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「オプジーボ」の薬価引き下げでも議論に…医薬品の内外価格差是正を考える

更新日

医薬品の内外価格差が、にわかに注目を集めています。

 

「高すぎる」との批判から50%の薬価引き下げが決まった免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」では、日本の薬価が米国の2.5倍、英国の5倍に上ることが明らかとなり、引き下げ論に拍車をかけました。乾癬治療薬「トルツ」をめぐる混乱では、為替レートに薬価が大きく左右される外国平均価格調整ルールの不確実性も露呈しました。

 

医薬品の内外価格差をめぐる問題は、2018年度の次回薬価改定に向けた制度見直しの焦点の1つとなる見通しです。

 

 

「オプジーボ」日本の薬価は米国の2倍・英国の5倍

「異常に高いんですよ、日本は。何でこんなに高くなったのか」

 

10月6日の参院予算委員会。共産党の小池晃議員は、小野薬品工業の免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の内外価格差を取り上げ、こう語気を強めました。

 

全国保険医団体連合会(保団連)の調査によると、「オプジーボ」100mg1瓶あたりの薬価は、日本では約73万円なのに対し、米国は約30万円、英国は約15万円。米国とは2倍、英国とは5倍の開きがあったといいます。保団連は調査結果をもとに、緊急に薬価を引き下げるよう求める要望書を厚生労働省に提出しました。

 

日米英の「オプジーボ」の価格

 

こうして明るみになった「オプジーボ」の内外価格差はその後、多くのメディアに取り上げられ、「高すぎる」との批判に拍車をかけました。「オプジーボ」の薬価は結局、11月16日の中央社会保険医療協議会(中医協)で50%の引き下げが決定。内外価格差の存在は、大幅引き下げの背中を押す要因の1つとなりました。

 

日本の薬価制度にも、内外価格差を是正するための仕組みはあります。「外国平均価格調整」です。

 

外国平均価格調整は、米国・英国・ドイツ・フランスの4カ国平均価格に比べて一定以上、高くなったり、低くなったりした場合、国内の薬価を上げ下げして調整するルールです。具体的には、当初算定された薬価が4カ国の平均価格の1.25倍を上回る場合は「引き下げ」、0.75倍を下回る場合は「引き上げ」の調整を行います。

 

ただ、「オプジーボ」の場合、世界に先駆けて日本で承認されたため、海外の価格を参考にすることができませんでした。発売後に海外の価格を参考にして薬価を上げ下げする仕組みは、今の日本の薬価制度にはありません。

 

為替レートで揺れた「トルツ」の薬価

内外価格差を是正する目的で設けられている外国平均価格調整のルールですが、これが思わぬ混乱を招くこともあります。11月18日に薬価収載された日本イーライリリーの乾癬治療薬「トルツ」をめぐる一件です。

 

「トルツ」は本来、今年8月末に薬価収載されるはずでしたが、外国平均価格調整によって薬価が引き上げられた結果、1日あたりの薬価が類薬の1.7倍と高額に。薬価収載を審議した中医協で疑問の声が相次ぎ、厚労省が「使用は薬価の低い類薬を使っても効果が不十分な場合に限る」との条件をつけました。

 

使用制限がつけられたことを受け、メーカー側は薬価収載の希望を一旦取り下げ。中医協で薬価収載が了承されたにも関わらず、メーカー側の希望で薬価収載が見送られる異例の事態に発展しました。

 

その後メーカー側は再び薬価収載を申請し、11月18日に薬価収載されました。この間わずか2カ月半ほどしか経っていませんが、80mg1mL(4週1回投与)の薬価は8月時点の24万5873円(80mg、4週1回投与)から14万6244円と10万円もダウン。類薬とほぼ同じ薬価となりました。

 

為替レートが薬価を大きく左右

短い期間で算定薬価が大幅に下がったのは、為替レートの変動によって参考とする外国価格が大きく変わったからです。

 

外国平均価格調整で揺れた「トルツ」の薬価

 

最初に薬価収載が了承された今年8月時点では、15年7月~16年6月の平均為替レートで換算し、米国と英国の平均39万4251円を参考に、外国平均価格調整による「引き上げ」を実施。24万5873円(1日あたり8781円)という薬価がつきました。

 

一方、2度目の薬価収載が審議された11月時点で参考にされた外国価格は、15年11月~16年10月の平均レートで換算。EU離脱決定によるポンド安で、英国の価格は18万4500円に下がりました。

 

外国平均価格調整には、高すぎる国の価格(最も低い国の価格の3倍を上回る)は参考にしないというルールがあるため、11月時点では英国の価格18万4500円が平均価格を平均価格として参照。この結果、外国平均価格調整は適用されず、薬価は14万6244円(1日あたり5223円)と類薬(同5224円)と同等に。使用制限も外されました。

 

外国平均価格調整 ルール見直しへ 論点は?

「トルツ」の薬価をめぐる問題は、為替レートによって薬価が大きく左右されるという、外国平均価格調整の不確実性を露呈させました。2度目の薬価収載を審議した11月9日の中医協では「15万円で利益の出る薬を24万円で売ろうとしていたのか」といった批判が出たそうですが、8月時点で算定された高額な薬価はあくまでルールに沿って算定されたもの。そして、そのルールを決めているのは中医協です。製薬企業を批判するのは、お門違いでしょう。

 

厚労省は「トルツ」の薬価をめぐる問題を受け、外国平均価格調整の見直しを検討する方針です。これまでの中医協の議論では、

 

▽自由薬価で高額になりがちな米国の価格を平均価格の算定から除外する
▽米国の価格を、保険会社の保険給付薬リストに掲載された価格ではなく、さらに安い市場実勢価格とする
▽為替レートの影響を受けないようにする

といった方向で見直すべき、との意見が出ています。

 

「似た薬は同じ薬価」なのに海外の価格を参照する意味は?

そもそも、効能・効果や薬理作用の似た医薬品は同等の薬価とする「類似薬効比較方式」を原則する日本の薬価制度で、海外の価格を参照して薬価を上げ下げする意味はどこにあるのでしょうか。

 

「トルツ」も当初は、すでに販売されているノバルティスファーマの「コセンティクス」を類似薬として、1日当たりでほぼ同じ薬価がつけられましたが、外国平均価格調整によって1.7倍に跳ね上がり、類似薬を大きく上回る薬価になりました。「似た薬は同じ薬価に」という日本の薬価制度とは、整合性がとれていないようにも思えます。

 

国際情勢によって為替が大きく動く昨今、それによって大幅に上下する海外の価格が、薬価算定の指標の1つとして適切なのかというのも大きな課題です。製薬業界にとっては経営の予見性の低下につながりますし、薬価算定の根拠に対する信頼性を揺るがすことにもなりかねません。中医協では実際、「為替レートに左右されないようにして欲しい」といった意見も出ていますが、これはこれでかなりの難題です。

 

「先駆け加算」雲行き怪しく…

一方、「オプジーボ」の内外価格差に対する批判を見ていると、今年4月の16年度薬価制度改革で導入された「先駆け審査指定制度加算」の雲行きが、かなり怪しく感じられてきます。

 

厚生労働省は15年、世界に先駆けて日本で承認取得を目指す革新的新薬を対象に、治験相談を優先的に行ったり、承認審査の期間を短縮したりといった優遇措置を講じる「先駆け審査指定制度」を試行的に創設。現在、6品目が指定を受けています。これらの品目に、薬価を10~20%上乗せして評価するのが、先駆け審査指定制度加算です。

 

先駆け審査指定制度の対象品目

 

「オプジーボ」の内外価格差は、世界で初めて日本で発売されたことから、海外の価格を参考にできなかったことが要因として挙げられます。

 

「オプジーボ」は、日本人の研究成果を日本の製薬企業が世界に先駆けて日本で実用化しました。日本の製薬産業が目指す方向を体現したもので、本来なら評価されるべきことです。しかし、今回はそれがあだとなった形で、薬価の面で批判を招く結果となってしまいました。薬価は50%引き下げられることになりましたが、それでも米国の価格を上回っており、「まだ高い」といった指摘も上がっています。

 

先駆け審査指定制度加算でも、同じようなことにはならないでしょうか。今回、「オプジーボ」の内外価格差にフォーカスが当たったことで、発売時に参考となる海外の価格が存在しなかった場合、事後的に外国平均価格調整を適用して薬価を引き下げるルールが検討される可能性も出てきました。そうなれば、先駆け審査指定加算による薬価の上乗せは帳消しとされ、加算は有名無実化することにもなりかねません。

 

外国平均価格調整を中心とする医薬品の内外価格差をめぐる問題は、18年度の次回薬価改定に向けた制度見直しの焦点の1つとなる見通しです。

 

先にも書いたように、類似薬効比較方式を原則とする日本の薬価制度で、海外の価格を参考に薬価を上げ下げする意味はどこにあるのか。根本的な問題も含め、納得性の高いルールへの見直しを期待したいところです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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