日本の医薬品市場の過去5年間の年平均成長率が、先進国に中国などの主要新興国を加えた14カ国で唯一のマイナス成長となったことが、米IQVIAのレポートで明らかになりました。向こう5年の年平均成長率も14カ国中唯一のマイナス含みで、世界から取り残されつつある状況が鮮明になっています。
マイナス成長は2年連続
米調査会社IQVIAが4月に発表した最新の医薬品市場予測レポート「Global Medicine Spending and Usage Trends OUTLOOK TO 2025」によると、2020年の日本の医薬品支出は882億ドル。16~20年の成長率は年平均マイナス0.2%で、先進10カ国に中国、ブラジル、インド、ロシアを加えた14カ国で唯一のマイナス成長となりました。日本の医薬品支出の年平均成長率は、昨年のIQVIAのレポートで初めてマイナスに転じ、今年で2年連続となります。
世界の医薬品支出は20年に1兆2652億ドルに達し、過去5年で年平均4.6%拡大。最大市場の米国は5278億ドルで年平均4.2%増加し、世界2位の中国も1344億ドルで年平均4.9%の伸びとなりました。日本に次ぐ低成長となったフランスは年平均2.4%増。ほかの主要国は3~6%台の成長率でした。
レポートでは日本市場について「2020年の成長鈍化は、新型コロナウイルスの感染拡大と、4月に行われた薬価改定の影響を受けている」と指摘。医薬品支出全体に占める長期収載品の割合は、2010年の27%から14%まで低下しており、長期収載品の薬価引き下げと後発医薬品のシェア拡大が支出全体を抑制しています。
日本市場の低成長は、今後5年間も続く見通しです。レポートによると、21~25年の日本の医薬品支出の成長率を年平均マイナス2%~プラス1%と予測(新型コロナワクチンは除く)。マイナス成長となる可能性があるのは、14カ国のうち日本だけです。長期収載品の割合は25年に8%まで縮小する予測で、後発品のシェアはさらに拡大すると見込んでいます。
世界3位は維持も相対的地位は低下
世界の医薬品支出は21年から25年にかけて、新型コロナワクチンの影響を除いて年平均3~6%成長し、25年には最大で1兆6100億ドルに達する見込み。米国は年平均2~5%の成長で25年に6050~6350億ドルとなり、中国は2000億ドルに到達する可能性があります。世界市場の拡大を支えるのは、免疫系疾患、オンコロジー、神経系疾患といった領域で、オンコロジーと免疫系疾患は25年までに年平均9~12%の成長を予測。オンコロジーでは、向こう5年で100の新薬発売が見込まれるとしています。
日本は25年も、米国、中国に次ぐ世界3位の市場を維持する見通しです。ただ、米国と比較した相対的な規模は大きく縮小し、中国との差も広がります。米国を100として各国の市場を指数化した場合、日本は20年の16.8から25年には14.0に低下。中国は25.4から29.2へと拡大し、日本の倍以上の規模になると見込まれています。
新興国は引き続き、先進国を上回る成長が予測されています。25年には、ブラジルが世界5位、インドが9位、ロシアが10位に浮上する見通し。上位20カ国には、トルコやエジプトもランクインする見込みです。
コロナワクチンへの支出、25年までに1570億ドル
2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大が各国の医薬品市場に影響を及ぼしましたが、レポートによると、世界市場は25年までにパンデミック前の成長トレンドに回帰すると予測しています。
先進国市場では、米国が「強い回復力を保持している」とし、パンデミックによる成長の鈍化はごくわずかと指摘。ドイツ、フランス、スペインなども影響が比較的小さく、21年には通常の傾向に戻ると予測しています。一方、初期に感染の大きな波を経験したイタリアは、先進国市場の中でパンデミックの影響が最も大きく、回復までに時間を要する見込みです。
新型コロナワクチンへの支出は、25年までに世界で1570億ドルに達する見込み。レポートでは、「第一波」として22年末までに世界の人口の70%がワクチンを接種との見通しが示されていて、その後は、免疫を持続させ、変異株に対応するため、2年に1度のブースター(追加免疫)接種が必要になると見ています。25年までのコロナワクチンへの支出は、医薬品支出全体の2%を占める予測です。
(前田雄樹)