医療用医薬品の国内売上高トップをめぐる争いが混戦模様になってきました。
2017年3月期の中間決算では、業界盟主の武田薬品工業が長期収載品の販売移管で7%を超える減収となった一方、新製品群が伸びる2位の第一三共は5%近い増収に。5年前は年間で1800億円余りあった両社の差は、今期の中間時点で130億円ほどまで詰まりました。
第一三共は今期の国内医療用医薬品の売上高予想を5000億円に上方修正。「武田超え」が射程圏内に入ってきました。
主力製品好調 第一三共「日本No.1」に現実味
「薬価改定の影響はあったが、抗凝固薬『リクシアナ』が大きく売り上げを伸ばし、その他の主力製品群も好調に推移した」。第一三共が今月1日に開いた2017年3月期中間決算説明会の席上、同社の中山譲治社長は国内事業の好調ぶりを強調しました。
第一三共の17年3月期第2四半期の国内医療用医薬品の売上高は2390億円。薬価改定のマイナス影響をはねのけ、前年同期比4.9%の増収となりました。最主力品のPPI「ネキシウム」(前年同期比8.7%増)をはじめ、認知症治療薬「メマリー」(14.3%増)やDPP-4阻害約「テネリア」(121.2%増)、「リクシアナ」(114.4%増)など、主力製品が軒並み大きく伸びました。
第一三共は、国内医療用医薬品の売上高で武田薬品工業に次ぐ内資企業2位。今年4月からスタートした中期経営計画では「日本No.1カンパニーとして成長」を事業戦略の1つに掲げています。
「一番大事なことは(医療従事者にとって)最も信頼できるパートナーになること。そうなった結果、今の製品構成であれば売り上げトップをとれるだろう」。3月の中計説明会で中山社長は「日本No.1」の意味をこう説明しました。「売り上げトップはあくまで結果だ」と言いますが、視線の先には業界の盟主・武田の存在があるのは間違いありません。
その武田は、長期収載品30成分をイスラエル・テバとの合弁会社に移管したことが響き、17年3月期第2四半期の国内医療用医薬品売上高は7.4%減の2517億円に沈みました。両社の差はわずか127億円。武田の背中をはっきりと捉えました。
減収続く武田 今期首位交代の可能性も
国内医療用医薬品市場では、武田が長らく売上高トップの差を守り続けてきました。その牙城を、第一三共が崩そうとしています。
武田の国内医療用医薬品の売上高は、11年度の5922億円をピークに減収が続いており、15年度には5417億円まで落ちました。ARB「ブロプレス」やPPI「タケプロン」、糖尿病治療薬「アクトス」など黄金期を支えた大型製品は特許切れを迎え、後発医薬品に市場を奪われています。ARB「アジルバ」や消化性潰瘍治療薬「タケキャブ」など新製品も伸びてはいますが、特許切れの影響を吸収し切れてはいません。
一方の第一三共は、11年度の4098億円を底に成長軌道を回復。「ネキシウム」や「メマリー」「リクシアナ」「テネリア」など11年度以降に投入した製品が軒並み好調で、15年度にはアステラス製薬を逆転。11年度に1824億円あった武田との差はみるみる縮まり、15年度には470億円差まで迫りました。
第一三共は第2四半期までの主力製品群の好調を受けて、17年3月期通期の国内医療用医薬品の売上高を、従来から40億円増となる5000億円に引き上げました。武田は通期予想を開示していませんが、長期収載品の販売移管により減収となるのは確実です。仮に下期も上期と同じ減収幅となるとすれば、着地の見通しは5016億円。第一三共が今期、トップに躍り出る可能性も十分あります。
上位は拮抗、混戦に突入
ただ、第一三共が「ネキシウム」に次いで国内で主力とするARB「オルメテック」(15年度売上高739億円)は来年、日本で特許切れを迎えます。同社は「リクシアナ」をはじめとする主力製品群の拡大で成長を維持したい考えですが、一時的な勢いの衰えは避けられないでしょう。
対する武田は来年度、海外で好調な多発性骨髄腫治療薬「ニンラーロ」を発売予定。同じく海外で急成長する潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンディビオ」の申請も近づいています。近い将来、成長軌道を回復することになりそうです。
16年度を逃せば、第一三共が国内トップに立つチャンスはしばらくやってこないかもしれない――。業界関係者からはこんな見方も聞かれますが、中山社長は3月の中計説明会で「オルメテックの特許切れを組み込んだ上で売上ナンバーワンを獲得してそれを継続していくということを目標に活動している」と強気の姿勢を示しました。
武田と同様、国内医療用医薬品の減収が続くアステラスは、大型化が見込まれる骨粗鬆症治療薬ロモソズマブを今年度中に申請予定。外資系企業では、ファイザーが5000億円規模を売り上げており、国内医療用医薬品市場は上位4社が拮抗する混戦に突入します。
国内トップの座をめぐる争いは今後、より一層激しさを増しそうです。