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統合失調症 陰性症状に対する注目の後期開発パイプライン|DRG海外レポート

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米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは統合失調症治療薬。アンメットニーズの残る陰性症状に対して、2つの薬剤が後期の臨床開発を進めています。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

中期~後期の臨床試験で有効性を示した2つの薬剤

慢性精神疾患である統合失調症は、「陽性症状」「陰性症状」「認知障害」という、3つの症状を特徴としている。統合失調症には非常に多くの抗精神病薬が承認されているが、これらは主に陽性症状に有効な薬だ。統合失調症患者の多くは陰性症状に対する有効な治療薬を必要としており、市場には大きなアンメットニーズが残されている

 

統合失調症の陰性症状に対しては、Allergan/ Gedeon Richter/RecordatiのVraylar/Reagila(cariprazine)と、Minerva NeurosciencesのMIN-101が、中期から後期の臨床試験で良好な有効性を示している。アンメットニーズへの取り組みが進む可能性はあるが、陰性症状での承認と実臨床での使用には疑問が残る。

 

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ドパミンD2/D3受容体パーシャルアゴニストであるcariprazineは、2016年3月に統合失調症治療薬として米国で発売され(販売名・Vraylar)、ヨーロッパでも同じ適応で2017年7月に承認された(販売名・Reagila)。

 

cariprazineは欧米で特に陰性症状治療薬として承認されているわけではないが、EMA(欧州医薬品庁)の添付文書情報には、陰性症状が優勢な統合失調症患者を対象に欧州で行われた臨床第3相(P3)試験のデータが含まれている。この26週の試験で同剤は、主要評価項目であるPANSS-FSNSにおけるベースラインからの平均変化量が、実薬対照群のリスペリドンよりも有意に大きく(マイナス8.9 vs.マイナス7.4、P=0.002)、副次評価項目にもより大きな改善が見られた。

 

P3で有効性を示したが 申請書類却下となったcariprazine

Allerganは米国でcariprazineを陰性症状の適応で申請したが、2017年9月、申請内容に不備があり、米FDA(食品医薬品局)から申請書類却下(Refusal to File)の書状を受け取った。同社は申請に盛り込んだ臨床試験データの詳細を開示していないが、米国で行ったプラセボ対照と実薬対照の2つの試験の事後解析でプールしたデータが含まれているとみられる。

 

陰性症状が優勢な患者の一部を対象に、これらのデータを投与6週時点で解析したところ、cariprazineはベースラインからのPANSS-FSNSスコアの平均変化値で、アリピプラゾールとプラセボと比べて有意に改善した。

 

Allerganは米FDAとの協議を2017年12月に計画していたが、2018年1月現在、同社はこの協議についてそれ以上の情報は開示していない。追加の臨床試験を行う計画もなさそうだ

 

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精神科医は追加試験の必要性を指摘

注目すべきは、Decision Resources Groupのインタビューに応じた米国の精神科医が、承認を得るには陰性症状を対象としたさらなる臨床試験を行う必要があると考えており、承認を得られるかどうか疑問に思っていることだ。

 

ただ、インタビューに応じた精神科医の一部は、陰性症状に対するcariprazineの有効性を実臨床で判断するために適応外で処方したことがあると話している。このことは、同剤が正式な適応拡大なしで治療アルゴリズムに組み入れられる可能性を示唆している。

 

P2で好結果のMIN-101 欧米でP3試験を開始

Minerva Neurosciencesは2017年12月、5-HT2A/シグマ2受容体アンタゴニストでα-1アドレナリン受容体への親和性が低いMIN-101について、12週のP3試験を米国と欧州で開始した。

 

この臨床試験は、陰性症状が優勢な統合失調症患者と、安定した陽性症状の統合失調症患者を対象に、MIN-101単剤の有効性と安全性をプラセボとの比較で評価するものだ。最も重要な結果は2019年後半になると予想されている。また、長期の有効性と安全性を検討するため、試験期間を非盲検で40週延ばす計画もある。

 

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患者244人を対象に行ったP2b試験では、MIN-101はいずれの用量(32mg、64mg)でも12週時点のPANSS-FSNSがプラセボと比較して有意に低下した。実薬群の陰性症状の軽減は36週にわたる延長期間でも持続し、陽性症状も安定していた。試験中、同剤は良好な忍容性を示し、cariprazineで見られた錐体外経路症状などのドパミン作動性の副作用は報告されなかった。

 

ただし、非盲検のP2b延長試験(6カ月)で、患者6人に不活性代謝物BFB-520によるQTcFの延長が見られたことは注目される。このためMinerva Neurosciencesは、P3試験ではBFB-520の濃度がより低くなる胃耐性剤形を使うだろう。

 

MIN-101のP3試験結果は必見

医師は陰性症状で有効性を示した治療薬を歓迎するだろうが、実臨床で必要となる可能性が最も高いのは、統合失調症の陽性症状に有効な補助的な抗精神病薬である。インタビューに応じた専門家らは、MIN-101を陰性症状に対する単剤療法として使うのには懐疑的だ。

 

cariprazineとMIN-101は今、陰性症状のアンメットニーズを満たす薬剤としては、最も開発が進んでいる。陰性症状が優勢な患者を対象としたP3試験では、症状改善の点でcariprazineとリスペリドンの差は小さかったが、cariprazineは依然、陰性症状を対象とした実薬対照のP3試験で、統計的な有意な症状改善を示した唯一の薬剤だ。

 

統合失調症では過去、シグマアンタゴニストが開発に失敗している。このことを考えると、陰性症状が優勢な統合失調症に対するMIN-101の有効性を検証するP3試験の結果は必見だ。これによってMIN-101のポテンシャルが明らかになり、陰性症状に特異的な治療薬として発売できるかどうかが分かるだろう。

 

(原文公開日:2018年1月12日)

 

【AnswersNews編集長の目】

いまだ高いアンメットニーズがあると言われる統合失調症。既存の抗精神病薬は陽性症状には一定の効果を示すものの、陰性症状や認知機能の低下に対する有効な薬剤が求められています。

 

日本に目を向けてみると、記事中に出てきたcariprazineは、田辺三菱製薬がハンガリーのゲデオン・リヒターから導入して日本と韓国、台湾で開発を進めていましたが、P2/3試験で主要評価項目を満たすことができませんでした。田辺三菱は昨年、ゲデオン・リヒターとのライセンス契約を解除。パイプラインリストからは削除されました。

 

グリシン再取り込み阻害薬という新規作用機序で期待されたロシュ/中外のbitopertinも、顕著な陰性症状が持続している統合失調症患者を対象に行ったP3試験に失敗。開発中止となりました。

 

国内では今年1月、大塚製薬の「レキサルティ」(ブレクスピプラゾール)が承認されました。P3試験には、大日本住友製薬のルラシドンや、MeijiSeikaファルマのジプラシドンが控えており、抗精神病薬の開発自体は活発です。

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。Decision Resources Groupは、統合失調症治療の潜在医療ニーズ調査レポート(Unmet Need – Schizophrenia)と、向こう10年の市場予測レポート(Disease Landscape and Forecast – Schizophrenia)を発行しています。レポートに関するお問い合わせはこちら

 

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AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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