塩野義製薬がUMNファーマを買収し、ワクチン事業に本格参入します。両社は2年にわたる資本業務提携で、遺伝子組み換え技術を用いてワクチンを製造する基盤技術を整備。来年にも臨床試験を始めるインフルエンザワクチンを皮切りに、治療から予防へと事業の幅を広げます。
インフルエンザワクチン 来年にも臨床試験
感染症を重点領域に定め、抗ウイルス薬や抗菌薬を手掛けてきた塩野義製薬が、ワクチン事業に参入し、予防の領域へと踏み出します。
10月30日、塩野義はワクチン開発を手掛けるバイオベンチャー・UMNファーマを買収すると発表しました。両社は2017年10月に資本業務提携を結んでおり、塩野義はすでにUMNファーマの発行済み株式の約31%を保有。株式公開買い付け(TOB)によって残りの全株式を取得し、完全子会社化します。買い付け価格は1株540円で、総額は約66億円となる見通しです。
両社は2年の資本業務提携で、感染症予防ワクチンを生み出すための基盤技術の整備を進めてきました。新規ワクチンの創出に向けた基礎研究も進展し、臨床入りを間近に控える開発候補品も出てくる中、遺伝子組み換え技術を活用した技術基盤もおおむね確立。「ワクチンに経営資源を戦略的に投入していくには、両社の研究開発体制、製造・販売体制を統合し、事業の活性化・効率化を図ることが不可欠」(塩野義)とし、完全子会社化に踏み切りました。
開発の第1弾はインフルエンザワクチンで、早ければ2020年にも臨床試験を開始する予定。自社の核酸アジュバント「S-540956」も組み合わせ、RSウイルスやヘルペスウイルスなどにも開発の手を広げていく考えです。
製造法確立に自信
UMNファーマは、アンメット・メディカル・ニーズ(満たされていない医療ニーズ)を満たす薬剤を開発する創薬ベンチャーとして2004年に設立。06年には米プロテイン・サイエンシズ・コーポレーション(PSC、17年に仏サノフィが買収)から遺伝子組み換えインフルエンザワクチンを導入し、バキュロウイルスと昆虫細胞を使った組み換えタンパク質製造技術(BEVS)をベースにワクチンを開発してきました。
10年にはアステラス製薬と、PSCから導入したインフルエンザワクチンの共同事業契約を締結。14年にアステラスによって申請が行われました。この時点ですでに米国ではPSCが承認を取得していましたが、日本での審査は難航。医薬品医療機器総合機構(PMDA)から「リスク・ベネフィットの観点から、臨床的意義は極めて乏しく、審査を継続できない」とのまさかの見解が示され、アステラスは17年1月に申請を取り下げました。
“ラブドフリー”の昆虫細胞培養を確立
開発が頓挫したことで、アステラスとの共同事業契約や、IHIとの原薬製造での協業は相次いで解消。以来、UMNは不安定な経営が続いていました。そこに手を差し伸べたのが塩野義で、第三者割当増資と転換社債を引き受けるなどして経営を支援してきました。
塩野義はUMNのインフルエンザワクチンが承認を取得できなかった理由について、培養に使う昆虫細胞にラブドウイルスが混入する可能性が否定できなかったためだとしており、資本業務提携で両社はラブドウイルスが混入しないBEVSを開発。塩野義の手代木功社長は「PMDAとも話をしているが、今回確立したBESVはラブドフリーと言っていいだろう」と自信を見せています。
田辺三菱は植物由来、武田はデング熱やジカ熱など
塩野義は抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」「ラピアクタ」のほか、インフルエンザの診断キットなどを販売していますが、予防の領域は手つかずでした。UMNの子会社化によって感染症のパイプラインは拡大し、事業領域は未病・予防の分野へと広がります。
ワクチンをめぐっては、ほかの日本企業も取り組みを強化しています。
田辺三菱製薬は13年にカナダのメディカゴを買収し、植物由来のウイルス様粒子(VLP)を製造する技術を獲得。これをもとに開発した季節性インフルエンザワクチンは、現在、カナダで申請しており、米国でも申請に向けた準備を進めています。
アステラス製薬は、米アフィニバックスから全世界での開発・商業化権を獲得した、多重抗原提示システム技術によってつくられた肺炎球菌ワクチンを開発中。武田薬品工業は、デング熱やノロウイルス、ジカ熱など、いまだワクチンのない疾患を対象に開発を進めています。
(亀田真由)