国内の後発医薬品業界で、大手2社が激しい首位争いを繰り広げています。2019年3月期は沢井製薬が2期連続でトップとなったものの、20年3月期は旧エルメッドエーザイを傘下に収めた日医工が国内首位の座に返り咲く見通しです。3位の東和薬品は、販売体制の見直しで19年3月期に売上高が初めて1000億円の大台を突破。政府が目標とする「使用割合80%」達成後の市場の停滞を見据え、競争が激しくなっています。
日医工 20年3月期は2000億円突破を予想
日医工が、国内後発医薬品メーカーで売上高トップに返り咲く見通しとなりました。今月、日医工が発表した2020年3月期の売上高予想は、日本の後発品企業として初の2000億円突破となる2010億円(前期比20.7%増)。一方、18年3月期、19年3月期と2期連続首位の沢井製薬は1844億円(0.0%増)と足踏みする見通しで、3期ぶりとなる日医工の首位奪還が見えてきました。
両社の19年3月期の連結売上高は、沢井が1843億4100万円(9.7%増)、日医工が1665億9200万円(1.1%増)でした。
沢井はこの期から、17年に買収した米アップシャー・スミス・ラボラトリーズが通期で寄与し、米国事業の売上高が前期と比べて20.7%増加。国内も、採用施設を4000軒ほど増やした上、単独参入となった抗インフルエンザウイルス薬オセルタミビルが好調で7.0%の増収となりました。対する日医工は、新製品の販売拡大で後発品の国内売上高は2.9%増となったものの、16年に買収した米国子会社セージェント・ファーマシューティカルズが1.5%減と苦戦。連結売上高としては近年稀に見る低成長ぶりで、沢井との差はさらに広がりました。
エルメッド買収で規模拡大…沢井は米国が大幅減
20年3月期、こうした状況を一変させるのが、日医工によるエルメッドエーザイの買収です。今年4月、日医工はエルメッドエーザイを「エルメッド」として完全子会社化しました。旧エルメッドエーザイの売上高は19年3月期で252億円。これを取り込むことで、今期は国内で25.4%の増収を見込みます。
日医工とエーザイはエルメッドの買収を含む戦略提携を結んでおり、認知症やリウマチなど6領域でエーザイの先発品と日医工の後発品をパッケージとして提案する活動や、一部製品のコプロモーションを開始。エルメッドとは、重複品目の整理や原薬の最適化などに取り組み、規模を生かした利益の最大化を目指します。
一方の沢井は、前期の業績拡大を牽引した米国事業が一転して12.3%減とブレーキになります。米国では、FDA(食品医薬品局)が後発品の承認を大幅に増やしていることに加え、卸・薬局の統合による規模拡大で購買側の力が強くなっており、後発品間の価格競争が激化。価格の下落傾向は落ち着きつつあるものの、厳しい状況は続きます。
日医工もこうした市場環境の影響を受けており、19年3月期の米子会社の減収も価格の下落が主な要因。20年3月期も3.1%増にとどまる見通しです。
東和 卸ルート好調で1000億円突破
上位2社が首位の座をめぐってデットヒートを繰り広げる中、19年3月期に好調ぶりが目立ったのが業界3位の東和薬品です。同社は18年3月期から、営業所や代理店を通じた「直販」に加え、医薬品卸経由の販売を開始。売上高に占める卸経由の割合は、18年3月期の12.5%から22.4%に上昇しました。19年3月期は売上高1051億400万円(12.5%増)と同社として初めて1000億円の大台を突破。20年3月期も5.6%増と着実に売り上げを伸ばす見通しです。
AG貢献のニプロや第一三共が大幅増収
専業の大手3社を除く後発品メーカーでは、ニプロや第一三共、持田製薬などが好調です。ニプロは17年に田辺三菱製薬から後発品事業を買収し、同社の抗アレルギー薬「タリオン」のオーソライズド・ジェネリック(AG)が牽引しました。第一三共は高血圧症治療薬「オルメテック」や高脂血症治療薬「クレストール」のAGが好調。第一三共は今年3月に抗がん剤「イレッサ」や排尿障害改善薬「ユリーフ」のAGも発売しており、20年3月期も売り上げを伸ばしそうです。
持田は、17年に発売した子宮内膜症治療薬「ディナゲスト」のAGのほか、関節リウマチ治療薬「エタネルセプト」のバイオシミラーが貢献。キョーリン製薬ホールディングスも抗アレルギー薬「キプレス」のAGが売り上げを伸ばしました。
政府は2020年9月までに後発医薬品の使用割合を80%まで引き上げることを目標として使用促進策を打っていますが、80%に達したあとは市場は頭打ちになるとの見方が大勢。政策頼みではなく、自らの手で成長を続けることができるのか、どのメーカーも岐路に立たされています。
最近では、田辺三菱やエーザイが後発品事業を売却したほか、今年3月には富士フイルムファーマが「環境が急激に変化しており、安定的な収益を将来にわたって確保するのが困難」として解散に踏み切りました。経営環境が悪化する中、中小メーカーを中心に撤退の動きが加速すると予想されます。生き残りをかけた後発品企業の競争は、こうした動きも巻き込みながらさらに激しさを増していくでしょう。
(前田雄樹)