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ニュース解説

国産ワクチン「周回遅れ」を挽回する策は

更新日

新型コロナウイルスワクチンの開発で欧米や中国に大きな遅れをとったことを受け、政府がようやく国産ワクチンの開発・供給体制の強化に向けた議論を始めました。「周回遅れ」を挽回する策はあるのか。国産ワクチンの実用化がいまだ見通せぬ中、6月にもテコ入れ策をまとめる方針です。

 

 

「平時からの対策が必要」

政府は4月16日、産官学で構成する「医薬品開発協議会」の会合を開き、新型コロナウイルスをはじめとする新興・再興感染症に対する国産ワクチンの開発強化に向けた議論を本格的に始めました。この日の会合では、日本製薬団体連合会の手代木功会長(塩野義製薬社長)ら有識者から、ワクチン開発をめぐる課題などをヒアリング。今後、同協議会に設置した「ワクチン開発・生産体制強化タスクフォース」で検討を進め、6月にも政府としての対応策をまとめる方針です。

 

新型コロナウイルスワクチンの開発で、日本は世界に大きく遅れをとっています。海外ではこれまでに、米国、英国、中国、ロシア、インドが自国製のワクチンの開発に成功。一方、日本は4社が臨床試験を行っていますが、いずれもまだ初期の段階で、実用化の見通しは立っていません。

 

【新型コロナワクチンの開発状況】(2021年4月現在) ファイザー/ビオンテック(米独)/承認 |モデルナ(米)/承認 |オックスフォード大/アストラゼネカ(英)/承認 |J&J(米)/承認 |キュアバック(独)/P3 |ノババックス(米)/P3 |イノビオ(米)/P2/3 |メディカゴ(加)/P2/3 |サノフィ/GSK(仏英)/P2 |アンジェス(日)/P2/3 |塩野義(日)/P1/2 |第一三共(日)/P1/2 |KMバイオロジクス(日)/P1/2 |※各社のプレスリリースなどをもとに作成

 

予算も研究開発活動も限定的

日薬連の手代木会長は16日の協議会で、コロナワクチンの開発で日本が出遅れた背景について、▽パンデミックなどの非常事態を想定した平時からの対策が不足していた▽より安全性を重視する姿勢や厳格な規制によりスピードで劣後した▽訴訟リスクや感染収束による事業機会の消失といった事業上のリスクが大きい▽ワクチン接種に対する国民への啓発が不足している――の4点を指摘。「国家安全保障上、平時からの感染症対策が必要」と訴えました。

 

米国政府は、安全保障の観点から新たな感染症に備えてワクチンの研究開発に対する支援を続けてきました。例えば、創業10年のスタートアップながら新型コロナワクチンの開発競争をリードした米モデルナは、2013年に国防総省傘下の国防高等研究計画局から、16年には保健福祉省の生物医学先端研究開発局から、それぞれ巨額の資金援助を受け、当時はまだ実用化例のなかったmRNAワクチンの研究開発を進めてきました。米国がいち早くコロナワクチンの実用化にこぎつけたのは、こうした平時からの蓄積があったからです。

 

内閣官房健康・医療戦略室からの委託を受けてデロイトトーマツコンサルティングが行った、国内外の新興感染症に対する研究開発についての調査報告書によると、米国、英国、ドイツ、中国では、医療分野の研究開発予算の10%以上が感染症に充てられている一方、日本は3.6%で、感染症関連の論文数も米国の6分の1以下、中国や英国の2分の1程度にとどまっています。報告書は、日本の感染症対策について「新型インフルエンザや薬剤耐性が中心で、研究開発予算も米英中と比べて少なく、産学の活動量も限定的」と指摘。「米英中は『平時の備え』に基づいて成果を実現している」としています。

 

国産ワクチン実用化の壁

政府が6月にも取りまとめる開発・生産体制の強化策では、▽研究開発拠点の整備▽戦略性を持った財政的支援▽新規モダリティの国内製造拠点▽国際共同試験の実施体制▽予見性を高める薬事制度――などが論点となります。米国では、緊急時に未承認の医薬品やワクチンの使用を認める「緊急使用許可(EUA)」の枠組みを通じてワクチンが迅速に供給されており、日薬連も「日本版EUA」の法制化を求めています。今回の新型コロナで浮き彫りとなった課題を解消し、いつ起こるかわからない「次のパンデミック」に平時から備えておくことは重要です。

 

【ワクチン開発・生産体制の強化に向けた論点】 【背景】○ 感染症研究の相対的地位の低下 ○ 産業界の注力分野の変化 ○ ワクチンに関する制度など +【対策】○ 感染症発生状況のモニタリング ○ 世界トップレベルの研究開発拠点の整備 ○ 戦略性を持ったファンディング機能 ○ 創薬ベンチャーの育成を含む産学の橋渡し ○ 新規モダリティの国内製造拠点 ○ 日米欧の規制調和を含む国際共同試験の実施体制 ○ 予見可能性を高める薬事承認のあり方などの制度設計 →「国産ワクチン開発の遅れ」 |※医薬品開発協議会(2021年月16日)の資料をもとに作成

 

規制の弾力的運用を

一方で、新型コロナワクチンの国産化は喫緊の課題でもあります。有効なワクチンの接種が進む中、後発組はプラセボ対照の大規模臨床試験を行うのが難しくなっており、こうしたハードルをクリアできなければ国産ワクチンの実用化は見通せません。日薬連は、すでに効果が確認されたワクチンと中和活性データと比較するなど、発症予防試験以外の方法で効果を確認することを検討すべきとしているほか、医薬品の「条件付き早期承認制度」をワクチンにも適用することを求めています。

 

新型コロナウイルスをめぐっては、世界各地で変異株の感染が拡大しており、日薬連は「仮に日本で特有の変異株が生じた場合、海外企業から日本変異株に対するワクチンが供給されない可能性がある」と指摘。そうした事態を防ぐためにも、規制を弾力的に運用して国産ワクチンを早期に承認すべきと主張しています。

 

世界に数少ない「創薬国」でありながら、新型コロナワクチンの供給を海外に頼らざるを得ない日本。英オックスフォード大の研究者らが運営する統計情報サイト「Our World in Data」によると、日本で新型コロナワクチンを少なくとも1回接種した人の割合は5月5日時点で2.2%にとどまり、主要7カ国(G7)では最も低くなっています。今回の教訓をもとに中長期的な戦略を構築することはもちろん、世界から取り残されることのないよう、国産ワクチンを早期に実用化するための知恵が求められます。

 

(前田雄樹)

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