米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、活発な新薬開発で注目を集める非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)。開発の最前線を俯瞰します。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
多くの企業が参入狙う
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)や非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を対象とした新薬開発が盛り上がっている。新たに登場した新薬候補のいくつかは大きな前進を遂げ、いくつかは失敗に終わっている今、多くの企業が公衆衛生上極めて重要なこの市場に新薬を投入しようと模索している。
あるいは、研究の進展や新薬候補の登場といったトピックによって、NASHとその合併症、そしてその治療にかかるコストについて広く知られることの方が重要かもしれない。
将来、数十億ドルに達するとみられるNASH治療薬市場への参入を狙う企業は多い。2017年には各社のパイプラインでいくつかの進展が見られた。
NASHでは現在、米インターセプト・ファーマシューティカルズのobeticholic acidや、仏ジェンフィットのelafibranorが開発後期段階にあり、さらに米ギリアド・サイエンシズのselonsertibとアイルランド・アラガンのcenicrivirocが臨床第3相(P3)試験を開始した。
難航する開発
しかし、obeticholic acidの開発はいくつかの点で難航している。
1つ目は進行中のP3試験のプロトコル変更だ。インターセプトは、主要評価項目を「線維症の改善“および”NASHの消散」から「線維症の改善“または”NASHの消散」に変更すると発表した。
2つ目は、試験の登録完了が、当初期待されていた17年前半から17年半ばに延期されたことだ。
さらに問題を複雑にしたのが、原発性胆汁性胆管炎の適応で承認されているこの薬で治療を受けた患者19人が死亡し、安全性への懸念が浮上したことだ。肝機能障害を持つ患者に過量投与したのが問題だということが確認されたが、米FDA(食品医薬品局)は「Ocaliva」の製品名で販売されているこの薬の添付文書に黒枠警告を追加するよう求めた。
相次ぐ開発中止
難題に直面しているのはインターセプトだけではない。米センプラ(現在は米メリンタ・セラピューティクスと合併)は17年2月、有効性が不明瞭としてsolithromycinの開発を打ち切り、英アストラゼネカもAZD4076(RG-125)のプログラムを中止した。
また、豪イムロンのIMM-124Eやアラガンのcenicrivirocも、臨床試験でプラセボに対する有意差を示せていない(cenicrivirocは抗線維化活性が認められたため、アラガンはP3試験を開始)。ギリアドのGS-0976は肝脂肪量と線維症のマーカーの結果がまちまちで、米ガレクチン・セラピューティクスのGR-MD-02も有意な改善がみられたのはNASH肝硬変患者のうち一部の肝静脈圧勾配だけだ。
さらに、P2試験を行っている仏ジェンフィットのelafibranorは患者登録が遅れている。原因はおそらく、NASHの認知度が低いこと、診断率が低いこと、症状が現れないという疾患特性、肝生検を受けることへの患者の抵抗感だろう。
希望の星は
明るいニュースも多くある。
米マドリガル・ファーマシューティカルズのMGL-3196は、P2試験で投与12週後に肝脂肪がプラセボに対して有意に減少し、肝酵素と脂質のプロファイルも改善した。米ブリストル・マイヤーズスクイブのBMS-986036も、投与16週後に肝脂肪がプラセボに対して有意に改善しただけでなく。線維症と肝障害のバイオマーカーも改善した。
そのほかにも、印ザイダスのsaroglitazar、仏インベンティバのlanifibranor(IVA-337)、キャン-ファイト・バイオファーマ(イスラエル)のCF-102、米ファイザーのPF-05221304などがP2試験を開始した。
非侵襲的診断法の開発も活発化
新たな非侵襲的診断法にも重大なアンメットニーズがある。現在、診断のゴールドスタンダードは肝生検だが、この検査は侵襲的で、多くの医師や患者は抵抗を覚える。治療選択肢がこれほど限られている状況ではなおさらだ。それでも、病勢が進行するほど転帰も悪化するため、治療の最適化と合併症のリスクを減らすには、NASHと線維症の病気を知ることが不可欠だ。
この領域の専門家は、最適な治療ガイダンスを提供し、医師が肝生検のタイミングを判断するのを支援している。米国肝臓病学会の最新のガイドラインは、非侵襲的診断、そして現在利用可能なツールとリソースを活用した最善の方法について、独立したセクションを割いている。
糖尿病や高コレステロール血症のように簡便な検査法を見つけ出そうと、新たな技術も検討されている。ブリストルは線維症のバイオマーカー技術開発のためノルディック・バイオサイエンス(デンマーク)と共同研究すると発表した。また、米プロサイエントとOWLメタボリックス(スペイン)も共同でNASH患者とNAFLD患者の特定法を開発している。
(原文公開日:2018年2月23日)
【AnswersNews編集長の目】C型肝炎治療薬のヒットで盛り上がった肝疾患領域で、新薬開発の主役になりつつあるNASH。アンメットニーズが高い上、患者数も多く、市場性が期待できることから、多くの製薬企業が激しい開発競争を繰り広げています。
日本で最も開発が進んでいるのは、ギリアドのASK1阻害薬selonsertib(GS-4997)で、唯一P3試験に入っています。田辺三菱製薬は選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬MT-3995がP2にあり、ノボノルディスクファーマもGLP-1受容体作動薬セマグルチドもP2試験を実施中。ノバルティスのLJN452もP2試験を行っており、興和は高脂血症治療薬「パルモディア」(ペマフィブラート)をNASHに適応拡大することを目指しています。
一方、大日本住友製薬は、米インターセプトから導入したオベチコール酸の開発を中止し、開発・販売権を同社に返還しました。
市場が大型化する可能性がある領域だけに、今後も開発競争からは目が離せません。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。