医薬品卸が、希少疾患向け医薬品や再生医療等製品といった「スペシャリティ医薬品」の流通をめぐって激しい争奪戦を繰り広げています。バイオ医薬品や再生医療等製品は市場拡大が見込まれており、需要を取り込もうと各社が流通の受託拡大に向けた取り組みを強化。昨年12月には「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」が導入され、より高度な流通管理システムの開発も活発化しています。
スズケン キムリアの流通を受託
今年5月、2つの血液がんを対象に保険適用された国内初のCAR-T細胞療法「キムリア」(ノバルティスファーマ)。その国内流通を、医薬品卸大手のスズケンが受託しました。
キムリアは、医療機関で採取した患者のT細胞を、米国にあるノバルティスの施設で加工・培養して製品化。その後、再び日本に輸送され、医療機関に届けられます。スズケンが担うのは、製品化されたキムリアが日本国内で出荷された後の流通業務。同社は「厳格な温度管理と確実なトレーサビリティを確保しながら、再生医療等製品を流通させるプラットフォームを構築していく」といいます。
スズケンは4大医薬品卸の中でも早くからスペシャリティ医薬品の分野に力を入れており、2012年に専門子会社「SDネクスト」(現エス・ディ・コラボ)を設立しました。メーカー物流から卸流通まで一気通貫で担えるのが強みで、今年6月には、日本市場に新規参入する米アルナイラムから、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー治療薬のsiRNA核酸医薬「オンパットロ」の流通を受託。イシンファーマが2020年の発売を目指して開発中の再生医療等製品「ISN001」でも、承認取得後に物流業務全般を受託することが決まっています。
大手卸が取り組み強化、地域卸も対抗
医薬品の開発が希少疾患やバイオ、再生医療といったスペシャリティ領域にシフトする中、医薬品卸各社もこの分野への取り組みを強めています。
メディパルホールディングス(HD)は2016年、提携するJCRファーマが移植片対宿主病に対する再生医療等製品「テムセル」を発売したのに合わせて、同社と共同開発した超低温管理物流システムの運用を開始。同じ年にスペシャリティ医薬品を専門的に扱う子会社「SPLine」を設立し、脊髄損傷向け再生医療等製品「ステミラック」(ニプロ)や、アデノシンデアミナーゼ欠損症治療薬「レブコビ」(帝人ファーマ)などの流通業務を受託しています。
アルフレッサHDは18年、神奈川県が川崎市殿町に整備する「ライフイノベーションセンター」に、再生医療等製品の保管・流通拠点「殿町再生医療流通ステーション」を開設しました。治験製品を中心に取り扱い実績を増やしながらノウハウを蓄積し、再生医療等製品の流通ネットワークを全国規模で構築する方針です。
東邦HDも13年に専門子会社「オーファントラストジャパン」を設立。19年にはスズケン子会社のエス・ディ・コラボに3分の1超を出資し、スペシャリティ医薬品の流通を共同展開していくことで合意しました。この分野をめぐる競争が激しさを増す中、協業によって競争力を確保したい考えです。
スペシャリティ医薬品の流通は広域卸が1社独占で受託する傾向にある中、地域卸ではこれに対抗する動きが出てきています。ほくやく・竹山HD(札幌市)とバイタルケーエスケーHD(仙台市)、フォレストHD(福岡市)の3社は18年に、スペシャリティ医薬品を扱う新会社「リードスペシャリティーズ」を共同出資で設立。ほかの地域卸の参加も促し、全国的な体制を整えていく構えです。
投与直前まで品質管理「RFID」を活用
スペシャリティ医薬品はその性質から、流通や保管の過程で厳格な温度管理やトレーサビリティが要求され、特に自家細胞を使った製品の場合、誰が、いつ、どこで、どれを使うのかといった情報管理が重要になります。18年12月には「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」(日本版GDP)が導入されたこともあり、卸各社は、より高度な流通管理システムの開発を進めています。
メディパルHDは今年3月、RFIDタグを用いて、患者への投与直前まで品質管理を可能とするトレーサビリティシステムの実証実験を始めると発表しました。RFIDはRadio Frequency Identificationの略で、RFIDタグに記憶された情報を無線通信を通じて読み書きする自動認識システム。メディパルHDは温度管理が可能なRFIDを使って、同社物流センターから投薬直前まで状況を追跡することで、リアルタイムな温度管理と在庫把握、投与確認ができる仕組みを構築。秋頃まで実証実験を行い、19年度中のサービス提供開始を目指します。
アルフレッサHDも今年3月、PHC(旧パナソニックヘルスケア)、富士通エフ・アイ・ピーと提携し、RFIDやクラウドといったIoT技術を活用した流通管理プラットフォームの構築に向けた検討に着手。リードスペシャリティーズも同月、PHCと共同でRFIDを活用した流通管理システムの検討を始めました。
スズケンは、スペシャリティ医薬品専用の保冷ボックスをパナソニックと共同開発。同社が開発した新素材を使うことで、温度を長時間、安定的に維持することを可能としたほか、電波の透過性を確保し、IoTとの親和性も向上させました。さらに、今年6月からは、大手警備会社セコムと提携し、医療機関・薬局での温度・在庫管理や持ち出し監視を行う「スペシャリティ医薬品24時間365日見守りサービス」の提供を始めています。
サンバイオは昨年、バイタルケーエスケーHD、フォレストHD傘下のアステムなどと資本業務提携を結び、外傷性脳損傷を対象に国内で20年1月期中の申請を目指す再生細胞薬「SB623」の流通のあり方について検討を開始。今年8月には、スズケンと商流に関する取引基本契約を結ぶとともに、投与までのトレーサビリティを管理するシステムを共同開発することで合意しました。
スペシャリティ医薬品の流通をめぐっては、このように申請前の早い段階からパートナーシップを組むケースも増えていくかもしれません。
(前田雄樹)