かつて薬効領域別で国内最大の規模を誇ったARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)市場が、曲がり角に差し掛かっています。今年6月には「ミカルディス」に後発医薬品が発売され、年内には「オルメテック」と「アバプロ/イルベタン」にも登場予定。これで、2012年発売の「アジルバ」を除く従来品のARBすべてに、後発品が参入することになります。
クインタイルズIMSの調べによると、ARBを含むレニン-アンジオテンシン系作用薬市場は3年連続で前年割れ。オーソライズド・ジェネリックの投入も相次いでおり、かつての巨大市場は、後発品主体の市場へと姿を変えています。
市場は3年連続縮小 今年は3成分に後発品
クインタイルズIMSの医薬品市場統計によると、ARBなどのレニン-アンジオテンシン系作用薬市場は3年連続で減少。2011年は薬価ベースで6500億円余りに上った市場規模は、この5年で約1500億円も縮小しました。
かつては、ノバルティスファーマの「ディオバン」や武田薬品工業の「ブロプレス」(現在は武田テバ薬品に移管)が年間1000億円以上を売り上げていましたが、度重なる薬価の引き下げと後発医薬品の普及で縮小が加速。16年は前年比10.8%と、ここ数年で最大の減り幅となりました。
マイナス成長が続くARB市場は今年、3成分に相次いで後発品が参入し、さらなる転換点を迎えます。
今年6月には、配合剤を含め売上高トップの「ミカルディス」(アステラス製薬)に、第一三共エスファのオーソライズド・ジェネリック(AG)を含む後発品34社94品目(配合剤含め延べ)が参入。9月には「オルメテック」(第一三共)にAGが先行発売される予定で、「アバプロ/イルベタン」(大日本住友製薬/塩野義製薬)も12月に後発品の参入を控えます。同じ12月には、オルメテックにもAGを追って一般の後発品が一斉に発売される見通しです。
17年 市場は5000億円割れへ
先発品の17年度の売上高予想を見てみると、ミカルディスが前年度比44.1%減、オルメテックが27.5%減と大幅なマイナスを予想しています。クインタイルズIMSの医薬品市場統計によると、2017年上半期(1~6月)のレニン-アンジオテンシン系作用薬市場は、前年同期比6.0%減となりました。
新製品のアジルバは、ブロプレスからの切り替えや新規患者の獲得で伸びるものの、そのペースも緩やかになってきました。市場全体としては減少が加速しており、今年は5000億円を大きく割り込むことになりそうです。
相次ぐAGの投入 後発品切り替えに拍車
市場の変貌に拍車をかけているのがAGです。各社の主力製品がひしめくだけに、ARBは現在、AGの投入が最も活発な領域で、後発品への切り替えをスピードアップさせる大きな要因となっています。
日本で販売中のARB6成分7品目のうち、AGが販売されている、あるいは販売が予定されているのは5成分5品目。ノバルティスのディオバンにはグループ企業のサンドが、武田のブロプレスには資本関係にあるあすか製薬が、それぞれAGを投入しています。
今年6月に後発品が参入したミカルディスのAGは、AGを事業の柱とする第一三共の後発品子会社・第一三共エスファが発売。先発品メーカーの子会社や関係会社でない企業がAGを手がける初のケースとなりました。
オルメテックAGは先行発売
オルメテックのAGも6月に薬価収載されており、第一三共エスファは9月に一般の後発品に先駆けて発売する予定です。配合剤「レザルタス」のAGも今年2月に承認を取得していますが、こちらは6月の薬価収載を見送りました。
AGのプロモーション子会社・DSファーマプロモを昨年11月に立ち上げた大日本住友製薬は8月、子会社DSファーマバイオメディカルを通じて「アバプロ」のAGの承認を取得しました。AG含め11社36品目が同時に承認を取得しており、今年12月に一斉に発売となる見通し。AGはDSファーマバイオが販売し、大日本住友とDSファーマプロモが連携して情報提供を行うといいます。
あすか製薬が販売する「ブロプレス」のAGは爆発的に売り上げを伸ばし、16年度は配合剤「カムシア」「カデチア」と合わせて127.5億円に達しました。大型品だけにAGが出れば後発品への切り替えは相当なスピードで進みます。ミカルディスやオルメテック、アバプロにAGが登場することで、ARB市場は“後発品シフト”にさらに拍車がかかりそうです。