国内の製薬企業が展開する後発医薬品ビジネスが岐路に立たされています。新薬系としては老舗のエーザイは先日、日医工に後発品子会社を売却し、直接的な製造販売から撤退すると発表。一方、日医工は買収でさらなる規模拡大を狙います。薬価制度の見直しや競争の激化を背景に、再編圧力が高まっています。
エーザイ 後発品事業20年に幕
「ジェネリック事業への参入には当時エーザイ内でも非常に強い反対があった。しかし私はそれを押し切ってこの事業を開始し、20年間、手塩にかけて育ててきた。かわいい子どもを嫁入り、婿入りさせる親の心境だ」
エーザイの内藤晴夫・代表執行役CEOは3月29日、日医工との共同記者会見で、後発医薬品子会社エルメッドエーザイを手放す心境をこう語りました。1997年の事業開始から20年余り。新薬系後発品メーカーのはしりだったエルメッドエーザイの売却で、エーザイは後発品の直接的な製造販売から撤退します。
エーザイと日医工がこの会見の前日に発表した後発品事業をめぐる戦略提携では、エーザイがエルメッドエーザイの全株式を段階的に日医工に売却。4月2日にまず発行済み株式の20%を譲渡し、その後は提携の進捗に応じて10月1日に13.4%、来年4月1日に残りの全株式を売却する予定です。買収総額は170億円。両社は、後発品のプロモーションやAPI(原薬)の供給でも協力します。
「品揃えが事業の必須要件に」
薬価制度の見直しや価格圧力の高まりにより、後発品をめぐる市場環境は厳しさを増しています。各社の業績からも市場拡大の減速は明らか。エルメッドエーザイもここ数年、売上高はほぼ横ばいで、17年3月期は売上高280億円に対して営業利益は19億円まで落ち込んでいました。
新薬メーカーでは昨年、田辺三菱製薬が後発品と一部の長期収載品を扱う子会社・田辺製薬販売をニプロに売却(現社名はニプロESファーマ)。田辺製薬販売も14年度、15年度と営業赤字を計上するなど、業績は低迷していました。
一方、同じ新薬系でも、オーソライズド・ジェネリック(AG)を手がける第一三共やキョーリン製薬ホールディングスなどは好調です。成長市場として新薬メーカーがこぞって参入した後発品ビジネスも、二極化が鮮明になっています。
エーザイの内藤CEOは会見で「われわれは、ジェネリック医薬品事業の将来を悲観してエルメッドエーザイを売却するのではない」と繰り返し強調。「ジェネリック医薬品を単品で考える時代は終わった。やはり、領域ごとにどれくらいの取り揃えがあるかということが、ジェネリック医薬品事業の将来展望や採算化の上で必須の要件だと考えるようになった」と戦略提携の意図を説明しましたが、裏を返せば、限られた品目で単独展開する後発品事業は限界だと言っているように受け取れます。
日医工 国内シェア20%へ弾み
一方、日医工は今回の買収でさらなる規模拡大を狙います。2017年3月期の売上高を単純に合算すると1914億円となり、国内2位の沢井製薬(1324億円)を大きく引き離します。17年9月時点の国内後発品市場でのシェアは、日医工が12.2%、エーザイが3.6%(日医工推定)。合わせると15.8%に達し、20年度に目標とするシェア20%に大きく近づきます。
日医工が取り扱う後発品は1007品目、エルメッドエーザイは188品目。両社が重複して保有する134品目のうち、11品目が両社合わせて後発品内でのシェア50%を上回っており、30%以上50%未満の製品も18品目あるといいます。
日医工の田村友一社長は会見で「品目別に高いシェアを持つことで市場優位性が増す」と強調。エーザイのインド・バイザック工場から安価で高品質なAPIを調達できることも含め、規模拡大による競争力強化に期待を示しました。
日医工が提携のポイントとしてもう1つ上げるのが、新市場の開拓です。「日医工でも地域医療連携推進法人やDPC・中核病院、健康サポート薬局への対応を行ってきたが、力不足を感じていた」(田村社長)。認知症を中心に地域包括ケアシステムに食い込むエーザイとの提携で、そうした新市場へのアプローチも可能になるといいます。
高まる再編圧力
日本の後発品メーカーは従来から「多すぎる」と言われており、日医工がさらに規模を拡大させることで、再編の圧力は高まりそうです。21年度から始まる薬価の毎年改定では、乖離率の大きい後発品が多く対象になるとの観測もあり、業界再編はもはや必然とも言われます。
日医工は世界トップ10入りを目標に掲げており、16年に米セージェント・ファーマシューティカルズを買収。沢井製薬も17年、米アップシャー・スミス・ラボラトリーズを買収しました。国内市場の停滞が予想される中、後発品専業大手がさらなるM&Aに踏み切る可能性は高そうです。