アステラス製薬が、2005年4月の合併以来初めて、2年連続で減収に沈む見通しとなりました。
主力品の特許切れからいち早く回復し、利益では国内最大手の武田薬品工業を抜いて国内トップとなったアステラス。“製薬業界の優等生”と評されてきた同社に何が起こっているのでしょうか。
「XTANDI」勢いに陰り
アステラス製薬は4月27日、2017年度の連結売上高は1兆2790億円と、前年に比べて2.5%減少する見通しだと発表しました。
同日発表した16年度の連結売上高は前期比4.4%減の1兆3117億円。2年連続で減収となるのは、旧山之内製薬と旧藤沢薬品工業が合併してアステラス製薬が誕生した05年度以降、初めてのことです。16年度の過去最高益更新から一転、17年度には4年ぶりの最終減益に沈む見通しで、アステラスの株価は27日から3日連続で下落しました。
2年連続の減収となる最大の要因は、主力の前立腺がん治療薬「XTANDI」(日本製品名「イクスタンジ」)の成長鈍化です。12年に米国で発売して以来、毎年数十~百数十パーセントの伸びを続けてきましたが、16年度はゼロ成長。17年度も10.2%増にとどまる見通しで、かつての勢いには陰りが見えてきました。
最大市場の米国 数量増も売り上げ減
「XTANDI/イクスタンジ」は、連結売上高の約2割を稼ぐアステラスの最主力品。売り上げが伸び悩む理由は、最大市場の米国にあります。米国での16年度の売上高は前年度比11.3%減。17年度も1.3%の伸びにとどまります。
アステラスはその理由を「実需は上昇しているものの、(低所得者に薬剤を無償提供する)患者支援プログラムの利用増加を受け、新規ホルモン療法市場の売り上げ規模が縮小している」(畑中好彦社長)と説明します。「XTANDI」に対しては昨年、米国議会の一部議員が薬価を引き下げるよう求めていました。
米国での「XTANDI」の動向を16年度の第3四半期(16年10~12月)と第4四半期(17年1~3月)で比較すると、数量(通常販売+患者支援プログラム)は5%増えた一方、売上高(通常販売)は7%減少。患者支援プログラムが拡大し、通常販売を食っている構図です。アステラスはこの傾向が17年度も続くと予想。米国での売り上げは横ばいを予測しています。
16年度の伸び悩みには、日本の薬価改定も影響しました。16年4月の薬価改定では市場拡大再算定の適用を受け、薬価が25%引き下げられました。
「米国外に期待」も…迫る次の課題
「米国での成長がスローダウンしている一方で、欧州・中東・アフリカを中心に米国外では着実に成長し、『XTANDI/イクスタンジ』全体としての拡大は続いている」。畑中社長は4月27日に開いた決算説明会でこう強調。「(単独販売で)利益率の高い米国外の高い成長が利益に貢献してくる」と、米国以外での成長に期待を示しました。
2017年度の減収には、デンマーク・レオファーマへの皮膚科領域事業の売却(17年度業績への影響マイナス225億円)や、LTLファーマへの長期収載品16製品の売却(15年度売上高290億円)も影響しています。これらの売却益は「競争優位の源泉となる事業や製品に再配分していく」(畑中社長)考えで、4月3日にはベルギーの創薬ベンチャー・オゲダの買収を発表。合併時に一般用医薬品事業を売却するなど、早くから取り組んできた「選択と集中」の動きは緩みません。
ROEは高水準
経営指標として重視しているROE(自己資本利益率=自己資本を元にどれだけ利益を上げたかを表す指標)は着実に上昇しており、16年度は17.3%。15~17年度の中期経営計画で掲げた「15%以上」を上回りました。
一般的にROEが10%を超えると、自己資本を元に効率よく利益を上げる優良企業と言われます。経営効率の高さは、アステラスが“業界の優等生”と評されるゆえんです。
18~19年に相次ぐ特許切れ
「2010年問題」からいち早く這い上がり、効率経営により利益で武田薬品を超えたアステラスですが、早くも次の課題が迫ります。2018~19年にやってくる主力製品の特許切れです。
「XTANDI/イクスタンジ」とともに業績を支えるOAB(過活動膀胱)の製品群では、ブロックバスターとなった「ベシケア」の特許切れが目前。今年6月に後発医薬品が登場するARB「ミカルディス」をはじめ、骨粗鬆症治療薬「ボノテオ」や疼痛治療薬「セレコックス」、喘息・COPD治療薬「シムビコート」などが相次いで特許切れする国内事業も底が見えません。
アステラスはこれからも業界の優等生であり続けるのでしょうか。主力品の成長が鈍化し、次なるパテントクリフが迫る中、次の一手に注目が集まります。