製薬業界で、ヘルスケア分野のスタートアップ企業を支援する動きが広がっています。田辺三菱製薬は今年、初めて行ったビジネスコンテストで、ブロックチェーンを活用した医療情報プラットフォームなど6つの事業案を支援対象に決定。5月には、武田薬品工業やアステラス製薬など大手製薬会社20社が参加する支援プログラムも始まりました。
支援対象は創薬関連など本業に近いものにとどまりません。ヘルスケア領域で幅広く、新たな事業機会を探っています。
遠隔治療に患者家族向けコミュニティサイト…
ブロックチェーンを活用した医療情報プラットフォーム、専門医による遠隔集中治療支援、うつ病患者の家族向けコミュニティサイト…。
田辺三菱製薬は6月12日、ゼロワンブースターと組んで行ったスタートアップ支援プログラム「田辺三菱製薬アクセラレーター」で、100を超える応募の中から6つの事業案を支援対象に決定しました。支援先は、デジタルテクノロジーを使って医療現場が抱える課題の解決を目指す企業が中心。田辺三菱は、資金や助言を提供するなどして事業化を支援します。
田辺三菱は2017年4月、自社の資産とAI(人工知能)などのデジタル技術を組み合わせて新たな価値創造に取り組む「フューチャーデザイン部」を設置。アクセラレーターでは「従来の製薬ビジネスにはなかった技術や事業との組み合わせにより、医療・ヘルスケア分野に新たな価値を想像することに挑戦する」としており、支援先とは事業提携も視野に入れています。
製薬20社が参加 支援プログラムが始動
ビッグデータやAIといったデジタル技術の活用はここ数年、製薬企業にとって大きな事業上のテーマとなっています。その取り組みは、研究開発など製薬ビジネスに直接関連するものだけにとどまらず、医療やヘルスケア全体に広がってきています。
デジタルガレージが5月に開始したバイオ・ヘルスケア領域のスタートアップ支援プログラム「Open Network Lab BioHealth」には、武田薬品工業やアステラス製薬、第一三共、エーザイなどの国内大手製薬企業のほか、MSDや日本ベーリンガーインゲルハイムなど海外大手製薬企業の日本法人など計20社が参加。公募で選ばれた事業案には、最大1000万円の活動資金を提供し、事業拡大を支援します。
バイエル薬品は2016年、海外で先行して行っていたデジタルヘルス助成プログラム「Grants4Apps」を日本でも開始しました。すでに4回の公募を行い、服薬アドヒアランスの改善やメディカル・コーディング(治験結果や安全性報告を分析するための用語統一作業)の自動化などに助成。MSDもアクセラレーションプログラム「MSDヘルステック」を16年に始め、遠隔診断の支援システムなどの事業化を支援しています。
デジタル技術 治療にも進出
2016年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会では、肺がん患者の経過観察にモバイルアプリを使ったところ、アプリを使わずに経過観察を受けた群に比べて全生存期間(OS)を7.2カ月間延長したとする臨床試験結果が公表され、話題を集めました。日本でもキュアアップが、薬事承認を目指して禁煙や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療用アプリを開発中。デジタル技術は、これまで薬が大きな役割を果たしてきた「治療」の領域まで進出し始めています。
これに対して製薬業界は、新薬の開発が難しくなっているという大きな課題に直面しています。開発費用は高騰する一方、財政的な観点から薬価への圧力は高まるばかりです。
「バイオテクノロジーや製薬といった領域は、インターネットの創成期に似た転換点に差し掛かっている。ブレークスルーが求められるエキサイティングな時期だ」。デジタルガレージ共同創業者の伊藤穰一氏はこうコメントしています。
新薬開発だけでなく、医療全体を効率化し、薬ではできない価値提供につながる可能性が期待されるデジタルヘルス。市場としても有望視されており、環境変化に直面する製薬企業にとって、もはや避けて通ることはできない分野となっています。