12月10日夜(日本時間11日未明)にスウェーデン・ストックホルムで行われるノーベル賞授賞式。医学生理学賞を受賞する本庶佑・京都大特別教授の研究成果をもとに開発された免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」も、あらためて脚光を浴びています。注目を集めている今だからこそおさえておきたい、免疫チェックポイント阻害薬の基本をまとめました。
国内で販売中の免疫チェックポイント阻害薬は6種類
本庶佑・京都大特別教授の受賞理由は「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」。免疫細胞表面にあるタンパク質「PD-1」を発見し、このPD-1ががん細胞表面の「PD-L1」と結合することで、免疫細胞の働きにブレーキをかけることを解明しました。
PD-1はそもそも、免疫が過剰に働いて正常な細胞を攻撃することがないよう、その働きを抑制するために存在する分子。こうした免疫チェックポイント分子はほかにもあり、今回、本庶氏とノーベル医学生理学賞を共同受賞する米テキサス大のジェームズ・アリソン教授は、免疫細胞に発現する「CTLA-4」という別の免疫チェックポイント分子を発見しました。
両氏の研究成果をもとに開発された免疫チェックポイント阻害薬は文字通り、PD-1やCTLA-4といった免疫チェックポイント分子の働きを阻害することで、がん細胞が免疫にかけているブレーキを解除し、免疫細胞ががんを攻撃できるようにする薬剤です。
現在、国内で販売されている免疫チェックポイント阻害薬は6種類で、いずれも抗体医薬です。免疫細胞側のPD-1やCTLA-4に結合するものと、がん細胞側のPD-L1に結合するものがあります。
国内では14年9月に小野薬品工業の抗PD-1抗体「オプジーボ」(一般名・ニボルマブ)が発売されたのを皮切りに、▽抗CTLA-4抗体「ヤーボイ」(イピリムマブ、ブリストル)▽抗PD-1抗体「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ、MSD)▽抗PD-L1抗体「バベンチオ」(アベルマブ、メルクセローノ)▽同「テセントリク」(アテゾリズマブ、中外製薬)▽同「イミフィンジ」(デュルバルマブ、アストラゼネカ)――が相次いで発売されました。
使えるがんはまだ限られる
免疫チェックポイント阻害薬はその作用上、さまざまながんに効果を示す可能性がありますが、現時点で使えるがんはまだ限られています。
現在、最も多くのがんに使えるのはオプジーボ。悪性黒色腫(メラノーマ)や非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頚部がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫の7つのがんで承認されています。
使えるがんが同じであっても、患者の状況や疾患の状態によって使えるかどうかは違います。例えば、オプジーボとキイトルーダはともに非小細胞肺がんの適応を持っていますが、オプジーボは2次治療以降でないと使えないのに対し、キイトルーダは1次治療から使うことができます。オプジーボは1次治療を対象とした臨床試験で有効性を示せなかった一方、キイトルーダは同じような試験に成功したため。さらに、オプジーボとキイトルーダはステージ4の非小細胞肺がんが対象ですが、イミフィンジはステージ3の患者を対象に承認を取得しています。
適応拡大に向けた開発が活発に行われている
現時点では使えるがんは限られますが、適応拡大に向けた開発も活発です。治療のどの段階で使うかも含め、さまざまな臨床試験が行われています。
免疫チェックポイント阻害薬は発展途上
免疫チェックポイント阻害薬は、これまでの抗がん剤とは全く異なるがん治療薬。画期的な治療薬ではありますが、万能な薬ではありません。
どんな患者にも効くわけではなく、現状では効果が得られる患者は2割程度とされています。本庶氏自身も記者会見で「発展途上」と話しているように、どんな患者に効くかもはっきりしておらず、いかに効果を高めるか、いかに効く患者を広げるか、いかに効く患者を見分けるかが課題となっています。
一方、免疫チェックポイント阻害薬は臨床効果のあらわれ方も従来の抗がん剤と異なることが知られています。効果が長く持続する例があるのも特徴で、治療を中止しても効果が持続した例も報告されています。
免疫チェックポイント阻害薬は、副作用にも特徴的なものがあります。代表的なのが免疫関連副作用(irAE)。免疫チェックポイント阻害薬は、がんに対する免疫抑制だけを解除するわけではなく、活性化された免疫細胞によって自己免疫疾患のような症状を引き起こす場合があります。
開発の主流は併用療法
さまざまながんを対象に開発が進む免疫チェックポイント阻害薬ですが、現在は併用療法が開発の主流となっています。ほかの抗がん剤などと組み合わせることで、治療効果を高めたり、より多くの患者が効果を得られるようにしたりするのが狙いです。
米国のコンサルティング会社ディシジョン・リソーシズ・グループの調査によると、PD-1/PD-L1をターゲットとした5つの免疫チェックポイント阻害薬について世界中で行われている1600以上の臨床試験のうち、併用療法の試験は7割程度を占めています。
オプジーボの場合、ヤーボイとの併用療法が日本でも悪性黒色腫と腎細胞がんの適応で承認を取得しています。このほかにも、非小細胞肺がんや頭頚部がん、胃がんなどで併用療法の開発を進めています。
併用療法の開発をめぐっては、製薬企業間の提携も活発です。例えば米メルクは、キイトルーダと抗がん剤「レンビマ」の併用療法の開発でエーザイと、「リムパーザ」との併用で英アストラゼネカと提携しています。
薬価は発売当初の4分の1まで下がっている
オプジーボをはじめとする免疫チェックポイント阻害薬は、その効果だけでなく、薬価の高さでも注目されました。オプジーボは非小細胞肺がんへの適応拡大が承認された当初、「年間3500万円かかり、医療保険財政を脅かす」などとの指摘が相次ぎ、政府が緊急的に薬価を大幅に引き下げた経緯があります。
こうしたこともあり、オプジーボの薬価は発売当初と比べると大幅に下がっています。100mg1瓶の場合、2014年9月の発売時の薬価は72万9849円でしたが、3度の大幅な薬価引き下げを経て、今年11月からは17万3768円と、発売時の約4分の1まで下がりました。非小細胞肺がん(1回240mgを2週間間隔で投与)に1年間使った場合の薬剤費は、約1070万円(1回41万580円×26回)となります。
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