2020年5月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】MET阻害薬「Tabrecta」やRET阻害薬「Retevmo」など
「Fensolvi」米トルマー
「Fensolvi」(一般名・leuprolide)は、2歳以上の中枢性思春期早発症を対象とする新規のリュープロレリン皮下懸濁注製剤。米トルマー独自の高分子ゲル技術を使っており、少量ながら6カ月ごとの投与で効果を発揮。アドヒアランスの向上が期待されています。
「Darzalex FASPRO」米ヤンセン
多発性骨髄腫治療薬「Darzalex FASPRO」(daratumumab/hyaluronidase)は、抗CD38抗体Darzalexの皮下注製剤。3~5分で投与を済ませることができ、従来は数時間かかっていた投与時間は大幅に短縮されます。
「Elyxyb」インド・ドクターレディーズ
「Elyxyb」(celecoxib)は片頭痛の急性期治療薬。経口液剤で、前兆(頭痛より前に起こる症状)を伴う片頭痛と前兆を伴わない片頭痛の両方に使用できます。
「Tabrecta」スイス・ノバルティス
MET阻害薬「Tabrecta」(capmatinib)は、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異を有する転移性非小細胞肺がん治療薬。MET遺伝子エクソン14スキッピング変異は、進行非小細胞肺がん患者の3~4%に認められる変異で、これを標的とする治療薬は米国で初めて。日本でも申請中です。FDAはあわせて、コンパニオン診断としてFoundationOneCDxも承認しました。
「Retevmo」米イーライリリー
RET阻害薬「Retevmo」(selpercatinib)は、▽転移性のRET融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん▽進行・転移性のRET遺伝子変異陽性の甲状腺髄様がん▽進行・転移性のRET融合遺伝子陽性の甲状腺がん――の3つの適応で承認。同薬は2019年の米ロキソの買収で獲得したもので、日本でも後期開発段階にあります。
「Qinlock」米デシフェラ
進行消化管間質腫瘍治療薬「Qinlock」(ripretinib)は、KITやPDGFRαを標的とするキナーゼ阻害薬。3つ以上のキナーゼ阻害薬による治療を受けた患者が対象です。FDAが主導する多国間共同審査の枠組み「プロジェクトOrbis」が適用され、カナダとオーストラリアでも審査が行われています。
「Kynmobi」大日本住友製薬
apomorphine hydrochlorideの舌下フィルム製剤「Kynmobi」は、パーキンソン病のオフ症状が対象。オフ症状が出た時に簡単に服用でき、速やかに症状を改善します。FDAは19年1月、追加の情報と解析を求めて同薬の承認を見送っていましたが、大日本住友製薬が同年11月に再申請。今回の承認にこぎつけました。
「Phexxi」米エボフェム
「Phexxi」(lactic acid/citric acid/potassium bitartrate)は、米国初となる非ホルモン性の避妊薬。ゲル剤で、必要なときにすぐ使用でき、膣内のPHを調整します。米エボフェムにとって初めての製品です。
「VESIcare」アステラス製薬
ムスカリンM3受容体拮抗薬「VESIcare」(solifenacin succinate)は、2歳以上の小児の神経因性膀胱に対する経口懸濁液。これまでの標準的な治療法と比べて投与回数が少なく済むため、患者負担を軽減できると期待されます。成人対象では、錠剤が過活動膀胱治療薬として世界各国で承認されています。
artesunate 米Amivas
artesunateは、重症マラリアに対する静注剤。米国では、2019年3月にquinineの販売が中止されて以来、初めて承認された重症マラリア用治療薬です。artesunateでの治療後には、経口の抗マラリア薬で適切な治療を受ける必要があります。
「Zilxi」米メンロー
「Zilxi」は、酒さ様皮膚炎に対する抗菌薬minocyclineの1.5%フォーム製剤。従来の経口剤には全身性の副作用があり、一部の患者には使用できなかったため、新たな治療選択肢として期待されています。米メンロー子会社のフォーミックスは、昨年10月にも尋常性ざ瘡を対象にminocyclineの4%フォーム製剤「Amzeeq」の承認を取得しています。
「Tauvid」米イーライリリー
「Tauvid」(flortaucipir F18)は、アルツハイマー病の陽電子放出断層撮影(PET)画像診断に使用する放射性診断薬。アルツハイマー病の主なマーカーの1つであるタウタンパク質の神経原線維変化の密度・分布を画像化し、タウ病変の有無を判断します。
「Oriahnn」米アッヴィ
GnRH受容体拮抗薬elagolixの新規配合カプセル剤「Oriahnn」(elagolix /estradiol/norethindrone)は、閉経前女性の子宮筋腫に伴う過多月経治療薬。臨床試験では、使用後1カ月以内に約半数の患者で効果がみられ、6カ月で7割前後の患者の出血量が減少したといいます。elagolixは米国で18年に子宮内膜症治療薬「Orilissa」として承認。日本では開発されていません。
【適応拡大】「Pomalyst」のカポジ肉腫や「Dupixent」の小児アトピー性皮膚炎など
「Farxiga」英アストラゼネカ
SGLT2阻害薬「Farxiga」(dapagliflozin)は、左室駆出率が低下した心不全に適応拡大。2型糖尿病発症の有無にかかわらず使用でき、心血管死と心不全入院のリスクを低減します。日本でも慢性心不全と慢性腎臓病を対象に臨床第3相(P3)試験を実施中です。
「Lynparza」英アストラゼネカ
PARP阻害薬「Lynparza」(olaparib)は、▽相同組み換え修復異常(HRD)陽性の進行卵巣がんの1次治療の維持療法(ベバシズマブとの併用療法)▽相同組み換え修復(HRR)関連遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がんに対する単剤療法(エンザルタミドかアビラテロン投与後に進行した患者)――が新たに承認されました。日本でもこれら2つの適応で申請中です。
「Pomalyst」米ブリストル
免疫調整薬「Pomalyst」(pomalidomide)は、エイズ関連のカポジ肉腫に適応拡大しました。HAART療法抵抗性の患者や、HIV陰性の患者が対象です。カポジ肉腫に対する経口の新薬は20年以上ぶり。日本では多発性骨髄腫治療薬として2015年に発売しています。
「Opdivo」+「Yervoy」米ブリストル
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-L1抗体「Opdivo」(nivolumab)と抗CTLA-4抗体「Yervoy」(ipilimumab)の併用療法は、新たに▽PD-L1発現率1%以上の進行非小細胞肺がんの1次治療▽進行・再発性非小細胞肺がんの1次治療(化学療法との併用療法)――の2適応で承認。いずれも日本でも申請中で、2つ目の適応は「プロジェクトOrbis」のもと、オーストラリア、カナダ、シンガポールでも審査が行われています。
「Rubraca」米クロービス
PARP阻害薬「Rubraca」(rucaparib)は、BRCA1/2遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がんへの単剤療法への適応拡大が承認。アンドロゲン受容体標的療法とタキサン系化学療法を受けた患者が対象です。前立腺がんの適応で承認されたPARP阻害薬は初。日本では卵巣がんを対象に開発中です。
「Tecentriq」米ジェネンテック
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-L1抗体「Tecentriq」(atezolizumab)は、▽PD-L1高発現の転移性非小細胞肺がんの1次治療に対する単剤療法▽全身薬物療法を受けていない切除不能または転移性の肝細胞がんに対するベバシズマブ併用療法――が新たに承認。肝細胞がんの適応では、日本でも中外製薬が今年2月に申請しており、「プロジェクトOrbis」のもと、オーストラリア、カナダ、シンガポールでも審査が行われています。
「Alunbrig」武田薬品工業
ALK阻害薬「Alunbrig」(brigatinib)は、ALK融合遺伝子陽性の転移性非小細胞肺がんの1次治療に適応拡大。米国では17年、クリゾチニブ抵抗性のALK融合遺伝子陽性転移性非小細胞肺がんに対する治療薬として承認を取得しました。日本でも今年2月にALK阻害薬既治療の患者を対象に申請しており、1次治療ではP3試験を行っています。
「Dupixent」仏サノフィ
抗IL-4/13受容体抗体「Dupixent」(dupilumab)は、中等度から重度のアトピー性皮膚炎の適応で6~11歳の小児にも使用できるようになりました。米国では17年に成人のアトピー性皮膚炎の適応で承認。現在、6カ月~5歳の患者を対象とした臨床試験を行っています。
「Brilinta」英アストラゼネカ
P2Y12受容体拮抗薬「Brilinta」(ticagrelor)は、冠動脈疾患に伴う心臓発作や脳卒中のリスク低減に適応拡大しました。使用に制限はないものの、有効性が確認されたのは2型糖尿病患者のみ。日本でも抗血小板薬として17年から販売されており、2型糖尿病に伴う心血管性イベントの発生抑制を対象に申請中です。
「Cyramza」米イーライリリー
抗VEGF受容体2抗体「Cyramza」(ramucirumab)は、EGFR遺伝子変異陽性(エクソン19欠損またはエクソン21変異)の転移性非小細胞肺がんの1次治療に対するEGFR阻害薬エルロチニブとの併用療法が新たに承認されました。同適応に対し、VEGFRとEGFRを同時に阻害する治療法は初めて。日本でも申請中です。
「Taltz」米イーライリリー
抗IL-17抗体「Taltz」(ixekizumab)は、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)に適応拡大。米国では昨年8月に強直性脊椎炎(AS)の適応で承認されており、今回の承認でASとnr-axSpAの両方に使用できるようになりました。日本でも昨年11月にASで承認されており、nr-axSpAでは後期開発の段階にあります。
(亀田真由)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】