年明け早々から、製薬業界で大型買収が相次いでいます。
米ブリストル・マイヤーズスクイブは8兆円で米セルジーンを買収すると発表。米イーライリリーも米ロキソ・オンコロジーを8600億円で買収することで合意しました。今月8日には、武田薬品工業がアイルランド・シャイアーの買収を完了し、世界8位のメガファーマが誕生。勢力図を書き換えるような大型M&Aが活発化する中、ほかの世界大手の動きにも注目が集まります。
ブリストル 8兆円買収でがん領域拡大
米ブリストル・マイヤーズスクイブは1月3日、米セルジーンを買収すると発表しました。買収額は約740億ドル(約7兆9920億円)で、買収は今年第3四半期(7~9月)に完了する見通し。両社の売上高を単純合算すると3兆7900億円(2017年)に達し、買収によってブリストルは世界トップ10入りを果たします。
「セルジーンとともに、私たちは革新的なバイオファーマ企業のリーダーになる。合併を通じて、がん、免疫疾患、炎症性疾患などのポートフォリオ全般で、リーダーとしてのプレゼンスを強化する」
ブリストルのジョバンニ・カフォリオCEO(最高経営責任者)は買収の意義をこう強調。買収後の新会社は9つのブロックバスター(年間売上高10億ドル以上)を擁し、近く発売見通しの6新薬で計150億ドル超の売り上げを見込んでいます。
ブリストルとセルジーンはともにがん領域に強みを持ちます。ブリストルは免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」「ヤーボイ」、セルジーンは多発性骨髄腫治療薬「レブラミド」「ポマリスト」などが主力。英調査会社エバリュエートによると、がん領域の売上高(2017年)はブリストルが85億2000万ドルで3位、セルジーンが116億4900万ドルで世界2位。単純合算すると201億6900万ドルとなり、首位のスイス・ロシュ(274億5300万ドル)との差を詰めます。
がん領域 免疫薬が市場成長を牽引
米IQVIA INSTITUTEによると、世界のがん治療薬市場は2022年まで年平均10~13%で成長し、同年には市場規模が2000億ドルに達するとみられています。
市場拡大を牽引するのは、免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法などのがん免疫薬です。米ギリアド・サイエンシズは17年、CAR-Tを手がける米カイトファーマを119億ドルで買収。セルジーンも昨年、CAR-Tを開発する米ジュノ・セラピューティクスを90億ドルで買収しましたが、今度はブリストルが8兆円でそれを丸ごと飲み込みます。
ブリストルは世界に先駆けて免疫チェックポイント阻害薬を世に送り出したものの、主力のオプジーボは間もなく、後発のキイトルーダ(米メルク)に売上高で逆転を許す見通し。CAR-Tを持ち、免疫のノウハウも豊富なセルジーンを買収することにより、がん免疫の分野で反転攻勢に出たい考えです。
がん領域をめぐっては、米イーライリリーも1月7日、抗がん剤を開発する米ロキソ・オンコロジーを80億ドル(約8640億円)で買収すると発表。ロキソは昨年11月に米FDA(食品医薬品局)がNTRK遺伝子変異陽性固形がんを対象に承認したTRK阻害薬「Vitrakvi」(一般名・larotrectinib)を独バイエルと共同開発した企業です。
ロキソはがんドライバー遺伝子に着目した臓器横断型のがん治療薬を開発しており、パイプラインにはRET阻害薬「LOXO-292」やBTK阻害薬「LOXO-305」などを保有。リリーは買収によってプレシジョン・メディスンへの取り組みを強化します。
ギリアドやファイザーも意欲
大型買収が続く中、注目されるのがほかの製薬大手の動きです。
米ブルームバーグ通信は1月8日、「製薬業界に新たなM&Aの波か」と題する記事を配信しました。記事によると、米ギリアドのロビン・ワシントンCFO(最高財務責任者)は米サンフランシスコで開かれたJPモルガン・ヘルスケア・カンファレンスで「当社は何よりもM&Aを重視している」と発言。米ファイザーのアルバート・ボーラCEOも成長に向けた選択肢に買収を含めていることを表明したといいます。
米ファイザーは数年前、英アストラゼネカ、アイルランド・アラガンと立て続けに大型買収を仕掛けたものの、いずれも失敗。16年には抗がん剤「イクスタンジ」をアステラス製薬と共同で手がける米メディベーションを140億ドルで買収しましたが、買収意欲はまだまだ旺盛なようです。
武田薬品工業によるアイルランド・シャイアー買収では、同じアイルランドのアラガンが買収提案を検討していると表明(直後に撤回)したほか、ファイザーや米アムジェンの名前も取り沙汰されました。14年に一時シャイアー買収で合意(のちに米国の租税回避規制の強化を受け撤回)し、翌年に米ファーマサイクリックスを210億ドルで買収した米アッヴィなども含め、相次ぐ大型買収がこうした大手製薬のM&A戦略にどう影響を与えるのか注目されます。
折しも米国のバイオ関連株は軟調に推移しており、ナスダックのバイオテクノロジー指標は昨年9月28日と比べて12%低くなっています(1月10日時点)。値ごろ感が出てきたことも、M&Aの追い風になるかもしれません。
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