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製薬再編 カギは医薬品卸に―進む“イノベーション”と“オペレーション”の棲み分け|モダリティ 新時代(3)

細胞治療に遺伝子治療、核酸医薬品…。新たなモダリティは、製薬会社・製薬業界のビジネスにどんな影響を与えるのでしょうか。ヘルスケア分野で活躍するコンサルタントの増井慶太さん(アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパル)に語っていただきます。

 

連載の最終回となる今回は、新規モダリティの登場でプレゼンスを高める医薬品卸が、製薬業界再編の中心になる未来を想像します。

 

■連載「モダリティ新時代」
【1】MR 高度化の要請―変わる製薬会社のセールス&マーケティング
【2】“機械屋”化する“薬屋”…製薬会社が医療機器メーカーから学ぶべきこと
【3】製薬再編 カギは医薬品卸に―進む“イノベーション”と“オペレーション”の棲み分け

 

重要度増す流通 存在感高める卸

前回は、新たなモダリティ、中でも再生・細胞治療では流通の重要性が増すということをお話ししました。

 

繰り返しておくと、治療に使う細胞を運ぶにはスーパーコールドチェーン(超低温物流)をはじめとする高度な流通網の整備が必要で、そもそもそれがなければ製薬会社はモノを売ることができない。なので、ロジスティクスの整備ということが、製薬会社にとっては以前にも増して非常に大きなテーマになります。

 

例えば、サンバイオは昨年、医薬品卸2社(バイタルケーエスケー・ホールディングスとアステム)と資本業務提携を結び、開発中の再生細胞薬「SB623」の流通について共同で研究を始めました。SB623はまだ承認申請もなされていませんが、それくらい早い段階からこうした取り組みを始めたということは、再生・細胞治療における流通の重要性を示す1つの事例と言えるでしょう。

 

再生・細胞治療に対応した流通網を整備

ほかの医薬品卸も再生・細胞治療に対応した流通網の整備に着手しています。

 

バイオロジクスの増加に対応した流通網の整備に着手する大手卸。【アルフレッサHD】・川崎市の「ライフイノベーションセンター」に再生医療等製品の保管・流通拠点「殿町再生医療流通ステーション」を開設。・マイナス150度以下の保管・輸送環境を整備士、顧客の要望に応じた保管・流通に対応。・治験製品を中心に取り扱い実績を増やしながらノウハウを蓄積し、全国流通ネットワークを構築する予定。【メディパルHD】・シャイアーのインヒビター保有血友病患者向け止血薬「バイファ」の緊急搬送システムを構築。・365日24時間、同薬の緊急配送が可能に。・メディパルHDによると、同様の緊急配送システムは、抗凝固薬の中和剤「ブリズバインド」に続き2例目。

 

例えば、アルフレッサは昨年、神奈川県が再生・細胞治療の産業化拠点として整備する川崎市殿町地区に、再生医療等製品の保管・輸送拠点を開設しました。治験製品を中心に取り扱い実績を増やしながらノウハウを蓄積し、将来的には再生医療等製品の全国流通ネットワークを構築する予定だそうです。

 

率直に今の医薬品卸を見ていると、自律的な収益化ということがなかなかできていないと感じます。再生・細胞治療の普及に伴い、今後は自分たちでケイパビリティーを作り出し、そこに対する対価で儲けていくという構造になっていくでしょう。

 

これまではどちらかというと黒子的な存在だった医薬品卸ですが、製薬産業にとってより重要な存在になっていくということに疑いの余地はありません。モダリティの変化を背景に、製薬産業における医薬品卸のプレゼンスは今後ますます高まっていくと考えられます。

 

製薬会社から“オペレーション”を取り込む卸

もう1つ、視点として重要なのが、モダリティの変化に伴って“イノベーション”と“オペレーション”の棲み分けが進むということです。

 

製薬業界では昨今、新規モダリティを含む新薬開発(=イノベーション)に経営資源を集中的に投資するため、長期収載品や後発医薬品(=オペレーション)を切り離す動きが相次いでいます。武田薬品工業はテバとの合弁会社に長期収載品を移管しましたし、アステラス製薬は投資ファンドが設立した医薬品販売会社LTLファーマに、中外製薬は化学メーカー傘下の太陽ファルマに、それぞれ長期収載品を売却しました。

 

長期収載品・後発品切り離しの主な動き。【武田薬品工業】<譲渡先>武田デパ<内容>長期収載品。【アステラス製薬】<譲渡先>LTLファーマ<内容>長期収載品。【第一三共】<譲渡先>アルフレッサファーマ(医薬品卸)<内容>長期収載品。【エーザイ】<譲渡先>日医工<内容>後発品子会社。【田辺三菱製薬】<譲渡先>ニプロ<内容>長期収載品・後発品子会社。【小野薬品工業】<譲渡先>丸石製薬<内容>長期収載品。【富士フィルムファーマ】<譲渡先>共創未来ファーマ(医薬品卸)<内容>後発医薬品。

 

最近では医薬品卸がその受け皿として存在感を発揮しはじめています。第一三共は昨年、アルフレッサホールディングス子会社のアルフレッサファーマに長期収載品を譲渡すると発表。今年3月以降順次、製造販売承認を承継していく予定です。

 

卸は今後ファーマ化していく

度重なる薬価引き下げと後発品の普及によって、新薬メーカーからすると長期収載品はあまり儲からない商売になってきました。一方、営業利益率が1、2%という医薬品卸にとって長期収載品は魅力的なアセット。MSという営業部隊もすでにいるので、卸からすると長期収載品の受け皿になるというのはすごく合理的な戦略なんです。

 

大手医薬品卸の営業利益率(2018年3月期・連結)。【メディパルHD】売上高:3.15兆円、営業利益:443億円、営業利益率:1.41パーセント。【アルフレッサHD】売上高:2.60兆円、営業利益:418億円、営業利益率:1.60パーセント。【スズケン】売上高:2.12兆円、営業利益:197億円、営業利益率:0.93パーセント。【東邦HD】売上高:1.21兆円、営業利益:190億円、営業利益率:1.57パーセント。

 

さらに一部の医薬品卸はPMS(市販後調査)の受託ビジネスを始めていますし、提携を通じてCRO(医薬品開発受託)ビジネスに乗り出しているところもあります。新薬メーカーがイノベーションによりフォーカスしていく中、それ以外のオペレーショナルな機能を取り込むことで、医薬品卸は今後“ファーマ化”していくのではないでしょうか。

 

卸が中堅製薬会社を買収する可能性

こうして考えてみると、医薬品卸を起点とした製薬業界再編の絵を描くことも可能でしょう。場合によっては、長期収載品が主体の中堅新薬メーカーや、小規模な後発品メーカーを、医薬品卸が丸ごと買収するということもあり得ると思います。

 

日本の医薬品産業の課題としてよく指摘されるのが、メーカーの数が多く、かつ一つ一つの規模が小さいということ。国も2015年に策定した「医薬品産業強化総合戦略」で業界再編の必要性に言及したことは、皆さんもご存知かと思います。

 

水平統合より垂直統合が現実的・合理的

以前、私は「国内製薬業界のM&Aの再編シナリオの構築」に関するコンサルティングプロジェクトを実施したことがあるのですが、国内の中堅新薬メーカー同士が合併する合理的なシナリオが思い浮かびませんでした。再編が起こるとすれば、製薬会社同士の水平統合よりも、医薬品卸をはじめとする医薬品のバリューチェーンにおける周辺プレイヤーが垂直統合を通じて手を伸ばしてくと考える方が現実的かつ論理的だと思います。

 

振り返ってみると、診療所の医師や市中の調剤薬局と強固な関係性を構築してきた(している)のは、医薬品メーカーよりも医薬品卸のほうでした。製薬メーカーと医療従事者の間の情報伝達が良くも悪くも一層ドライな関係性に変化する中、臨床現場へのサポートを医薬品卸に委任するのは、産業全体の効率性の観点からも有意なことだと考えています。

 

ここで1つ問題なのが、医薬品卸には非有機的成長の実現に向けたキャッシュが不足していること。ここに資金が入ってくると、かなり面白い―誰にとって面白いのかということはありますが―業界再編の絵が描けるのではないかと想像しています。

 

(おわり)

 

Masui_Bio3

増井 慶太(ますい・けいた)アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社プリンシパル。経営戦略コンサルティングファームで、ヘルスケア/ライフサイエンス/医療産業に対するコンサルティングに従事。事業ポートフォリオ/新規事業開発/研究開発/製造/M&A/営業/マーケティングなど、バリューチェーンを通貫して戦略立案から実行支援まで支援。Twitter:@keita_masui

 

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