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高額薬剤 また波紋…乾癬新薬“処方制限”で発売先送り 薬価跳ね上げた「外国平均価格調整」

更新日

高額な薬価をめぐる新たな問題が、製薬業界に波紋を広げています。

 

問題となっているのは、日本イーライリリーが開発した乾癬の新薬「トルツ」。同じ効能・効果を持つ類薬の2倍近い薬価がついたことから、厚生労働省が同剤の使用を「類薬で効果不十分な場合に限る」方針を示し、企業側が発売を先送りする事態に発展しました。

 

「トルツ」の薬価が高くなったのは、「外国平均価格調整」という薬価算定上のルールが適用されたためでした。一体、何があったのでしょうか。

 

 

「トルツ」の薬価、類薬の1.7倍に

日本イーライリリーが開発した乾癬治療薬の生物学的製剤「トルツ」(イキセキズマブ)は、今年7月に「既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症」の適応で承認。本来なら、8月31日に薬価収載され、その後発売される予定でした。

 

ところが、「トルツ」の薬価収載を審議した8月24日の中央社会保険医療協議会(中医協)では、委員らが類薬に比べて薬価が突出して高いことを問題視。「より薬価の低い類薬を優先して使用する」という条件が付き、厚生労働省は医療機関に通達を出して処方を制限する方針を示しました。

 

この日の中医協で条件付きながら了承された「トルツ」の薬価は、80mg1mLで24万5873円。1日あたりに換算すると8781円です。

 

同じIL-17Aを標的とするノバルティスファーマの「コセンティクス」(セクキヌマブ)や、IL-17受容体Aをターゲットとする協和発酵キリンの「ルミセフ」(ブロダルマブ)と比べると、1日あたりの薬価は1.7倍。これが議論の的となりました。

 

乾癬を主な適応とする生物学的製剤の薬価

 

処方制限が課されることとなったことを受け、日本イーライリリーは「トルツ」の発売を先送りし、薬価収載の申請自体も取り下げました。経済的観点から使用に条件を課すのも異例なら、中医協での薬価収載了承後に申請が取り下げられるのも極めて異例です。

 

業界各紙は「処方制限なく必要な患者に『トルツ』を届けたい。薬価の再申請に向けて当局と協議を進めている」との日本イーライリリーのコメントを伝えていますが、再申請の時期は明らかになっていません。

 

突出した薬価、なぜ

トルツが類薬と比べて突出して高い薬価となったのは、「外国平均価格調整」という薬価算定上のルールが適用されたためでした。

 

外国平均価格調整とは、日本の薬価が海外と比べて一定以上、高くなったり、低くなったりした場合に、国内の薬価を上げ下げして調整するルール。具体的には、調整前の当初薬価が、米国、英国、ドイツ、フランスの4カ国の平均価格の1.25倍を上回る場合は「引き下げ」、0.75倍を下回る場合は「引き上げ」の調整を行います。

 

外国平均価格調整の計算式

 

「トルツ」の場合、まずは効能・効果や作用機序がほぼ同じ「コセンティクス」に合わせる形で薬価を算出。当初は80mg1mLで14万6244円(1日あたり5223円)と「コセンティクス」と同じ水準の薬価が付けられました。

 

一方、海外での販売価格は、米国が58万6001円、英国が20万2500円で、平均すると39万4251円。当初の薬価はこれの半分以下ですので、外国平均価格調整が適用されました。その結果、最終的な薬価は24万5873円(1日あたり8781円)となり、当初の薬価の1.7倍に跳ね上がったのです。

 

「トルツ」の外国平均価格調整

 

一方、「トルツ」とともに8月24日の中医協で薬価が審議された「ルミセフ」も「コセンティクス」を基準に薬価が算定されましたが、こちらは日本で最初に承認されたため、外国平均価格調整は行われず。「コセンティクス」という同じ薬剤に合わせて薬価を算定したにも関わらず、大きな価格差が生まれることになってしまいました。

 

18年度に見直しへ

外国平均価格調整のあり方をめぐっては、これまでも何度も問題点が指摘され、ルールの見直しを繰り返してきました。

 

最大の課題として指摘されているのは、高い外国の薬価に引っ張られ、日本の薬価も高くなってしまうことです。特に、自由薬価の米国の高い薬価に引きずられて平均価格自体が高くなってしまう場合も少なくありません。今回の「トルツ」の事例も、まさにこれに当たるでしょう。

 

2倍に押し上げも

日本医師会のシンクタンク・日本医師会総合政策研究機構が8月25日に発表したワーキングペーパーによると、過去5年間(2016年度は4~6月分のみ)に薬価収載された247成分のうち、外国平均価格調整で薬価が引き上げられたのは31成分(12.6%)。4カ国の最高価格と最低価格の間に3倍以上の開きがある場合は、最高価格を除外して平均価格を算出するなど、価格のばらつきを補正する仕組みもありますが、それでも薬価が2倍に押し上げられるケースも散見されます。

 

16年度に外国平均価格調整が適用された医薬品

 

「トルツ」の薬価をめぐっては、薬価算定を行った中医協・薬価算定組織の委員長も疑問を呈し、ルールの見直しを要望。18年度の次期薬価制度改革に向けて見直しの議論が行われる方向です。

 

今回は、外国価格調整によって効能・効果や作用機序がほぼ同じ医薬品の間で大きな価格差が生まれたことが問題視されており、次期薬価制度改革ではこの点が論点となるでしょう。日本の薬価算定ルールの基本である「類似薬効比較方式」のあり方にも関わってくる可能性もあり、議論の行方が注目されます。

 

高薬価はもうメリットにならない?

中医協・薬価算定組織の説明によると、類薬との価格差が大きくなることから、薬価算定組織は当初、「トルツ」に外国平均価格による引き上げ調整を適用しない薬価を企業側に提案。これに対して企業側は「外国平均価格調整の対象とすべき」との不服意見を出したことから、引き上げ調整を適用することになったと言います。

 

現行のルールに従えば「トルツ」は外国平均価格調整の対象となるため、企業側の対応は当然とも言えます。しかし今回、「トルツ」の薬価が類薬に比べて高額になったことで使用に制限がかけられる事態となったことは、医薬品に対する経済性重視の姿勢を改めて鮮明にしました。

 

中医協では今年4月にも、高脂血症治療薬「レパーサ」に対し、保険医療財政への影響から保険適用を一部の適応に限定するよう求める意見も出ました。日本医師会は、承認から原則60日以内に薬価収載するというルールありきではなく、承認の段階から経済性を確認しつつ、承認から薬価収載までを一体的に行うべき、と主張。免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」に端を発する高額薬剤問題では、「最適使用推進ガイドライン」の検討が進んでいます。

 

薬価は製薬企業にとってビジネスの根幹とも言え、ルールの中で可能な限り高いの薬価を得ることは企業の重要な戦略の1つでしょう。しかし、昨今の動きを見ていると、高い薬価を得ることはもはや製薬企業にとってもビジネス上のメリットにはならないのではないか、とさえ思えてなりません。

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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