに重要な新規事業領域と位置付けられているのが、「眼瞼下垂」「近視」「網膜色素変性症」の3疾患です。得意とする緑内障にこれら3疾患を加えることで「過去の延長線上にはない成長の実現を目指す」(谷内社長)と言います。
近視では、日本で臨床第2/3相(P2/3)試験まで進んでいるムスカリン受容体拮抗薬アトロピン硫酸塩(開発コード・STN1012700)など、複数の候補品がパイプラインにあり、25年度以降の発売を想定。眼瞼下垂では、米オスモティカが昨年、FDAから承認を取得したオキシメタゾリン塩酸塩点眼液(米国製品名・UPNEEQ)を開発中で、23年度以降、アジアなどで順次、販売を開始する予定です。網膜色素変性症では、米ジェイサイトから導入した細胞治療用製剤(jCell、参天開発コード・STN6000100)を開発しています。
参天は、これら3疾患と緑内障で開発中の新薬を合わせると、2030年に3000億円以上の売り上げポテンシャルがあると見ています。眼瞼下垂では、眼科以外のチャネルにも販路を広げる考えで、自由診療市場への進出も狙っています。
14年に米メルクの眼科事業を買収し、欧州に事業基盤を築くなど、ここ数年で急速にグローバル化を進めてきた参天。一方、国内事業は新中計の5年間で年平均成長率をマイナス2%と見込んでおり、中国では主力品が集中購買の影響を見込むなど、リスクもあります。2030年ビジョンに「Become A Social Innovator」を掲げ、製薬の枠を超えたグローバル企業を目指す同社にとって、新中計の5年間は、新規事業を芽吹かせ、育む重要な期間となります。
(前田雄樹)