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特許切れ薬 外資系企業に日本撤退の動き…ルピンとアスペン、縮小市場に見切り

更新日

外資系製薬会社の間で、日本の特許切れ医薬品市場から撤退する動きが出てきました。インドの後発医薬品大手ルピンは今月、傘下の共和薬品工業を投資ファンドに売却すると発表。南アフリカのアスペンも、長期収載品中心の日本事業をノバルティスグループのサンドに売却します。薬価の毎年改定を控え、縮小が予想される日本市場を見切った格好です。

 

「主要市場にフォーカス」

インドの後発医薬品大手ルピンは11月11日、傘下の共和薬品工業の全株式(99.82%を保有)を投資ファンドのユニゾン・キャピタルに売却すると発表しました。売却額は約574億円。売却は2020年3月末までに完了する予定です。

 

ルピンは売上高で世界8位の後発品メーカーで、07年に共和を買収して日本市場に参入。共和は19年3月期に約283億円を売り上げました。ルピンは今後も共和と製品の開発・製造で提携を続けますが、売却によって日本からは撤退することになります。

 

南アフリカのアスペン・ファーマケア・ホールディングスも同じ日、日本事業をノバルティスグループの後発品メーカーである独サンドに最大4億ユーロ(約480億円)で売却すると発表しました。アスペンは13年に日本法人アスペン・ジャパンを設立し、他社から承継・移管した長期収載品を中心に事業を展開。19年6月期には約156億円を売り上げましたが、関連する知的財産ととともにアスペン・ジャパンの全株式をサンドに譲渡し、日本市場から手を引きます。

 

【日本市場から撤退した外資系後発医薬品メーカー】(社名(国名)/参入年・撤退年/経緯):ランバクシー(インド)/2002年・2009年/02年に日本ケミファと業務提携を締結。ケミファの子会社「日本薬品工業」を合弁会社にしたが、09年に業務提携を解消。日本薬品は10年にケミファが買い戻し、完全子会社化。 ドクターレディーズ(インド)/2011年・2013年/11年に富士フイルムと業務提携。合弁会社設立に向けて基本合意したが、13年に解消。 ザイダス(インド)/2006年・2014年/06年に日本法人設立。07年には日本ユニバーサル薬品を買収したが、14年に製品の販売を終了。 ルピン(インド)/2007年・2020年/07年に共和薬品工業を買収。19年に同社の全株式をユニゾン・キャピタルに売却すると発表(20年3月末までに完了予定)。 アスペン(南アフリカ)/2013年・2020年/13年に日本法人を設立。2019年に日本事業を独サンドに売却すると発表(20年上期に完了予定)。※各社の発表などをもとに作成

 

ルピンのビニタ・グプタCEO(最高経営責任者)は、共和の売却について「中長期的に持続可能な成長を達成するため、主要市場と戦略的優先事項にフォーカスする我々のビジョンに沿ったものだ」と説明します。裏を返せば、日本はルピンにとって主要市場ではなくなったということでしょう。アスペンのスティーブン・サードCEOも「日本事業は我々の戦略にふさわしい規模とレバレッジをもたらさない」と切り捨てます。

 

薬価引き下げが重し

外資系後発品メーカーが日本を去った例は過去にもありますが、ルピンとアスペンの撤退はそれらとは様相が異なります。

 

インド・ランバクシーや同ドクターレディーズの撤退は、期待した成果が得られなかったことや、提携先の日本企業が方針を変更したことが原因でした。日本の市場が求める高い品質水準もハードルになったと言われます。

 

一方、ルピンとアスペンは、成長が期待できない日本市場に見切りをつけました。米IQVIAの予測によると、19~23年の日本市場の年平均成長率はマイナス3%~0%。薬価の引き下げが重しとなります。

 

国内の後発品市場は「20年9月までに使用割合80%」という政府目標に向けて拡大しており、18年9月時点の使用割合は72.6%(前年同期比6.8ポイント増)に達しました。しかし、政府目標の達成後、市場は頭打ちになり、縮小局面に転じるとみられています。21年度から始まる薬価の毎年改定では後発品も大きな影響を受けるとされ、事業環境は一層、厳しくなります。

 

【後発品の使用割合(数量ベース)】:05年9月32.5%/07年9月34.9%/09年9月35.8%/11年9月39.9%/13年9月46.9%/15年9月56.2%/17年9月65.8%/18年9月72.6%、※厚生労働省の資料をもとに作成

 

長期収載品は後発品への置き換えで急速に市場がしぼんでいます。18年4月の薬価制度改革では、後発品の発売から10年たった長期収載品の薬価を、段階的に後発品と同じかそれに近い水準まで引き下げるルール(いわゆる「G1」「G2」)が導入。20年4月の次期薬価制度改革に向けては、一部の品目で引き下げ開始までの期間を短縮する方向で議論が進んでおり、こちらも事業環境はシビアです。

 

生き残り模索

環境の厳しさは日本企業にとっても同じです。田辺三菱製薬は17年に、エーザイは今年、それぞれ後発品子会社を売却しました。富士フイルムも今年、「収益確保が困難」として子会社・富士フイルムファーマを解散。新薬メーカーの間では、収益性の下がる長期収載品を手放す動きが相次いでいます。

 

【後発品事業から撤退した日本企業】(社名/撤退年/内容):田辺三菱製薬/2017年/後発品と長期収載品を取り扱っていた子会社・田辺製薬販売をニプロに売却。 富士フイルム/2019年/後発品子会社・富士フイルムファーマを解散。 エーザイ/2019年/後発品子会社・エルメッドエーザイを日医工に売却。※各社の発表をもとに作成

 

後発品メーカーは生き残り策を模索しています。

 

サンドはアスペン・ジャパンの買収を通じて病院市場へのアクセスを強化したい考えです。アスペンは麻酔薬やスペシャリティ医薬品の長期収載品を強みとしており、サンドのリチャード・セイナーCEOは「買収によって日本でのサンドの地位は大幅に強化される」とコメント。中枢神経系領域を中心に事業展開する共和は、ファンドの傘下で医薬品の枠を超えた製品やサービスの開発を進めます。

 

沢井製薬と日医工は米国市場に活路を見出し、相次いで米国の後発品メーカーを買収。薬価が下がっても収益を確保できるよう、海外での生産に取り組む企業もあります。16年にノバルティスファーマから長期収載品を承継して日本市場に参入したインドの後発品大手サンファーマは、今年1月にポーラファルマを子会社化。8月には乾癬治療薬の抗IL-23抗体チルドラキズマブを申請しており、新薬にもビジネスの幅を広げます。

 

かねてから「メーカーの数が多すぎる」と言われ続けてきた国内の後発品市場。薬価制度の見直しが淘汰の引き金となり、生き残りをかけた合従連衡の動きが加速しそうです。

 

(前田雄樹)

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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