2020年7月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】経口DNAメチル化阻害薬「Inqovi」やCAR-T細胞療法「Tecartus」など
「Rukobia」英ヴィーブヘルスケア
抗HIV薬「Rukobia」(一般名・fostemsavir)は、多剤耐性のHIV-1感染症が対象。既存の抗レトロウイルス薬での治療が難しい患者への新たな治療選択肢として期待されています。欧州でも申請中です。
「Inqovi」大塚製薬
大塚製薬の米子会社アステックスが創製した抗がん剤「Inqovi」は、DNAメチル化阻害薬decitabineに代謝酵素阻害薬cedazuridineを加えた世界初の経口DNAメチル化阻害薬です。適応は骨髄異形成症候群と慢性骨髄単球性白血病。カナダでも米国と同時に承認されました。欧州では急性骨髄性白血病を対象に臨床第3相(P3)試験を行っており、日本でも骨髄異形成症候群でP1試験を実施中です。
「Upneeq」米オスモティカ
「Upneeq」(oxymetazoline)は、米国で初となる成人の後天性眼瞼下垂治療薬。1日1回点眼の直接作用型αアドレナリン受容体作動薬で、選択的にミュラー筋に作用し、上瞼を引き上げると考えられています。日本では今年7月、参天製薬が開発・商業化権を獲得しており、今後同社が開発を進める予定です。
「Wynzora」デンマークMC2セラピューティクス
尋常性乾癬治療薬「Wynzora」は、活性型ビタミンD3製剤calcipotrieneとステロイド剤betamethasoneを配合した新規のクリーム製剤。承認のもととなった臨床試験では、有効成分が同じ局所懸濁液の「Taclonex」(デンマーク・レオファーマ)と比べ、PGAで評価した治療の成功率を有意に改善しました。欧州でも申請を済ませています。
「Xywav」アイルランド・ジャズ
ナルコレプシー治療薬「Xywav」は、同「Xyrem」(sodium oxybates)の低ナトリウム製剤。ナトリウムのほか、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオンを混合し、Xyremとの比較でナトリウムを92%減らしました。副作用として問題となる心血管リスクを低減できると期待されます。Xyremは2019年に16億4253万ドルを売り上げたアイルランド・ジャズの最主力品。低ナトリウム製剤の承認で対象患者層の拡大を狙います。
「Breztri Aerosphere」英アストラゼネカ
慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬の「Breztri Aerosphere」は、吸入ステロイド薬budesonideと、長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬glycopyrrolate、長時間作用型β2刺激薬formoterolを定量配合した吸入剤。日本では19年に「ビレーズトリ」の製品名で承認を取得し、世界に先駆けて発売されました。中国でも承認済みで、欧州では申請中です。
「Tecartus」米ギリアド
CD19を標的とするCAR-T細胞療法「Tecartus」(brexucabtagene autoleucel)は、再発・難治性のマントル細胞リンパ腫が対象。臨床試験では87%の患者に効果が見られ、62%の患者が完全奏効となりました。同薬は17年の米カイトファーマ買収で獲得したもので、米ギリアドにとっては「Yescarta」(17年米国承認)に続く2つ目のCAR-T細胞療法となります。欧州でも申請中で、急性リンパ性白血病(P2)と慢性リンパ性白血病(P1)を対象に臨床試験を行っています。
「Monjuvi」独モルフォシス
抗CD19抗体「Monjuvi」(tafasitamab)は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫治療薬です。二次治療を対象に米国で承認された治療薬は初めて。レナリドミドと併用します。米国では提携先の米インサイトと共同で販売を行う予定。ほかの地域ではインサイトが商業化権を持っており、現在欧州で申請中です。慢性リンパ性白血病でもグローバル開発を行っています。
【適応拡大】「Tcentriq」の進行悪性黒色腫、「Spravato」の大うつ病など
「Tremfya」米ヤンセン
乾癬治療薬の抗IL-23抗体「Tremfya」(guselkumab)は、乾癬性関節炎に適応拡大。単剤または疾患修飾性抗リウマチ薬との併用で使用します。日本では乾癬治療薬(尋常性乾癬、関節性乾癬/乾癬性関節炎、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症)として18年に発売。潰瘍性大腸炎やクローン病を対象とした開発も世界各国で行われており、日本では潰瘍性大腸炎(P3)とクローン病(P2/3)を対象に臨床試験を実施中です。
「Qutenza」独グリューネンタール
capsaicinの8%パッチ製剤「Qutenza」は、糖尿病性神経障害に伴う足の痛みに対して使用できるようになりました。3カ月に1回投与します。オピオイドを含有していない局所製剤は同疾患では米国初。欧州では2009年から販売されています。
「Tecentriq」米ジェネンテック
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-L1抗体「Tecentriq」(atezolizumab)は、進行悪性黒色腫を対象に、MEK阻害薬「Cotellic」(cobimetinib)、BRAF阻害薬「Zelboraf」(vemurafenib)との併用療法が承認されました。BRAF遺伝子変異を有する患者が対象。CotellicとZelborafの2剤併用療法への上乗せを評価した臨床試験では、プラセボと比べて無増悪生存期間を有意に延長しました。
「Epidiolex」英GWファーマ
大麻由来の有効成分を含む抗てんかん薬「Epidiolex」(cannabidiol)は、遺伝性疾患の結節性硬化症複合体に適応拡大。1歳以上の患者の発作の治療に使用されます。同薬は18年に難治性てんかんのレノックス・ガストー症候群とドラベ症候群を対象に承認。レット症候群でもP3試験を実施中です。
「Spravato」米ヤンセン
NMDA受容体拮抗薬の経鼻スプレー「Spravato」(esketamine)は、新たに大うつ病の抑うつ症状で承認。自殺念慮がある、または行動を伴う患者が対象で、経口の抗うつ薬と併用します。臨床試験では、自殺防止や自殺念慮・行動の抑制は証明されていませんが、24時間以内に抑うつ症状を軽減することが示されました。同薬は19年に米欧で治療抵抗性うつ病治療薬として承認。欧州でも大うつ病への適応拡大申請を行っています。
【バイオシミラー】マイランのadalimumab
「Hulio」米マイラン
抗TNF-α抗体「Hulio」は、米アッヴィの関節リウマチ治療薬「Humira」(adalimumab)のバイオシミラー。協和キリン富士フイルムバイオロジクスが行ったグローバルP3試験の結果をもとに米マイランが申請し、承認を取得しました。米国ではマイランとアッヴィのライセンス契約に基づき、23年7月から販売を開始する予定。欧州ではすでに販売されており、日本でも今年6月に承認されました。
(亀田真由)