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国内製薬 バイオ薬製造に積極投資―中外「少量多品種」新プラント 第一三共はADC

更新日

国内の製薬企業が、バイオ医薬品の製造設備に積極投資しています。中外製薬は都内の工場に「少量多品種生産」をコンセプトとする新プラントを建設中。第一三共は国内3工場に抗体薬物複合体(ADC)の製造ラインを増設し、協和発酵キリンは国内最大クラスの培養槽を備えた製造施設を建設しました。

 

国内製薬企業の間では、経営効率化を狙った工場の売却や統廃合が相次いでいますが、需要が伸びるバイオ医薬品の生産設備に対する投資は活発化しています。

 

中外の新プラント 2製品を同時製造

中外製薬は12月5日、浮間事業所(東京都北区)に建設中のバイオ医薬品製造プラントをメディアに公開しました。新プラントは6000リットルの培養槽を6つ備え、生産能力はタンパク質にして最大年間1000キログラム。投資額は372億円で、2019年6月の稼働を予定しています。

 

新プラントは、開発後期の治験薬生産から初期の商用生産までを一貫して担います。最大の特徴は、精製ラインが2系列あり、6つの培養槽と自由に組み合わせて2品目を同時に生産できること。例えば、5つの培養槽で商用生産を行いながら、残る1つの培養槽で別の治験薬を製造する、といったことも可能になります。

 

中外製薬が公開したバイオ医薬品製造の新プラント。培養槽が並ぶ

中外製薬が公開したバイオ医薬品製造の新プラント。培養槽が並ぶ

 

中外は、血友病A治療薬エミシズマブや視神経脊髄炎治療薬satralizumab、アトピー性皮膚炎/透析そう痒症治療薬nemolizumabなど、開発後期から承認の段階に自社創製の抗体医薬を複数、抱えています。

 

久保庭均・上席執行役員(製薬管掌)は「新プラントにより、需要に応じてフレキシブルに生産できる体制ができるとともに、複数品目を同時に作れることになることで、後期臨床試験から市場導入までをスピードアップできる」と話します。

 

中外製薬のバイオ医薬品製造設備 工場は宇都宮と浮間にあり、浮間の新プラントの培養槽は、6000リットル×6、年間生産量は100~1000kg。6つの培養槽と2つの生産ラインを組み合わせて複数製品の同時性山河可能に。 宇都宮工場の培養槽:1万リットル×8.年鑑生産量は1000~1200kg

 

第一三共 21年までに生産規模3倍に

第一三共は2021年までにバイオ医薬品の生産規模を3倍にする計画です。約150億円を投じて国内3工場に抗体薬物複合体(ADC)の生産ラインを増設。治験薬の生産を拡大して開発を加速させるとともに、発売後に製品を安定的に供給できる体制を確保します。

 

第一三共は、抗体医薬に低分子抗がん剤を結合させたADCの開発に力を入れており、臨床試験段階に2品目、前臨床試験段階に4品目のADCが控えます。最も開発が進んでいる「DS-8201」は、乳がんと胃がんの適応で臨床第2相試験(乳がんは日米欧、胃がんは日本とアジア)を実施中。21年度の発売を目指しており、それを見据えて製造設備を強化します。

 

協和キリンは国内最大級の培養槽

協和発酵キリンは、71億円を投じて高崎工場(群馬県高崎市)に建設したバイオ医薬品の原薬製造棟が16年8月に完成。19年に商用生産を開始する予定です。国内最大級となる1万2000リットルの培養槽を備えており、生産能力を拡大させて今後の需要増・品目増に対応します。

 

武田薬品工業も16年に米バクスアルタUSからバイオ製剤の製造施設を買収。ブロックバスターとなった潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」を中心に、バイオ医薬品の生産を拡大する方針です。

 

相次ぐ低分子薬工場の譲渡や閉鎖

一方、低分子薬を中心に製造する工場は譲渡や統廃合が相次いでいます。2013年以降、アステラス製薬や第一三共などの大手企業を中心に、工場を売却する動きが活発化。後発医薬品企業や医薬品製造受託会社(CMO)がその受け皿となっています。

 

大日本住友製薬は18年度、茨木工場(大阪府茨木市)の機能を鈴鹿工場(三重県鈴鹿市)に統合するとともに、愛媛工場(愛媛県新居浜市)を閉鎖する予定。これに伴い、生産部門の従業員を対象に早期退職を行います。協和発酵キリンは国内の3工場を閉鎖し、アステラスや第一三共、田辺三菱製薬も生産子会社の工場を譲渡するなどしました。

 

国内製薬企業による工場の譲渡・売却 「アステラス製薬」:16年4月、清須工場を日本マイクロバイオファーマに譲渡。14年4月、アステラスファーマテック富士工場を日医工へ譲渡。 「第一三共」:17年9月、第一三共ケミカルファーマ平塚工場を閉鎖。15年4月、第一三共プロファーマ秋田工場をアルフレッサファーマへ譲渡。 「エーザイ」:16年4月、サンノーバをアルフレッサHDに譲渡。14年3月、美里工場を武州製薬へ譲渡。 「田辺三菱製薬」:15年4月、鹿島工場を沢井製薬へ譲渡。 14年4月、足利工場をシミックHDに譲渡。 「大日本住友製薬」:18年度茨木工場と愛媛工場を閉鎖。 「協和発酵キリン」:17年、富士工場を閉鎖予定。 15年10月、堺工場を閉鎖。 13年11月、四日市工場wp閉鎖。 「杏林製薬」:16年9月、岡谷工場を閉鎖。

 

バイオ薬 製造コスト低減が課題に

バイオ医薬品の製造設備に各社が積極投資する中、課題となるのが製造コストです。

 

中外によると、抗体の産生量はこの10年ほどで、培養液1リットルあたり約0.4グラムから3~4グラムと約10倍に増加。細胞株の能力向上や培養条件の見直しなどにより、生産効率は上がっています。加えて、同社は繰り返し何度も抗原に結合できる「リサイクリング抗体」などの抗体改変技術を開発しており、より少ない量で効果を発揮することも可能になりました。

 

こうしたことから、バイオ医薬品の生産設備は今後、小さくなっていくと中外はみています。久保庭氏は「新しい抗体医薬は、小さなスケールでも十分世界に供給できる量が作れるようになってきている」と指摘。将来に向けて、培養槽を小さくして設備投資を抑えながら、連続して抗体を生産する技術も研究しているといいます。

 

薬価に対する風当たりが世界各国で強まっている昨今。生産能力はもちろん、いかに低コストで製造できるかが、世界市場での競争力を左右することになりそうです。

 

【AnswersNews編集部が製薬会社を分析!】

武田薬品工業アステラス製薬

 

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AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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