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【肺がん】EGFR-TKI 一次治療に相次ぎ新薬…それでも残るアンメットニーズ

更新日

昨年から今年にかけて、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに相次いで新薬が登場しています。昨年8月、アストラゼネカのEGFR阻害薬「タグリッソ」が一次治療への適応拡大の承認を取得。今年1月にはファイザーの同「ビジンプロ」が承認され、来月にも発売される見通しです。選択肢が広がる中、治療はどう変化するのでしょうか。

 

タグリッソ EGFR-TKIでシェアトップに

2018年8月、アストラゼネカのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)「タグリッソ」(一般名・オシメルチニブ)が、「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん」への適応拡大の承認を取得しました。同薬は、薬剤耐性を引き起こす「EGFR T790M変異」のある患者への二次治療を対象に16年5月に発売。適応拡大が承認されたことで、一次治療でも使えるようになりました。

 

EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異は、肺がんで多く見られるドライバー遺伝子の変異。日本人の場合、非小細胞肺がん患者の30~40%にEGFR遺伝子変異があり、腺がんに限るとその割合は5割を超えます。EGFRは細胞の増殖に関与するタンパク質。ここの遺伝子に変異があると、増殖のスイッチが入り続けた状態になり、がん細胞が際限なく増えてしまいます。

 

肺がんの分類の樹形図。肺がんには二種類あり、一つは小細胞肺がん。もう一つは非小細胞肺がん。非小細胞肺がんも二つに分類でき、一つは扁平上皮がん。もう一つは非扁平上皮がん。非扁平上皮がんも二つに分類できる。一つは腺がん。もう一つは大細胞がん。

 

一次治療での使用「さらに増える」

タグリッソは急速に売り上げを伸ばしています。アストラゼネカによると、適応拡大が承認された18年7~9月の売上高は前年同期に比べ20%増加。同年9月にはEGFR-TKIでトップシェアに躍り出たといいます。18年の売上高(薬価ベース)は9月までで240億円を超えました。

 

同薬は臨床第3相(P3)試験「FLAURA」で、既存のEGFR-TKI「イレッサ」(一般名・ゲフィチニブ、アストラゼネカ)や同「タルセバ」(エルロチニブ、中外製薬)と比べて無増悪生存期間(PFS)を有意に延長。日本肺がん学会の「肺がん診療ガイドライン2018年版」では、一次治療として最も強く使用が推奨されています。

 

アストラゼネカのステファン・ヴォックスストラム社長は「一次治療でのタグリッソの使用はさらに増えていく」と見通します。長らくイレッサが中心だったEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの治療は、タグリッソの登場で大きく変わってきています。

 

5剤目のEGFR-TKI「ビジンプロ」が承認

こうした中、今年1月には、国内5剤目のEGFR-TKIとなるファイザーの「ビジンプロ」(ダコミチニブ)が、一次治療の適応で承認を取得しました。2月の薬価収載を経て発売される見通しです。

 

国内で承認されているEGFR-TKIの表。【第一世代】イレッサ(ゲフィチニブ)社名:アストラゼネカ、適応:一次治療、発売年:2002年。タルセバ(エルロチニブ)社名:中外製薬、適応:一次治療、発売年:2007年。【第二世代】ジオトリフ(アファチニブ)社名:ベーリンガーインゲルハイム、適応:一次治療、発売年:2014年。ビジンプロ(ダコミチニブ)社名:ファイザー、適応:一次治療、発売年:2019年。【第三世代】ダグリッソ(オシメルチニブ)社名:アストラゼネカ、適応:一次治療・T790M陽性の二次治療、発売年:2016年。

 

ビジンプロは、イレッサと直接比較したP3試験「ARCHER1050」でPFSを有意に延長。日本では優先審査品目に指定され、18年5月の申請から7カ月でのスピード承認となりました。

 

EGFR-TKIの新たな選択肢となるビジンプロですが、一次治療薬としてはタグリッソが先に承認を取得しており、使いどころが悩ましい薬剤となりそうです。診療ガイドラインでの推奨度はタグリッソより一段低く、第一選択薬としてのタグリッソの優位は揺らぎそうにありません。

 

使いどころは悩ましい

タグリッソはEGFR-TKIとしては唯一、二次治療で使うことが可能なので、ビジンプロを一次治療で使い、効かなくなったらタグリッソに切り替えるという治療戦略はありえます。ファイザーが開いたメディア向けカンファレンスで講演した近畿大医学部の中川和彦教授(腫瘍内科)は、ビジンプロの臨床的意義について「(ビジンプロ使用後に)T790M変異陽性になったらオシメルチニブを使う、ということもできるのではないか」と話します。

 

Ⅳ期EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの治療の樹形図。

 

ただ、タグリッソを二次治療で使うには、EGFR T790Mの変異があることが条件となります。この変異が見られるのは、EGFR-TKIに抵抗性となった患者の半分ほど(第2世代EGFR-TKIの場合)。タグリッソを二次治療にとっておいたとしても、半分の患者は使えないことになり、中川氏も「新しい患者も(タグリッソを一次治療として選択する)自由は保たれたほうがいい」と言います。

 

残されたアンメットニーズ

選択肢が広がるEGFR-TKIですが、薬剤耐性という課題はまだ残されています。

 

1つは、既存のEGFR-TKIがほとんど効かない「エクソン20挿入変異」。変異の頻度は低いものの、この変異がある患者ではEGFR-TKIの奏効率が10%弱にとどまるといいます。肺がん学会の診療ガイドラインでも、エクソン20挿入変異のある患者にはEGFR-TKIを使わないことを推奨しています。

 

エクソン20挿入変異 武田などが開発

エクソン20挿入変異をターゲットとした薬剤としては、米スペクトラム・ファーマシューティカルズが新規EGFR-TKIのpoziotinibを開発しており、現在、海外でP2試験が進行中。武田薬品工業はEGFR/HER2阻害薬「TAK-788」のP1試験を行っています。大鵬薬品工業も「TAS6417」を開発中で、海外ではスピンアウト先のカリナンパールが年内にP1試験を始める予定。タグリッソもエクソン20挿入変異のある患者を対象に臨床試験を行っています。

 

もう1つは、2次治療、特にタグリッソに耐性となった患者に対する治療選択肢です。タグリッソのP3試験FLAURAでは、同薬が効かなくなった患者でMET増幅やEGFR C797S変異が高い頻度で確認されました。英アストラゼネカはこの結果を受け、タグリッソによる一次治療後に病勢進行した患者に対する治療選択肢を探るP2試験「ORCHARD」を始めています。

 

新薬の登場により着実に予後が向上している肺がん。残されたアンメットニーズを満たす薬剤の開発が進めば、薬物治療はさらに進化していくでしょう。

 

(亀田真由)

 

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