製薬企業の間で、長期収載品を売却する動きが相次いでいます。
4月には、武田薬品工業が長期収載品30成分をイスラエル・テバとの合弁事業に移管。塩野義製薬は共和薬品工業に21製品、ノバルティスファーマはサンファーマに14製品を承継すると発表しました。
後発医薬品の使用促進や度重なる薬価の引き下げによって、市場が急速に縮小する長期収載品。新薬開発への集中が求められる中、長期収載品のビジネスに見切りをつける時が訪れています。
武田とテバが合弁 市場環境の変化を象徴
象徴的なのはやはり、武田薬品工業とテバ・ファーマシューティカル・インダストリー(イスラエル)との合弁事業でしょう。
両社は4月、合弁会社としてテバ製薬(10月以降に武田テバ製薬に名称変更予定)を発足させ、子会社の武田テバ薬品(旧大正薬品工業)に武田薬品の長期収載品30成分を移管しました。
合弁会社のCEO兼社長には、かつてファイザー日本法人でエスタブリッシュ医薬品事業を率いた松森浩士氏を招聘。国内最大手の新薬メーカーと後発医薬品世界最大手が組んで「オフ・パテント・ドラッグ(特許の切れた医薬品)」を展開するという、新しいビジネスがスタートしました。
武田薬品が合弁事業に移管したのは、ARB「ブロプレス」やPPI「タケプロン」、2型糖尿病治療薬「ベイスン」など。移管した製品群の年間売上高(2015年度)は817億円に上ります。16年度決算は500億円程度のマイナス影響を受ける見通しですが、短期的な減収を受け入れてでも、「革新的な新薬の提供を通じて成長を遂げる」(岩崎真人・ジャパンファーマビジネスユニットプレジデント)道を選びました。
塩野義やノバルティスも
長期収載品の収益に頼ったビジネスは立ち行かなくなる――。研究開発型の製薬企業に共通する認識でしょう。市場環境が厳しさを増す中、長期収載品をあてにした経営から脱却し、新薬に経営資源を集中させることは、新薬メーカーにとってここ数年、大きなテーマとなっています。
塩野義製薬は今年7月、がん領域の長期収載品3製品を日医工に移管したのに続き、8月にはインド・ルピン傘下の共和薬品工業に12月1日付で21製品を移管すると発表。9月にはノバルティスファーマがサンファーマに長期収載品14製品を承継すると発表しました。
厳しさ増す長期収載品 市場縮小に加速
これまで新薬メーカーの収益を支えてきた長期収載品をめぐる市場環境は厳しさを増しています。
下のグラフは、医薬品卸大手メディパルホールディングスの決算説明会資料をもとに、医療用医薬品のカテゴリー別の売上高構成比の変化を追ったものです。12年度には医療用医薬品の売上高の34.9%を占めていた長期収載品ですが、直近の今年6月には22.4%まで低下。この3年余りで構成比は10ポイント以上減り、薬価改定による波はあるものの、減少にも加速がかかっています。
医療費抑制のために政府が推進する後発品は、診療報酬や調剤報酬上のインセンティブをはじめとする強力な促進策を背景に使用が拡大。15年9月時点の数量ベースシェアは56.2%に達し(13年9月から9.3ポイント増)、薬局で調剤された分に限れば、16年3月時点で63.1%とすでに6割を超えました。
昨年6月には、政府が後発品の使用目標を「17年半ばまでに70%、18~20年度の早い時期に80%」に引き上げ。今後2~3年で、長期収載品の数量は半減することになります。
薬価の締め付けも厳しく、14年度の薬価制度改革では、後発品への切り替えが進まない長期収載品の薬価を追加的に引き下げる、いわゆる「Z2」が導入。後発品への切り替え率が一定の基準に達するまで薬価を下げ続けるこのルールにより、新薬メーカーは長期収載品に依存した経営からの脱却を迫られることになりました。
模索続ける新薬メーカー
とはいえ、新薬メーカーにとっては今も、長期収載品が売り上げを構成する大きな要素の1つであることは間違いありません。手放してしまえば、一時的に収益は落ちます。「成長が見込まれる新薬や有望なパイプラインを抱えていればまだしも、それがなければ長期収載品を切り離しても売り上げを落として終わり」(業界関係者)。新薬開発の難易度は上がっており「おいそれと手放す決断はできない」との声も漏れます。
戦略上の位置付けも無視できません。エーザイは今年4月にスタートさせた10カ年の中期経営計画で、「統合プロダクツパッケージ」を戦略の柱の1つに掲げました。在宅医療や地域医療連携推進法人といった地域医療の新たな担い手に対し、グループが持つ新薬と長期収載品、後発品を疾患ごとに組み合わせ、パッケージが生み出す治療成績や経済性を訴求。重点領域を絞り込む企業が増える中、特定領域で幅広いラインナップを揃えていることも競争上、重要な要素と言えます。
急速にしぼんでいく長期収載品をめぐり、新薬メーカーの模索は続くことになりそうですが、市場は急激な転換期の真っ只中。長期収載品をどう扱うのか、決断までに残された時間は決して長くはありません。